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第15話 狂った噂

 翌日、私が学園に行くとフェイリアがシャーリーを虐めている、という噂でもちきりだった。もちろん、噂が事実でないことは私が一番よく知っている。何しろ早朝から放課後まで、ずっと一緒にいるからだ。


「フェイリアさん。なんか酷い噂が流れているみたいなんだけど──」

「そうみたいですわね。存外、悪い気はしませんわ」

「えっ?!」


 噂の内容は知っているはず。しかし、フェイリアは楽しそうに微笑むだけで、噂を否定する様子もない。


「聖女様を虐めてるんですってね」

「ふふふ、そういう可能性もありますわよね」

「やっぱり闇の申し子、やることが陰湿ですわ」

「ええ、それに比べてシャーリー様は健気で素晴らしいですわ」

「アンタなんか殿下の婚約者に相応しくない!」

「そうでしょうそうでしょう。是非ともシャーリー様の素晴らしさを皆様に広めてくださいませ」

「……?!」


 虐めの噂を聞いて、数人の令嬢がここぞとばかりに責め立ててくる。会話は成立しているはずなのに、なぜか話が通じないという謎の現象に令嬢たちも困惑するばかりだった。


 虐めているという噂も目撃者がなく、口頭で聞いただけ。一方で、手放しにシャーリーを褒め称えるフェイリアの姿に最初のうちこそ懐疑的だった彼らも、すぐに噂の信憑性そのものを疑い始めてしまい、わずか数日で終息してしまった。


「フェイリアさん。元気なさそうですけど、どうしました?」

「えっと、噂の方はどうなったかわかります? 最近、まったく聞かなくなったんですけど……」

「あんな根も葉もない噂、すぐになくなりましたけど」

「そ、そうなんですね」


 落ち込んだ様子のフェイリアに具合を尋ねると、噂について聞かれた。もちろん、根も葉もない噂などに踊らされ続けるような貴族はほとんどいない。そのことを話すと、なぜかガックリと肩を落とした。


「闇の申し子のせいで王国に魔獣が迫ってきている」

「公爵家は実は王家ですら頭が上がらなくて、婚約も公爵家が無理矢理ねじ込んだ」

「聖女様は日に日に闇の力が強くなっていることを憂慮している」


 その後もこのような噂が立て続けに流れた。しかし、狙ったようにフェイリアの評価を下げるような噂を雑に連発したせいで、最後の方は嘘や悪い冗談といった但し書きが付くようになっていた。


「こんな噂を流すなんて、許せません!」

「まあまあ、どれも根も葉もない噂だし──」

「だからこそ、です!」


 ありもしない噂を流されて、いい気分になる人間などいない。さすがのフェイリアも怒ってやむなしだろう。


「そもそも、フェイリアさんって、別に酷いことしないじゃないですか。どうやっても根も葉もない噂になるわけで──」

「そ、そうでしたか。たしかに、これでは根も葉もない噂になって当然ですわね」


 フェイリアは手を握り締めてうつむく。そして、顔を上げてまっすぐ前を見つめる。


「わかりました。私が頑張らなければいけないということですね!」

「うーん、まあ、そうなるかなぁ」


 噂が広まらないように頑張ると言っても、どうするんだという話だ。あえて言えば、隙を作らないように立ち回るくらいだろう。


 そんな話をしていると、気弱そうな少女が私たちの方にやってきた。


「あの、これ、聖女様が──」


 少女は、そう言いながら折りたたまれた紙片を差し出してきた。


「これって、罠なんじゃないかな?」

「いえ、これは千載一隅のチャンスですわ!」


 罠を警戒する私とは対照的に、フェイリアは絶好の機会ととらえたようだ。彼女は噂の出元がシャーリーだと気付いていて、しょうもない噂を潰すのではなく本体であるシャーリー自身を潰すつもりだろう。


「そう言えば、私が聖女を虐めているという噂ですけど、具体的にどう虐めているのでしょうか?」

「うーん、私が聞いた限りだと──ビンタしたり、池に突き落としたり、服を破いたり……そんなのが多いかな」

「なるほどなるほど。わかりました。バッチリです」


 どうやらフェイリアは決着をつけるにあたり、具体的な噂を一つ一つ潰していくつもりのようだ。友人のようにフランクに接している彼女だが、こういった振る舞いを見ると公爵令嬢であることを実感させられる。


「勝負は放課後、中庭とはおあつらえ向きですわ」


 フェイリアは紙片を折りたたむと、口角を上げた。


 放課後──中庭には誰もいなかった。


「誰もいませんね」

「困りましたわ」


 呼び出されてやってきたはいいものの、肝心の聖女の姿がない。決着をつけるべく意気込んでいたフェイリアは肩を落として落胆していた。


「も、もしかしたら、今日じゃないのかも」

「そ、そうですわね。浮かれてましたわ」


 聖女がいないのでは意味がないと帰ろうとした時、中庭に聖女の叫び声が響き渡った。


「ふぇ、フェイリア様! やめてくださいませ!」


 そう叫びながら、猛ダッシュでこちらに走って──否、噴水のある池に向かって走っていった。急展開に付いていけず呆然とする私をよそに彼女は噴水の手前で踏み切って大きく跳んだ。


「チャンスですわ! 虐めて差し上げますわ!」

「ほげぇぇぇ!」


 そのまま池に飛び込むかと思ったシャーリーの前に現れたフェイリアが全力でビンタを放つ。ただのビンタではない。フェイリアの圧倒的な魔力による身体強化。加えて、ここ最近の特訓のせいで、身体強化の効率も格段に上がっていた。


 瞬間転移とも思えるようなスピードでシャーリーの前に飛び出し、吹き上がる水しぶきの中、残像すら見えない超音速のビンタが彼女の頬をとらえた。


 無様な悲鳴を上げて、シャーリーが一直線に校舎の壁に突き刺さる。聖女だったから辛うじて生きていたものの、普通の人間が食らったら即死だろう。


「シャーリーを虐めるな、フェイリア・クローネル! 池に突き落とすなど陰湿すぎるぞ!」


 フェイリアを断罪しようと物陰から飛び出してきたイースレイが、人差し指をフェイリアに突きつけていた。


「えっと、どういうことですか?」

「とぼけるな! お前がシャーリーを池の中にこうして突き落とし──あれ?!」


 池の中に落ちたシャーリーを指差そうとして、どこにもいないことに気付いて焦り出した。


「どういうことだ! お前、シャーリーをどこへやった!」


 詰め寄ってくるイースレイに、フェイリアは戸惑いながらも校舎の方を指差した。


「あそこにいますけど……?」

「なっ!」


 イースレイが視線を向けると、校舎の壁に頭から突き刺さって、手足をピクピクと動かしているシャーリーの姿があった。


「何をした?! というか、お前らは何で平然としているんだ! 早く助けろ!」

「さっき殿下が自ら仰っていたじゃありませんか。虐めた、と」

「大丈夫でしょう。聖女ですし、簡単にはくたばらないと思いますよ」

「お前たちに、人の心はないのか?!」


 失礼な男である。死なないなら回復魔法でどうとでもなるし、それよりもフェイリアに冤罪を被せようとする方が気になる。


「人の心とか、どうでもいいのです。それよりも虐めたんですよ。それについて殿下の見解をお聞きしたいですわ」

「それより助けるのが先だろうが!」

「いえ、殿下が自らの正義を貫くかどうかの方が大事ですわ」


 フェイリアは何としてもイースレイの言葉を聞きたいらしい。シャーリーを助けることと引き換えにするとは、やはり貴族だと感心する。


「そこまで言うなら、先に片付けてやる。シャーリーを虐めるような陰湿な人間に王妃の座は相応しくない。よって、お前との婚約を破棄する!」


 しかし、それを聞いたフェイリアは動揺する素振りを見せず。ニヤリと嗤っただけだった。


「ダメですわ。婚約は王家と公爵家の契約。殿下の一存では決定できません。破棄したいと仰るのであれば、陛下の意思を確認いたしませんと──」

「生意気な! そんな可愛げのなさが愛されない理由なのだろうが! それよりもシャーリーを早く助けろ!」

「はいはい、それじゃあ引っこ抜きますね」


 魔法で紐を作って、シャーリーの足に絡ませる。そのまま引っ張ると、ズボッと豪快な音を立ててシャーリーの頭が引っこ抜けた。


「くそっ、覚えていろよ!」


 イースレイはシャーリーに駆け寄ると、抱きかかえて走り去っていった。


「身体強化まで効率的になっているとは思わなかったわ」

「そうですわね。少しだけ力加減を間違ってしまいましたけど、無事に虐めることができましたわ!」

「少しやりすぎな気がしないでもないけど……」

「このくらい、父なら指先一本で戯れる程度ですけれども」


 フェイリアの父親とは関わりたくないと思った瞬間だった。


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