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第4話 Aクラスはエリートの集まりのはずじゃないですか?

 翌朝、初日ということもあって、大きな欠伸をしながら朝イチで学園へと歩いていた。


「ふわぁぁ、眠い……早起きなんて滅多にしないからなぁ」


 普段は研究所にこもって魔法の研究をしていたせいで夜の方が頭が冴える。でも、学園に通うからには、何とか朝型に変えていかないといけない。


「最初のうちは寝落ちしてもしかたないよね」


 自分にいいわけをするようにつぶやいた。学園からしたら、そんなワケあるか、と言われそうだ。しかし、いきなり健康的な生活をしろと言われても無理だろう。


「学園とか通うの初めてだからな。どんな授業をやるのか楽しみだわ」


 今日はまだ、眠気よりも授業への期待が高いから起きていられそうな感覚はある。あとは授業が期待通りであることを祈るのみだった。


「おはようございます」

「おはよう、ちゃんと来たな」


 職員室の前でシャルルと合流して教室へと向かう。『1-A』という看板がある扉を開けて、中へ入ると、さすがはエリートと呼ばれるだけあって、真面目そうな人がほとんどだった。


「さすがはAクラス。優秀そうな人ばかりですね」

「お前、意図的にあそこを見ないようにしているだろ」


 隣にいる私にだけ聞こえるように、シャルルが小声で話しかけてきた。あそこというのは、教卓から向かって手前左の席のこと。エリートっぽい雰囲気があるAクラスにあって、そこだけが異質な雰囲気を醸し出していた。


 3列の中央にいるのが、おそらく聖女と第一王子だろう。聖女はピンクブロンドの髪をツインテールにしていて、蔑むような目で私を見ていた。第一王子の方はありきたりな金髪碧眼で、私だけでなく先生の存在すらも無視して隣の聖女とおしゃべりに興じていた。


 二人を囲むように前後に二人ずつ男が座っていて、前の列右側に座っているガラの悪い大男がにらんでくる。


「ッチ、見せもんじゃねえぞ」

「別に見たくないけど?」

「あんだと!」


 どこからどう見ても、底辺の学校にいそうな不良にしか見えない。


「あれがAクラスなんですか?」

「親が騎士団長だからな。無下にはできないんだよ。前にも言ったように、あまり関わらないでくれ」


 顔を正面に向けたまま、小声でシャルルと会話をする。話しぶりからして、彼女もだいぶ手を焼いているようだ。


「はい、こちらが今日から一緒に勉強していくルミナさんです」

「ルミナ・ムーングロウと言います。よろしくお願いします」

「ルミナさんの席は──フェイリアさんの隣でいいかな?」


 偶然とはいえ、フェイリアの隣になるとは運がいい。何としても、これを機にお近づきになりたいところだけど──そんな思惑を顔に出さないようにしながら、席へと向かう。すると、先ほどの騎士団長の息子が絡んできた。


「おいおい、そいつの隣なんて運がないな。ま、誰も行きたがらないからしょうがないけどよ。せいぜい、今年いっぱいは辛抱することだな」

「そんなことありませんけど。ガラの悪いバカの隣よりは百倍マシだわ」

「あんだと!」


 本当に親が騎士団長なのかと疑いたくなる。親がゴロツキのボスと言われた方がしっくりくるような男だった。


「フェイリアさん、よろしくお願いしますね」

「よろしくお願いしますわ。でも、私の隣でいいんですの?」

「もちろん、大歓迎ですよ。あっちの席に行けと言われたら絶望しかありませんけどね」

「ふふふ、ずいぶんはっきりと仰るのですね」


 私の歯に衣着せぬ物言いにフェイリアは先ほどまでの硬い表情とは裏腹に柔らかく微笑んだ。


 私が席についてから少し話をしてシャルルは教室から出ていった。王太子と聖女は関係ないとばかりに談笑を続けていたが、二人の下品な笑い方をフェイリアと見比べると格の違いを感じざるを得ない。


「あれで第一王子なんでしょ? 先行き不安しかないわ」

「本来なら、婚約者である私がお諫めすべきなのでしょうけど、なかなか話を聞いていただけないのですよね」


 フェイリアは婚約者というより王国の未来を憂いているように見えた。外野の私から見ても、王国の未来は暗く見えるのだから、婚約者である彼女はより一層、そのように感じているに違いない。


 しばらくすると、別の教師が入ってきて一限目が始まる。どんな凄いことを教えてもらえるのかと思っていたら、魔法に関して極めて基礎的な内容だった。


「ま、一年だし、こんなものかな」

「ルミナさん。授業はちゃんと聞かないとダメですわ」

「そうは言っても、全部知ってる内容だしね」

「そうなんですか? もしかして、どこかの学校を卒業しているとか……」


 魔法についての知識があると、よく聞かれること。毎度のことながら、どう答えたものか悩みの尽きない問いかけだった。


「そうだなぁ。少なくとも、学校には通っていないかな。すべて独学だよ」

「独学ですか」

「おいこら、そこ! お喋りしないで授業を聞け! 聞く必要がないって言うなら、この問題を解いてみろ!」


 授業でやっている内容とはかけ離れた難易度の問題を板書して解くように言ってきた。そもそも、お喋り云々と言うなら、聖女と第一王子の方も指摘すべきなのに、そちらには目もくれていない。


「解けませんよ」

「ふん、授業をサボってお喋りしておきながら、分かっていないとは──」

「分からない、とは言ってません。解けない、と言っているんです」

「何をバカなことを──」

「この問題の場合、アルファの係数は最低でも3.75以上は必要ではありませんか?」

「ふん、口から出まかせを──あっ!」


 教師の方も、ようやく自分の間違いに気付いたらしい。顔を真っ赤にしながら、勢いよく出した問題を消していく。


「ちょっと座学が詳しいからっていい気になるなよ。魔力量3のくせに!」

「そこまで言うなら、この問題を解いてみてくださいよ」

「なっ、そ、それこそ解けるわけがないだろうが!」

「解けますよ」


 それならばと書いたものは教師の書いた問題と同じ理屈のもの。ただし、より高度な理論を必要とするため、知らない人間には解けない。


 逆ギレする教師を放って、サラサラと解答を書いていく。最短経路の解法ではあるが、それでも長い。


「な、な、な……」

「ほら、解けましたよね?」

「知らん! ワシの授業を邪魔しおって、不愉快だ! あとは自習にしろ!」


 それなりに勉強をしている人なら、私の解法が正しいことを理解できる。もちろん、教師も同じ。だが、見下している私にやり返されたのが気に入らないらしく、怒って教室から出ていってしまった。


「凄いですわ、ルミナさん」

「少しだけ詳しいだけですよ」

「でも、授業は真面目に受けましょうね」


 フェイリアにたしなめられて、それ以降の授業は大人しく受けることにした。もちろん、聖女と第一王子の周りは相変わらず騒がしいのだけど、そのことには誰ひとり触れようとしなかった。


 こうして大きな問題もなく一日が終わる──と思っていた。


「おい、新入り。調子に乗ってんじゃねえぞ!」


 わざわざ私の席まで来て喧嘩を売ってきた騎士団長の息子──ウーズ・フィフスブレイドに絡まれるまでは。

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