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第18話 両親への挨拶

 無事に自由を手に入れたフェイリアと共に公爵家のタウンハウスへと馬車を走らせる。


「よかったですわ。ルミナさんと一緒に行けるなんて。一人だけで先に行く羽目になったらどうしようかと思ってましたわ」

「うんうん、そうだね。でも、その心配はいらないかな」

「ええ、偶然の導きに感謝ですわ」


 微妙にかみ合わない会話を続ける私とフェイリアの乗った馬車がタウンハウスに入ると、筋骨隆々の男が上半身裸で仁王立ちになっていた。


「なにこれ?」

「お父様、どういうつもりですか?!」

「なに、お前が認めたヤツの力量を見せてもらうだけだ」

「そんな、お父様に勝てるわけがありませんわ! ルミナさんは私の客人なんですよ!」

「大げさに考える必要はない。晩餐まで時間があるからな、食前の運動というわけだ。どうだ?」


 そう言いながら、クローネル公爵は私の方を見る。目の前にいるのは魔法王国の武神と呼ばれる男。興味がないと言われれば嘘になる。


「いいですね。でも、お手柔らかに願いますよ」

「ハハッ、冗談が上手いじゃないか。『本気』を出してくれてもいいんだぞ?」

「そちらこそ、ご冗談を私の『本気』にどれほどリスクがあるか、わかっているのでは?」

「ああ。残念だが、今回はこのままで試させてもらうとしよう」


 一瞬にして目の前に移動してきた公爵が私めがけて拳を振り下ろす。咄嗟に身を引いて回避すると、彼の拳が容赦なく地面を抉り取る。


「冗談、当たったら死ぬわ」

「当たらなければどうということもない、とでも言うのだろう?」

「私のセリフを横取りしないで」


 容赦ない連撃の合間を縫って、魔力崩壊させた魔石を投げつける。しかし、公爵はそれをつかみ取り、「ふん!」という掛け声と共に粉々に粉砕してしまった。


「マジか。そう来るとは思わなかったわ」

「ふはははは。なかなかやるが、まだまだだな」


 反撃をあっさり粉砕した公爵が距離を詰め、丸太のような膝が脇腹を抉ろうと迫ってくる。わずかに身を引いてかわすも、かわした先で彼の組まれた両手が頭上から私の脳天を狙いすましていた。


「油断したな」

「くっ!」


 直感的に、食らえばただでは済まないことを理解する。半ば無意識のうちに、私は『それ』を私の魔力から切り離した。


「えっ、ルミナさん?!」


 私の体からあふれ出る魔力にフェイリアが驚きの声を上げた。何しろ、今の私の魔力量はフェイリアですら足元にも及ばないほど膨大。


 有り余る魔力を身体強化に当てる。光速の域に達した私の身体は公爵の攻撃を難なくかわした。


 それで終わりだと思っては困る。魔力の一部を雷に変換して拳にまとわせ、攻撃を空振りして隙だらけになった公爵のみぞおちに叩きこんだ。


「ぐおぉぉぉ!」

「いけぇぇぇ!」


 公爵も必死の抵抗を試みる。しかし、今の私の力の前に抵抗空しく、屋敷を取り囲む壁までまっすぐに吹き飛ばされた。


「はあはあ……」


 すぐに『それ』と私の魔力をつなぐ。切り離された『それ』は代償として私の生命を食らうからだ。ほんのわずかな時間しか切り離していないのに、足に力が入らないほど疲弊していた。


「ふははは、いいぞ!」


 瓦礫となった壁から公爵が這い出てきた。かすり傷程度は付いているけれども、ほとんど無傷の状態で余裕の笑み──いや、歓喜の笑みを浮かべている。


「化け物かよ」

「クハハハハ、お前が言うか! だが、これで終わりではあるまい」

「まだやる気ですか……」


 いい加減、相手をするのが面倒になってきたけれども、公爵の方は終わりにするつもりはないようだった。しかし公爵が構えた瞬間、彼の頭上から巨大な岩塊が降ってきた。


「何をやっているの! この人はフェイリアのお客さんでしょう?」

「す、すまん、つい出来心で──」

「強そうな相手を見つけては、手当たり次第に喧嘩を売るのは止めなさいと、何度言ったらわかるんですか!」

「わ、わかった。わかったから!」

「わかったなら行きますよ。まったく、そんな格好で晩餐に出るつもりじゃないですよね?!」


 武神と呼ばれた男が、借りてきた猫のように引きずられていく姿に何とも言えない気持ちになる。戸惑っていると、フェイリアが苦笑いを浮かべながら教えてくれた。


「父は武神と呼ばれていますけど、実は母も魔神と呼ばれるほど魔法が得意なんです。もっとも、ルミナさんほどではありませんけど」

「な、なるほど……」


 闇の申し子と呼ばれて蔑まれているにも関わらず、第一王子がフェイリアとの婚約した理由を察した。王国の2大戦力を持つ公爵家と縁を持ちたいと思うのは当然だろう。


 その後は部屋に案内され、風呂に入って用意してもらった別のドレスに着替える。


 さほど待つことなく、晩餐の準備ができたと執事が呼びに来てくれたので、彼に付いて食堂へと向かった。何しろ、第一王子の断罪のせいで料理を食べ損ねた上に、『それ』に生命を食われたため、もはや空腹で限界だった。


「こ、これはいったい……」


 料理を食べ尽くす気満々で晩餐を迎えた私は、目の前に並んだ料理に言葉を失った。何しろ、無駄に広いと思っていたテーブルの前には、先ほどのビュッフェと遜色のない大量の料理が各々の席の前に置かれたからだ。


「まだまだたくさんある。遠慮せずに食べるがいい。たくさん食べないと強くなれないからな!」


 遠慮と言われても、そびえ立つ山盛りの料理を前にどうしろと言うのだろうか。たしかに空腹ではあるけど、食べきれる自信は欠片もなかった。


 ──うっ、やっぱり無理!


 食べても食べても減ることのないパスタに辟易する。山盛りに盛られた具材でお腹いっぱいになる頃にようやく麺が見えてきた時の絶望感が半端ない。


 とある古文書に記された伝説のパスタの記憶が蘇る。そこには秘伝の呪文として『ニンニクヤサイマシマシ、アブラカラメ』という言葉が記されていた。しかし今は、そんなことはどうでもいい。目の前の強敵を何とかしなければならないのだから。


「あっ、もう、無理……」


 お腹と同時に気力が限界を迎えて、テーブルの上に突っ伏した。行儀が悪いと言われるかもしれないけど、そんなことを気にする余裕すら残っていない。


「このくらいでヘタるなんて情けねえな!」

「お父様、ルミナさんは我が家に初めていらしたのですよ!」

「強くなりてぇなら、死ぬ気で喰らえ!」

「あ・な・た。女の子に強要するなと言いましたよね?」

「あ、う、すまねぇ! お前さんがあまりに強かったから熱くなっちまった!」


 危うく限界以上に食べさせられるところだったが、公爵夫人がとりなしてくれたおかげで楽しく食事を終えることができた。


「しかし、フェイリアちゃんが国外に行くなんて、寂しくなるわねぇ」

「国外追放されてしまいましたし、ルミナさんに付いていって鍛え直したいんです!」

「ほぅ、いい心がけじゃないか。ルミナとやら、娘をよろしく頼んだぞ!」

「もちろんです」

「何かあれば、うちを頼るといい。俺たちも力になってやろう」

「ありがとうございます!」


 フェイリアだけでなく、王国最強戦力である2人の協力も得られるとなると心強い。いきなり戦うことになって後悔したけど、結果的にいい方向に話が進んだ。


 翌日、フェイリアは両親に別れを告げ、私と一緒に港へと向かう。行きは安い乗合馬車に乗る羽目になったけど、帰りは公爵家で馬車を出してくれたおかげで、快適な旅となりそうだ。


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