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第13話 聖女の焦燥

「一体どういうことなの?!」


 聖女シャーリーは寮にある自分の部屋で苛立ち交じりに声を上げた。何しろ、コツコツと好感度を積み上げて作った逆ハーレムが半月と経たずに半壊してしまったのだから当然と言える。


「キャラ自体が退場する展開。ゲームではなかったんだけど!」


 前世の記憶にあるゲームの知識を使って王太子と取り巻きを次々攻略していき、逆ハーレムエンドが見えてきたと思った矢先の出来事。キャラ自体が退場してしまったら、共に戦うことすらできなくなってしまう。


「そもそも、あのルミナって女は誰よ!」


 ゲームにはルミナなんて生徒は登場しなかった。もしかしたらモブとして存在していたのかもしれない。いずれにしても、ここまで存在感があるのは異常だった。


 早急に排除しようと、ウーズを焚きつけた。しかし、あっさりと返り討ちにされた。シャーリーにとって最悪なのは、彼の父である騎士団長が息子の敗北に対してクレームを入れてきたことだった。


「親まで脳筋とかありえないわ。それが騎士団長なんて、もっとありえないけど!」


 結局、騎士団長までルミナにやられて退場させられてしまうことになった。騎士団のトップがいなくなったことで、王国の戦力は大きく削られてしまったはず。


「しかも、スーフェンまで脳筋だとは思わなかったわ!」


 ゲーム中では魔法系キャラとして知力の高いスーフェンだから、ウーズのようにはならないと高を括っていた。しかし、蓋を開けてみれば、スーフェンは魔法系脳筋キャラというオチ。


 馬鹿みたいに真正面からケンカを売って敗北。そこで学習したのか、矛先をフェイリアに切り替えても敗北。さらにはルミナに対して快く思っていないベテラン教師まで巻き込んで退場してしまった。


 シャーリーの手駒として残っているのは万能キャラである王太子イースレイ、知略キャラである宰相令息アルフェン、回復キャラである大司教令息サンデーの3人だけ。器用に立ち回れる3人が残ったのは唯一の救いと言えよう。


「なんとかしなきゃ──」


 そう思ってみても、異質な実力を発揮するルミナを排除する名案など見当もつかない。剣に特化したウーズや魔法に特化したスーフェンで太刀打ちできなかったのだから、実力による排除は不可能だろう。


 王家や神殿の力を借りるという手もある。しかし、向こうには学園の最高権力者である学園長と、若いけれども宮廷魔術師に匹敵する実力のシャルルが付いている以上、迂闊に手出しはできない。


「ルミナよりも先に、シナリオ通りフェイリアを排除するしかないかなぁ」


 ゲームにおいて、フェイリアは最終的にイースレイから婚約破棄されて国外に追放される。イレギュラーのルミナは脅威ではあるが、先にフェイリアを断罪してエンディングを迎えてしまえば問題ない。


 先日の魔法実技の授業で頭角をあらわしたフェイリアの評価が見直されつつある。しかし、『闇の申し子』であるという枷は決して外れることはない。今なら、まだ間に合う。


 フェイリアの悪評を流し、婚約破棄に持っていく。


「それだけじゃダメだ」


 フェイリアも簡単に婚約破棄を認めない。特に婚約は王家と公爵家の契約でもある。王太子とはいえ、契約者ではないイースレイの言葉だけでは足りない可能性がある。


「やっぱり、国王も巻き込むしかないか」


 国王ですら動かないといけないような噂が必要だ。しかし、ゲームの知識を持つシャーリーは、どのような噂を流せば効果的に追い詰められるか知っている。


「やっぱり、聖女である私が虐められている、ってことにするのが一番ね」


 シャーリーは焦りながらも、成功への道筋がはっきりと見えてニヤリとほくそ笑んだ。


 翌朝、学園にやってきたシャーリーはいつものようにイースレイと挨拶をする。


「おはよう、シャーリー」

「おはようございます。殿下……」

「どうしたんだい、浮かない顔をして」

「実は、殿下と親しくしていることについて、フェイリア様から日を追うごとに厳しく叱られてまして、今日など特に……」

「聖女であるシャーリーに何と酷いことを! たかが婚約者の分際で」


 正義感から、イースレイはフェイリアに対して怒りを露わにした。女性に対しては自分が守るという考えだが、見方を変えれば女性を下に見ているとも取れる。彼のお気に入りであるシャーリーに対しては守るべきと考えているようで、シャーリーも今の立場に満足していた。


「まあいい、俺からアイツには話を付けておく。シャーリーは心配しなくてもいい」

「ありがとうございます、殿下」


 シャーリーを守るという大義に燃えるイースレイに同調するようにアルフェンとサンデーもうなずいた。


「私も僭越ながら殿下に協力させていただきます。悪女フェイリアがいかに酷いことをする人間であるかを知らしめなければなりません」

「僕も協力するよ。シャーリーは神殿にとって大事な人だからね。これ以上シャーリーが不遇な目に遭わないように、パパに頼んでみるよ」

「ありがとうございます。アルフェン様、サンデー様」


 笑顔で二人に礼を言う。すると、その様子を見ていたイースレイが途端に不機嫌になった。


「どういうことだい、シャーリー」

「なんでしょうか、殿下」

「なんでアイツらは名前で呼んで、俺は殿下なんだよ」

「殿下を名前で呼ぶのは不敬では──」

「関係ない! 俺が君に名前を呼んでほしいんだから、気にする必要はない!」

「殿下……いえ、イースレイ様!」

「そうだ、それでいい。これからは、もっと気軽に接してほしい」


 機嫌を直して表情が緩んだイースレイを見て、シャーリーは攻略が順調に進んでいることを確信して、口角を上げた。

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