第十三話:The Exorcism・悪霊退散
地下に入ると、恐ろしいほど近代的なコンクリートで囲まれた広い空間があり、その中央に大きな社が建っている。
これは、男子ならば誰でも心が躍るというものであろう。
「話には聞いてたけどな……ほんまもん見るのは初めてじゃ」
なんと阿部も初めてらしい。
「え?知らないで案内してたの?」
「いや、こんなの初めてや……高校んときの彼女連れて来た時は表で終わったねん」
「高校の時から彼女いたのか……」
私は40歳になるが彼女もいないぞ……
阿部は苦笑して左手を見せる。結婚指輪が薬指に。
「そん時の彼女が今の嫁や……気にするところそこかいな?」
なんか、陰陽師の底力みたいなものが見れるような気がして、少し興奮する。
だが、神主の寺社杜さんと阿部の叔母の安倍春奈さんは真剣な表情だ。
社に前に立ち、寺社杜さんが「靴を脱いで、件のモノを持って中へ」
「あの……」
急に不安になって来て聞く。
寺社杜さんの顔を見て、ちょっと浮かれてた自分が恥ずかしくなる。
「これから何が起きるのでしょうか?」
「依り代になっているその位牌が、『呪物』になっているので、そこに住まう悪霊を呼び戻し、別の器に封印します。その呪物は依り代になっています。元々封印していた札の効力がなく、力の根源になってしまっているのです」
「えっと、では帰ってくる前に壊したりしたら……?」
「悪霊は依り代を失います」
「では、早く壊してしまえば――」
「依り代が無くなった悪霊は、自由を手に入れてより凶悪になる可能性が高いのです」
「それは困りますね……」自分はもう困ってますが……とは言えないか。
「そうです、その場合、最初にターゲットにされたあなたに憑りつくことになるでしょう」
「さ、最悪ですね……」
「はい、ですので、この社を使ってその悪霊をここに引き寄せて、別の依り代に封印します」
「別の依り代……って何ですか?」
「この壺です」
寺社杜さんが徳利の様な壺を見せてくれる。
「なんか……」(昔見ていたテレビアニメの魔人を呼び出す壺そっくりだ……とは言えない)
「んで、今持っているこの依り代はどうすれば……」
「呪物となった位牌は、こちらの三方に乗せよし」
よく鏡餅や玉串を乗せる小さな台を阿部の叔母さんの春奈さんが持って来た。
「まったく……見るもおぞましいね……あんたよく無事ですな」
社の中は4畳半ほどの広さだ。周囲の壁や柱は無垢な檜で組まれている。
美しく厳かだが、比較的新しく見える。新築だろうか?
三方と呼ばれる白木の台の上に呪物扱いになった位牌を置く。
「靖男あんたも入りよし!」「マジかいな……」
叔母さんに言われた阿部も入ってくる。座布団も無い木の板の上に胡坐をかく。
二人でいると微妙な感じだが、一人だったらこの恐怖に耐えられなかったかもしれない。
「けったなことになったでホンマ……」
「すまんな……こんなことになって」
ぷはっ!と阿部が笑いだす。
「あんな、そないなこと気にすることないで……まあ、他人のスマホを拾ってやるちゅうんわ、真面目な近藤ならあり得る話やし、霊もそこんとこ分かっとるんやろな!……オレはお前のそないなところ気に入ってんねんで」
「そう言ってもらえると救われる」
「いや、救ってくれるのは神主の寺社杜さんやな」
「そう言うことじゃなくて……阿部がいなかったら、今頃俺は憑き殺されていたかもしれないし……」
「怖いこと言うな自分……だが、まあこういうのは巡り合わせや。これは運命やったかもしれん」
「男の友情盛り上がっているところ悪いけどな、ええか、よく聞きや」
阿部の叔母さんが、その紫ヘアのアフロエアの下のサングラス越しにこれから起きることを説明する。
「呪物を三方に乗せたら、出来るだけ心静かに待っとき。この空間に悪霊が戻ってきたら、必ずソコに戻ろうとするわ。けどな、社は強力な結界で守られてるさかい、何があっても、あんたたちはひたすら平常心で耐えなあかんで」
「二人で抱き合っててもええんか?」「何やあんたらデキてんのか?」「ちゃうわ!」「ははは……」
冗談を言う阿部にツッコミを入れる叔母さんと苦笑する私。関西人ならではの緊張感緩和の儀式なのか只の慣習なのか……ただ、少しだけ心が軽くなる。
「とにかく絶対に出てくるな。そこで寺社杜神主が、外側で新たな封印のための壺に導き、封殺する」
それだけ言うと、社の入り口を閉める。
キィ、パタン。
金属ではなく木製の扉が閉まる音。
社の中にはちゃんと電源があり、LEDライトが中を照らしている。
このへんも今どきだなと思う。
地下はひんやりしているが、阿部と一緒にこの狭い何もない部屋、いや、台に置かれた呪物はあるが、いよいよ悪霊封印の呪術が始まる。




