第7話 初めての魔法実技です!
しばらくして『スーパー騎士団長(仮)』の彫像は撤去されていた。実際には身体強化が切れて動けるようになったのだろう。
命令は身体強化の魔力に対して感染するので、身体強化を切れば解けてしまう。もっとも、あの手のタイプは感情によって無意識に身体強化をかけてしまうため、気持ちが落ち着くか力尽きるまで動けなかったに違いない。
「えー、騎士団長が本日、学園で『急性石化症』を発症してしまった。突発的に体が固まってしまうことがある病気だ。感染するものではないと思われるが、騎士団長を見てしまったものは、本日検査を受けること」
さっそく、学園は揉み消しに動いたようだ。さすがに公式の試合ではないとはいえ、一国の騎士団長が15歳の少女に手も足も出なかったとなれば、面目も丸つぶれだろう。
動けなくなった状態を見せたのも、病気だという嘘の情報を広めるためだと考えれば納得がいく。
「検査ですか、どうしましょう」
「何かあるんですか?」
「先日の埋め合わせとして、今日の放課後、一緒に喫茶店に行きたいと思ってましたの。すでに予約も入れていて──」
しかし、検査と聞いて困った表情を浮かべたフェイリアに、不思議に思って尋ねてみると埋め合わせをするという話から、放課後に喫茶店へ行く計画をしていたらしい。
その予定が、ほぼ全員を対象にした検査の実施──どうせ中身は簡単な問診程度だろうけど、フェイリアには知る由もない。受けるのも上級生が先だろうから、放課後までに終わらないかもしれない。そう考えるのも無理はなかった。
「いいね。放課後楽しみにしてるよ」
「えっ、でも検査──」
「見たかどうかなんてわからないし、最悪受けなくても大丈夫でしょ。それよりも喫茶店だよ」
「そ、そう言えばそうですよね。では、放課後楽しみにしておりますね」
戸惑うフェイリアを強引に納得させ、約束を取り付ける。そもそも見たかどうかなど自己申告だ。病気だと脅せば、『かもしれない』と思った人は受けようとする。しかし、事実を知っている私には通用しない。『見ていない』と言い張れば済む話だった。
『1-A、ルミナ・ムーングロウさん。特別検査を実施するので、学園長室へ来るように』
放課後、そんな私のプランをぶち壊す放送が流された。放送がほぼ全員に聞かれた時点で回避不能。なぜなら、私が感染している可能性が高いという認識を植え付けられてしまったからだ。
これで検査を回避しようとしたら、感染者のレッテルを貼られたまま。まともな学園生活など送れなくなってしまう。当然、フェイリアも放送を聞いていたわけで、心配そうな表情を浮かべていた。
「ルミナさん。大丈夫でしょうか?」
「たぶん大丈夫だよ。念のためってことじゃないかな。すぐ戻ってくるから待ってて」
「わかりました。お気を付けてくださいね」
楽しみにしていた喫茶店にお預けを食らって気分は最悪だ。学園長室に入ると、すでに学園長とシャルルが暗い顔をして座っていた。
「これはどういうことですか?」
「どういうことも、全部お前のせいだろうが! おかげでずっと後処理に追われて大変だったんだぞ!」
「そんなことを言っても、最初に仕掛けてきたのはあっちじゃない」
実際に不正があると難癖付けてきたのは騎士団長の方。シャルルや学園長の説得にも耳を傾けず自分の主張だけを押し通そうとしたのだから、情状酌量の余地もない。
「まあ……私たちも君に厄介ごとを押し付けるつもりはない。ただ、騎士団長も貴族の端くれ。何をしてくるのか正直読めないところがある。それだけは気にかけておいた方がいいだろう」
「わかりました。それじゃあ、予定があるので失礼しますね」
「あ、おい!」
話が終わって颯爽と学園長室を後にする。何やらシャルルが言おうとしていたけど、フェイリアの約束の方を優先するに決まっている。
「終わったよ」
「早いですわね。それでは参りましょうか」
すでに検査を受けて簡単な問診だけと知っている生徒も少なくない。フェイリアは早いと言っていたが、特に周囲から訝しむ様子は見られなかった。
その後は、フェイリアと喫茶店で紅茶とお菓子を堪能しながら楽しい時を過ごした。この時、笑顔で談笑していたフェイリアが抱えている不安について相談しようとしていたことを知るのは翌日のことになる。
翌日、編入して初めての魔法実技の授業。どのような高度な訓練方法が出てくるのか楽しみで、昨日はよく眠れなかった。ふと隣を見れば、不安そうな表情で自らの手を握り締めるフェイリアの姿があった。
「大丈夫?」
「ええ、問題ありませんわ」
「顔色が良くないみたいだけど、休んだ方がいいんじゃない?」
「いえ、是非ともルミナさんには見ていただきたいのです」
授業を担当するベテラン教師は、まず二人一組を作るように指示してきた。せっかくなので、フェイリアとペアを組もうとしたところ、彼女の方もそのつもりだったらしく、あっさりとペアが決まった。
「ふん、落ちこぼれ同士で組むなんて、揃って落第するつもりか?」
「誰? 聖女の取り巻き、その4ってのはわかるけど。別に関係ないよね?」
なぜか聖女の取り巻きの一人が絡んできたけど、別に私やフェイリアがたとえ落ちこぼれだったとしても、この男には関係ないはずなんだけど。面倒なので適当に追い払おうとしたら、地団駄を踏んで怒り出した。
「なんだ、そのふざけた覚え方は! 僕の名前はスーフェン。魔術師団長の父を持つ、次期魔術師団長の筆頭候補だ!」
「なるほど、結局は親の七光ということだね。わかったから、あっち行ってて」
自分は凄いアピールをしているつもりなんだろうけど、凄いのは親の方だろう。適当に追い返そうとしたら、さらに怒り出した。ウーズといい、騎士団長といい、スーフェンといい、キレやすすぎじゃないか。
スーフェンが何か言おうとしたところで、ちょうどベテラン教師が説明を始める。
「ペアができたら、適当に好きな魔法でマトに当てていくように。それと並行して、魔法による模擬戦を行う。とりあえず、お手本として──」
「はい、やらせていただきます!」
模擬戦に早々に立候補したのはスーフェンだった。さすがは次期魔術師団長、意識が高い。
「あともう一人は──」
「そこの編入生などいいんじゃないでしょうか」
そう言いながら、私に向かってスーフェンが指を差す。意識高くないんだけど。
「じゃあ、お前たち。前に出てこい!」
「めんどくさいな」
「ウーズにどうやって勝ったか知らんが、ウーズは僕たちの中でも最弱。同じように行くとは思わんことだ」
しかたなく前に出て、スーフェンと離れた位置で向かい合う。
「言っておくが、身体強化みたいな魔法モドキは認めんからな!」
「そうすると、あとでシャルル先生に怒られてしまうんですけど」
ウーズや騎士団長に使った魔力感染は見た目は地味だけど殺傷能力はほとんどない。しかし、それ以外となると、力加減をミスったら死人が出てしまう。授業中とはいえスーフェンが死んだらシャルルに間違いなく怒られるだろう。
「言い訳などいらん! それとも勝てないとでも言うのか? 降参を認めんこともないぞ」
「いえ、先生が責任をもってシャルル先生を説得してくれればいいです」
「そんなことか、いくらでも説得してやるわ! わかったら、さっさと始めろ!」
「あ、あともう一つ。念のため防御魔法をスーフェンにかけてもらえますか?」
さすがに殺すつもりはなくても万一があるかもしれない。そう思って提案したのだけど、先生もスーフェンもポカンとしていた。そして、揃って大声で笑い出した。
「はっはっは、魔力量3の魔法で僕がやられるとでも思うのか? バカにするのもいい加減にしろ!」
「ははは、そうだぞ。そもそも制服の防御魔法を貫通できるかどうかも怪しいだろう」
たしかに制服にも防御魔法が付与されているらしく、ある程度の魔法は防げるという触れ込みだった。手加減もするし、最悪死ぬことはないだろう。
「わかりました。では、このまま始めましょう」
こうして、スーフェンとの模擬戦の火ぶたが切って落とされた。




