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第3話 魔法学園と精霊信仰

 編入試験の結果を聞くため、学園の職員室にて試験官であるシャルルと合流した私は、そのまま面談室へと向かう。


「来たか。結果は期待通りとだけ言っておく。詳しい話は面談室でさせてもらう。流石にここは人目が多すぎるからな」

「わかりました」


 シャルルに連れられて面談室へと向かう。狭い個室ではあるが、防音はしっかりしているらしい。それだけに飽き足らず、シャルルは防音魔法のための風魔法を使い、部屋全体を覆う。


「これで外から聞かれることもないだろう。さっそく本題に入るが、編入試験の結果は合格だ」

「やった!」

「だが、今後はあまり無茶するんじゃないぞ。危うく私の給料まで吹き飛ぶところだったんだからな!」


 シャルルは胃を押さえながら試験の時に使った時の魔法に文句を言ってきた。しかし、自分がけしかけたという認識はあるらしく、すぐに勢いをなくしてため息を吐いた。


「はぁぁ。もしかしたら、他の教師が難癖付けてくるかもしれないが、二度とバカなマネをするんじゃないぞ!」

「反対した人もいた、ということですか?」

「ああ、魔力量3だったからな。魔法学園に相応しくないと考えている教師もいる」

「なるほど。魔力量が低くても、凄い魔法が使えることをアピールしろ、ということですね!」

「違うわ! たしかに学園の制服には物理と魔法の防御魔法が付与されているが、そこまで強力ではないからな。この間のようなことをしたら死人が出るぞ!」

「イヤですね。私を何だと思ってるんですか。さすがに人が死ぬようなことはしませんよ」

「これほど信用できない言い訳も珍しいな。まあいい、それは置いておいて──今後の話だな」

「今後?」


 少し歯切れの悪いシャルルの言い方が引っ掛かって聞き返してしまった。彼女の方も、重くとらえられすぎたと感じたのか、両手を胸の間で振って否定する。


「いやいや、そんな大げさなものじゃない。編入クラスだが、学園長の一声で1年Aクラスになった。原則として、優秀な順にA、B、C、Dとクラス分けしているのだが……」

「原則、ということは、例外があるということですよね?」

「ああ、親が上位貴族だったり、王国の重鎮だった場合、能力が足りなくてもAクラスに入ることになっている」


 別に珍しい話でもない。王家の人間がDクラスでした、では他の貴族にも示しがつかないだろうし。本当に無能すぎてDクラスに落とされた王族がいないわけではないが。


「1年のAクラスには、第一王子と宰相、大司教、魔術師団長、騎士団長のそれぞれの息子が在籍している。年齢は違うが、将来の側近候補ということで、第一王子に合わせて入学してきた連中だ」

「そいつらが徒党を組んで暴れているとかじゃないですよね?」


 大したことない連中でも、数の力は強く侮れない。それが権力者であればなおさらだ。


 しかし、予想を裏切ってシャルルは首を横に振った。


「そのクラスには元平民の聖女もいるんだが──」

「なるほど、そのボンクラどもが聖女に浮気をしているということですね」

「お前なぁ、下手したら不敬罪になるぞ? まあ、事実ではあるんだが……」


 シャルルの歯切れの悪い言葉に不思議に思っていると、少しだけ躊躇っていたシャルルが大きくため息を吐いた。


「はぁぁ。そいつらは聖女が絡むと途端に厄介になるから、気を付けろということだ」

「なんかクスリでも盛られてるんじゃないですか?」

「おいおい、少しは自重しろよ。まあ早い段階で、可能性には気付いていたが、調べても特に怪しいものは検出されなかったらしい」


 アレクシスの依頼は聖女をスカウトして来い、というもの。しかし話を聞けば聞くほど、やる気が削がれる話しか出てこない。ひとまず、依頼の話はパーッと忘れることにして、学園生活を楽しむ方向へと切り替える。


「それじゃあ、寮の説明に入るぞ。これは寮の規則が書いてある。こちらは入寮届だ。大丈夫だとは思うが、規則に同意するかどうかの確認も付いているから、ちゃんと読むようにな」

「はいはい、おけおけ、と」

「お前なぁ、教師の前でも平然とやるなよ」


 入寮届といっても、名前と年齢、性別といったありふれたものと、規則に同意するかのチェックしかないシンプルなものだった。正直、希望理由を書けと言われたら、ペンを投げる自信がある。


 チェックも規則などいちいち読まずにチェックを入れる。そもそも、こういう規約とか規則って真面目に読んでいる人などいるのだろうか。もちろん、シャルルは苦笑していたが、厳しく言うようなことはなかった。


「まあいいか。繰り返すが、規則はあとでいいからちゃんと読んでおけよ。知らなかったじゃ済まされない場合もあるんだからな」

「わかってますって!」

「どう見ても、わかったように見えないのだが……まあいい、これが寮の鍵だ。305号室だぞ」

「ありがとうございます!」


 鍵を受け取って、さっそく寮へと向かう。校舎から寮へは森を抜けて少し離れたところにあった。


 木漏れ日の降り注ぐ道を歩いていくと、澄んだ空気が頬を撫でる。


「うん? これは──」


 寮へと続く道の途中でふと足を止める。


「空気……いや、魔力の質が変わった」


 魔力量が少ないこともあって、空気中に含まれるわずかな魔力の変化も感じ取ることができる。もっと強い──たとえば神気や瘴気といったものであればイヤでもわかるのだけど。


「神気ほどではないが、だいぶ強い。いったい、この先に何があるんだろう」


 発信元を探りながら、森の中を進んでいく。しばらく歩いていくと広場があって中央に祠のようなものが設置されていた。


「あれは──フェイリア?」


 背後からではあるが、特徴的な黒い髪は見間違えようがない。昨日、2人の少女に詰め寄られていた少女が祠の前で祈りを捧げていた。


 そんな彼女を数えきれないほどの小鳥が取り囲んでいて、彼女の祈りという舞台を見守る観客のようにも見える。


「小鳥に見える。けど、あれは精霊じゃないかな?」


 精霊の存在はよく分かっていない。自然が豊かなところほど多く見かけることから、意思を持った魔法のようなものと考えられている。


 神殿のある国は原則として神殿に祭られている神を信奉しているが、個人として精霊を信仰している者も少なくない。おそらくはフェイリアも似たようなものだろう。


「それにしては精霊の数が多すぎる気が……もしかしてユニーク持ちだったりして」


 ごくまれにユニークと呼ばれる特殊能力を持つことがある。いずれのユニークも強力ではあるが、同時にデメリットも大きい。多くの人にとっては憧れでもあるユニークだけど、実際に持っている人から見ればつらいことも少なくない。


「精霊に関わるユニークなら、聖女より貴重かもしれない。いっそのこと聖女じゃなくて、フェイリアをスカウトしようかな」


 依頼ではあるものの、聖女をスカウトする気はまったくない。適当に学園生活を満喫して「やっぱりダメでした」と言うつもりだったけど、フェイリアなら頑張ってスカウトする価値はある。


 無理強いはしないけど、機会があれば仲良くなろうと思いながら、静かにその場所を後にして寮へと向かった。


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