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第19話 ユニークスキル

 馬車の旅は快適で、何の問題もなく翌日には港までたどり着いた。


「それでは、お嬢様もお気をつけて」

「他のみんなにもよろしく言っておいてくださいませ」

「かしこまりました。ルミナ様も、お嬢様をよろしくお願いいたします」

「まかせて!」


 最後の別れを付いてきた家令にして、馬車を見送った。


「それじゃあ、船のチケットを取ってくるね」

「あ、私も行きます。えっと、自分で買ってみたいので──」


 これからは自分でという意気込みもあるのだろうけど、それ以上に籠の中から解き放たれた実感を得たいという想いが強いのだろう。彼女の目の輝きは、初めてのことをするという期待の表れのように感じられた。


「それじゃあ──窓口に行って、まずは『一番いいのを頼む』と、次に人数を聞かれたら2人と応えてね。最後に金額を確認されるから『大丈夫だ、問題ない』って答えるの。それで、この袋に入ったお金を渡せばOKだよ」

「わ、わかりました。やってみます!」


 金貨が6枚入った袋を渡してフェイリアを送り出す。遠くから様子をうかがってみたけど、特に問題なかった。


「ルミナさん! 無事に買えました!」

「おつかれ、バッチリだよ」


 まるで子供のように、フェイリアはチケットを買えたと嬉しそうに報告してきた。その表情から、私にほめて欲しいと訴えていることに気付いて、あえて口にしてよくできたと伝える。


 無事に乗船して、一等客室でのんびりと過ごしていると、扉がノックされた。


「ルミナさん、起きてらっしゃいますか?」

「ああ、すぐ開けるよ」


 鍵を開け、フェイリアを中へと招き入れる。ソファに座るようにうながすと、フェイリアは後ろ手で入口の扉に鍵を掛けた。


「な、何?」

「折り入って話があります」


 覚悟を決めたような真剣な表情からは、とてもじゃないけど話だけをするようには見えなかった。そもそも話をするだけであれば、わざわざ鍵を掛ける必要などない。


 フェイリアはソファに座らず、つかつかと私の方へと歩み寄ってきて、まるで息がかかりそうな距離まで顔を近づけてきた。


「何の話? 話だけだよね?」

「話だけ、では済まないかもしれません」


 いったい何をするつもりだと問い詰めたくても、少し動いたら唇同士が触れ合いそうな距離に感じられ、声が出せなくなっていた。


 女の子同士だから警戒する必要はないと頭では理解しているけど、心臓の鼓動がいつになく早くリズムを刻んでいる。


「あぅ……」


 頭の中が真っ白になりながら、何か言わなきゃと必死で頭を働かせる。しかし、その全てが空回りするだけだった。彼女の瞳が、私の目をまっすぐに見つめている。そして、おもむろに彼女は口を開いた。


「あの時の魔力、あれはいったい何だったのですか?」

「へ、魔力?」

「そうです。ルミナさんは魔力量が3だったはずですよね? いくら技術があるとはいえ、父の全力を回避できるほどの身体強化は不可能なはずです」


 あっさり気付かれるとは思ってなかった。たしかに公爵の攻撃を回避するのは、魔力量3では不可能。やむを得ず、『それ』を切り離して作った魔力を身体強化につぎ込んだ。しかし、一瞬のことである。まさかフェイリアが気付いていたとは予想外だった。


「気付いたと思うけど、私の魔力はもともと3じゃないんだよね」

「それじゃあ、何で無能なフリを──」

「でも、別にフリをしていたわけじゃないんだ」

「えっ、それじゃあ何で……」


 フェイリアには、フリでもないのに無能だと見せていたことがにわかには信じられないように見えた。普段なら、この先の話は求められても適当にあしらうだけ。なぜなら理解できないから。でも、同じ立場のフェイリアなら理解してもらえるだろうと思い、正直に話すことにした。


「少し長くなるから、まずは座って落ち着こう」


 あらためてフェイリアに座るように伝える。私に話すつもりがあることを理解したらしく、チラリと私の目を見てからソファに腰かけた。


 私も一度、大きく深呼吸をして彼女の向かい側に座る。


「ユニークスキルって知ってる?」

「ユニークスキル?」


 唐突に登場した単語にフェイリアは不思議そうに首をかしげた。もっとも彼女とも無関係ではないのだけど。


「わかりやすく言えば特殊能力になるのかな。努力では決して再現することのできない能力があって、まれに生まれつき持っている人がいるんだよ」

「なるほど、ルミナさんの魔力量が3なのはユニークスキルによるものだと」

「そうそう、ユニークスキルは強力ではあるんだけど、同時にデメリットも存在するんだ。私の場合は魔力量のほとんどを欠損しちゃうんだよね」

「でも、あの時の魔力量は──」


 フェイリアは両親の影響からか柔軟な思考を持っている。そのため、これくらいの説明だけで理解してくれる。一方で、理解できるからこそ一時的にも魔力量を上げられたことが理解できないようだ。


「その人の性質に近いものだから、デメリットを回避する方法は基本的にはない。だけど、デメリットの原理を理解できれば回避する方法はあるんだ」

「デメリットの原理……」

「たとえば、私の魔力量が3なのは、魔力の大半をユニークスキルが食べてしまうからなんだよね。だから、ユニークスキルの本体を自身の魔力から切り離せば魔力量が上がる」

「それなら、ずっと切り離せばいいのでは?」

「それは無理なんだ。私のユニークスキルは物凄い消費が激しくてね。魔力から切り離すと代わりに生命力を食べてしまうんだ」


 フェイリアは、私の言葉の意味を理解して、顔面蒼白になりながら口を手で覆った。


「それって、もしかして死──」

「そうだね。切り離し続けたら生命力を喰い尽くされて死んでしまう。だから普段は魔力量が3のまま。不便ではあるけど、魔力量が3でも十分戦えるし、よほどのことじゃない限り切り離したりはしない」

「それじゃあ、さっきは……」

「ああ、そのまま食らってたらヤバいことになってたと思うよ」

「す、すみません。父のせいで」


 公爵は久々に骨のある相手と戦えたと純粋に喜んでいたけど、私には食らったら終わりというものだった。もっとも、久々に全力で戦えたので悪い気はしない。何しろ学園の連中相手に全力を出したら死んでしまう。


「別に気にしていないからいいよ。それで私についての話は終わり。次はフェイリアさんの番」

「私、ですか?」

「うん、実はフェイリアさんもユニークスキル持ちなんだよね」

「えっ、そ、そうなんですか?!」


 学園でもユニークスキルを持っている人はほとんどいない。フェイリアを除けば、学園長とシャルルくらいだろう。


「フェイリアさんって、学園にある祠で祈りを捧げているよね?」

「ご存じだったのですか?」

「うん、学園に初めて来た時に見かけたんだけど、周りに鳥がたくさんいたよね?」


 心当たりがあるのか、フェイリアはゆっくりとうなずいた。


「ええ、どうも動物には好かれるようで。もしかして、私のユニークスキルは動物に関するものでしょうか?」

「うーん、あの鳥はヒントではあるんだけど違うかな」

「鳥ですか」


 鳥と言われても、動物しか思いつかないようで、唸り声を上げながら考え込む。しかし、答えがでるはずもなく、あっさりっと白旗を上げた。


「わかりませんわ。一体どういうことなんですの?」

「わかったわかった。説明するから落ち着いて!」


 フェイリアをソファに座らせる。紅茶を淹れて落ち着くのを待ちながら、頭の中で話す内容をまとめていく。


「まず、あの鳥は──精霊だよ」

「えっ、精霊って実体がないはずじゃ……」

 そう、本来の精霊は自然現象そのもの。実体がないし、目にも見えないものなんだ。だけど、魔力を与えられると実体化することがある」

「初めて聞きましたけど」


 フェイリアが知らないのも無理はない。一般的に広まっている知識ではないし、そもそも意図的に引き起こせる人間はほとんどいないからだ。


「鳥に見えるけど、あれは精霊だったんだ。そう、フェイリアのユニークスキルは精霊に力を与え、恩恵を受け取れるもの。『精霊の加護』だ」

「精霊の加護……」


 初めて聞いた自身のユニークスキルにフェイリアはどう反応していいかわからず、戸惑いを隠せなかった。


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