第十一話:The Sacred Shinkansen・霊的守護の新幹線
「小宮部長がーー」
福原さんの悲痛な声が聞こえてくる。
「部長がどうしたって?!」
「今日の報告書を出さないと社長の決裁が週明けになっちゃうから、今すぐ出せって……」
「はぁ〜っ」思わず大きなため息が出る。
「小宮部長はじゃあ、元気なんだな?」
「何言ってるんですか?元気ですよ。今日だって近藤さんと会議出て上機嫌だったし、いつもより元気過ぎて怖いくらいよ」
「いや、分かった。ちょっと阿部にも相談してみる」
「いえ、直ぐ戻れって……」
「無理ですよ。今もう品川だし」
「えっ……あ、はい。あの、小宮部長に代わりますね」
福原さんから受話器を受けた小宮部長が太い声で続ける。
「近藤お前何やってんだ?!せっかく今朝のことで褒めてやったところなのに。とにかく、戻りなさい。やることやらずに有給なんか認めるわけないだろう」
「え?いや、はい……しかし」
そこにチケット持った阿部が戻る。
「どないしたんや?」
私はスマホから顔を離して阿部に手短に話す。
「小宮部長がプロジェクト承認の書類が足りないから戻って来いと……」
話終わらないうちに私のスマホを奪う。
「あ、部長お疲れ様です阿部です。必要書類の作成は新幹線移動中に処理しますさかい、問題ありません。必要なフィードバックあるならメールで宜しゅう」
と一気に捲し立てて切ってしまった。
「おま、小宮部長にそんな……」
「いいから行くで」
チケットを渡されて、改札に進む。
◇
東京発新大阪行き新幹線「のぞみ」
駆け込むように乗り込む。
グリーン車の先頭。
出張でもこんないい席使わないのでちょっと気分が上がる。
「なぁ近藤、例のヤツは未だスマホに見えとるか?」
カバンから取り出すと、それは元からそうだったように位牌だった。
黒檀の位牌。
古びた札が貼られている。
地に金文字が書かれているが掠れているのと、札で読めない。
コレをどうやってスマホと勘違いしたのか今となっては謎だ。
というか、こんな見た目のいわく付きの物体を何で持っているのか謎である。
「位牌のままだ」
「そうか。ほならしばらく大丈夫やろか」
「なあ、分かるように説明してくれよ」
「悪いが、オレかて詳しくは分からへん。だが、そいつがあかんヤツと言うのはよーくわかってんねんで」
そうだ、部長からの書類とか言うのを対応せねば。
カバンからノートPCを取り出す。
「そんなもん、必要無いで……多分」
「えっ?!何で?」
「会社出る時小宮部長、『電話に出た』言うてたやろ?」
「そうだな。またしても俺の妹って……」
「あの時取り憑いてたんは、お前やなしに部長に取り憑いとったんや」
「そう言えば……って、ええっ?!」
「本体引ったくってこっち来たからな、アレも焦ってんのや。せやから、呼び戻す必要があってあんな連絡してきたんやろ」
「こ、こわぁ……」
「あと、朝のこと説明してもろたけど、オレ知ってんねん」
「な、何を?タクシーに追い出された話?」
「ちゃうねん。朝な、ビルの喫煙所で話題になってたねん『霊柩車で乗り付けたヤツがおる』ってな」
「は?えっ?!」
「お前がタクシー思って乗っていたんは『霊柩車』やったってことや」
自分の認識しているものが何であるか?は本人の思い込み次第……
あまりの理不尽さと認識の齟齬、思い込みの強さとハイテクとオカルトの境界の無さに眩暈がする。
「ちょっと怖いんだけど……え?俺は昨夜からずっと憑りつかれて、幻覚見ながら踊らされてるってこと?……まさか、朝の人身事故も奴の……この中の奴がやったんか?怖わぎるだろ……」
超常現象が過ぎるだろ……部長もおかしくなった。そういや、お袋も……そして、電車?
「おいおいおい!――じゃあこの新幹線だって!」
「それは大丈夫やろ」
「何で?!」
「あんな、新幹線ちゅうのはやな、天皇陛下も乗車される日本の幹という名のつく車両やで」
「て、天皇陛下を出すか……まあ、でも確かに」
「つまり皇室も利用する車両に霊的な対策をしない訳ないやろ?」
「えっ?!そんな話聞いたことないぞ?」
「わざわざ言わんやろ……だが、知っとるか?新幹線開業以来一度も死亡事故を起こしたことがないねんで?一説には龍脈の上を走って京都御所から富士山、東京までを繋いどるという話もあるくらいや。せやから大丈夫や」
「阿部がそう言うなら、そうなんだろうな……」
「なんや、えらい素直やないか?」
「というか、何を信じればいいのかもう分からん。だから、助けてくれる同期を信じるしかない」
「ははは……嬉しいこと言うてくれるやんけ。オレに惚れるなよ」
「何じゃそりゃ……あるか!」
新幹線は安心というその言葉に救われて、何とか平常心を保ちつつ京都まで阿部とくだらない話をして過ごした。
「京都――京都……お出口は……お忘れ物の無いように」
二時間後、京都駅に立っていた。




