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夜道で拾ったスマホ・The Smartphone-like Object Found on a Dark Road  作者: 黒船雷光


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第十話:Taboo Contamination・禁忌感染

 行ったり来たりで慌ただしい私と阿部に物静かに対応する総務の福原夏美(ふくはら・なつみ)さん。


 ……阿部は「なつみ」と下の名前で呼ぶけど、親しい仲なのだろうか?とか余計な想像をする。

 さっきまで私たちが使っていた小会議室は、午前中のプレゼンで一緒にクライアントと打ち合わせをしていた小宮部長が使っているらしい。


 っていうか、私が拾ったスマホと思っていたものは呪符の付いた位牌……とか、どんな特級呪物(とっきゅう・じゅぶつ)なんだろうか?……ああ、流行りの奴じゃないか。しかし何だよ「妹」ってそんな実在しない存在に成り代わったって顕現できないじゃないか?詳しくは知らないが……



「なつみちゃん、小宮部長にメッセージか何か飛ばして、忘れ物取りに行かせてほしいって連絡してくれへん?」


「え?急ぎですか?……本社との会議だとあまり途中で邪魔するのは……」


「人の命がかかってんねん!」


「それって……冗談……ではなさそうですね」

 すぐに手元のノートPCを操作する。


「チャットを飛ばしました。既読は直ぐついたので反応お待ちください」


 緊迫した表情の阿部。状況が飲み込めない私と総務の福原さん。


「『忘れ物をして大切なものだからすぐに取りに行きます』って送ったら部長が『探しとく』って返ってきました」


「アカン、それ触ったらあかん奴!」

 阿部は会議室まで走り出す。

 私も慌てて付いていく。


 小会議室の前に行くと、小宮部長が出てきて、四角い黒い物体を持っている。


「近藤君、阿部君どうしたのかねそんなに慌てて……このスマホは阿部君かね?」


 阿部は小宮部長を凝視したまま、何も言わない。

 なので私が部長に声を掛ける。


「いえ、私です……部長、ありがとうございます」


「うん。ちょうど、着信があってね……妹さんがかけてきていたよ。『兄をよろしく』ってね……君にあんなかわいい声の妹さんがいたなんてね、ははは。ちょっと会議も中断してしまったよ」


 部長から渡されたのは、阿部が看破してからは確かに位牌だった。

 だが、小宮部長はスマホと認識している。


 静かに私がそれを受け取る。


「部長……近藤の妹さんと、それ以外に何を話されましたか?」

「どうした阿部君。そんな怖い顔をして……いきなり電話が鳴って、会議中だったからね、社長に断って中断してソファの下にあったので拾ったら、近藤君の母の着信だったからね……出たら、若い女性の声だったので、事情を説明したら納得して先の『兄をよろしく』になった感じかな」


「部長は名乗られましたか?」

「そりゃぁ……人の電話に勝手に出たからね……」


「分かりました。可能なら部長の身内からいきなり連絡が来たら出来れば今日一日は無視してください」

「何の話かね?」


「今日これからと明日は有給申請しますんで宜しくお願いします。行くぞ近藤!」


「おい何事だ?!」という小宮部長を無視しして、私たちは取って返してビル前に待たせていたタクシーに乗る。


 タクシーは一路、品川駅に向かう。


「おい……小宮部長も妹の声を聞いたって――」


「せやな……かなりマズイで」


「一体どうなるんだ?」


「わからん。わからんが、せやから分かる人のところに行くんや」


「今からだと……その叔母さんだっけ?京都に行くまで3時間くらい?」


「せや、グリーン車買えると良いけどな……」


「え?指定席で十分なんじゃ?」


「お前、何も分かっとらんな……っつても、オレも専門ちゃうからなぁ。あんな、近藤お前、朝人身事故に巻き込まれた言うてたやろ」


「巻き込まれてない。巻き込まれそうになったってだけで……ってまさか……」


「巻き込まれとるやろ」


「いや、そんな……だって」自分の指先が震えているのが分かる。


 背筋が震える。


 これが悪寒が走るというやつか……


「券は窓口で買うで」

 阿部は勝手知ったる様に新幹線チケット売り場に進む。


「京都まで二人、グリーン車で。ほんで、可能ならな……」

 阿部が色々細かいことを説明している。オペレーターのお姉さんが引っ込んでちょっと偉そうな人が出てきて対応している。


 私は少し離れたところからそれを眺めている。


 ピリリリ……ピリリリィ!!


 昨夜から何回心臓が痛むようなビックリを繰り返しているのか!!と呆れるくらいまたビックリする。


 慌ててあの位牌を……


 阿部が急にこちらを振り向いて大声で制する。

「あかん!!アカンで近藤!!それに出たらアカン!!迷惑や思うても出たらアカンで――」


 そんなこといってもなかなかの迷惑だ……せめて音が小さく聞こえるようにジャケットを脱いで包んだらどうだろうか?とか考えながら悪戦苦闘する。


 ん?何かおかしい……


 鳴っているのは自分のスマホであった。


 通知は「会社」と出ている。総務からだろう……

「おい、阿部!会社からだ。オレの携帯。出てもいいか?」


 阿部は振り向いて手を振る。それどっちだよ……出ていいのか悪いのか分からんぞ。

「でて、いいのか?それともダメか?」というジェスチャーをする。


 阿部はカードでチケット料金を精算しながら、取っていいというジェスチャーを返す。


 出ると、やはり福原さんからで、そこから聞いた言葉が衝撃だった。


「大変です、近藤さん……小宮部長が――!!」

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