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第12話 崩壊

「さて、どういうことか説明してもらおうか!」


 私とフェイリア、スーフェン、そしてベテラン教師を引き連れて、シャルルは会議室に横並びに座らせた。まず最初に追及されたのは授業の責任者であるベテラン教師──ではなく、私だった。


「お前がやらかしたのだけは間違いないからだ!」

「何もしてませんけど」

「だったら、学園中に響いていた爆音は何だというんだ!」

「それはフェイリアさんの魔法で、私は無関係です」


 そもそも二人に放った魔法は、たいして音がしていなかったので、魔法を使ったことはバレていないはず。そして、フェイリアの名前を挙げたことで、シャルルの矛先は彼女へと移る。


「はい、私の魔法です」


 自信を持ってうなずくフェイリアに、心の中でガッツポーズをした。この調子で無関係を主張すれば、シャルルのお説教を回避することも不可能ではないだろう。


「違う! そいつは何らかの卑怯な仕掛けをしていたはずだ!」

「そうだ、先週まで魔法もろくに使えなかったヤツが、いきなり使えるようになるわけがない!」

「二人はそう言っているが」


 スーフェンとベテラン教師の反論より、フェイリアのせいにするという流れに暗雲が立ち込める。しかし、フェイリアは冷然と首を横に振った。


「何もやましいことはありません。れっきとした私の魔法です!」


 その堂々とした態度に、スーフェンもベテラン教師も反論の言葉を失った。しかし、シャルルはまるで正解を知っているとばかりに追及の手を緩めない。


「だが、魔法を急に使えるようになるというのは不自然だろう。何かきっかけがあったんじゃないか?」

「ええ、ルミナさんに魔法の特訓をしてもらいました。たった一週間でここまでできるようになったんです!」


 悪い予感は当たるもの。フェイリアが逆に私の名前を出したことで、ふたたびシャルルの矛先が私の方へと向かう。


「やっぱり、お・ま・え・かぁぁぁ!」

「ひぃえぇぇぇ! 教えただけ、教えただけです! 魔法は使ってませんよ!」

「嘘をつくな! お前の制服には、魔法に反応して通知を送る魔道具が埋め込んであるんだよ!」


 よくよく考えてみれば、シャルルが来たタイミングを考えると、フェイリアよりも私の方が近い。


「なんで、人の制服に勝手に魔道具を仕込んでいるんですか!」

「お前が危険だからに決まってるだろうが!」

「ちょっとくらいの危険なんて気にしませんけど!」

「お前はどうせ死なんだろ? それよりも、お前のやらかしの方が迷惑だ!」


 シャルルの、教師とは思えないほど酷いいじめを見た。被害を訴えるためにしおらしくしようとして、止めた。そんなもの、シャルルには通じない。


 完全なとばっちりだった。何もしていないはずなのにシャルルの説教を延々と聞かされる未来を想像して気が重くなる。


 だけど、シャルルの追及はそこで止まった。大きく息を吐くと、矛先をスーフェンとベテラン教師へと向けたからだ。


「まあ、こいつは後でしっかりと言っておくとして──」

「私は小石をちょっと飛ばしただけです! 冤罪です!」

「こいつらが横槍を入れなければ、魔石を使っていただろうが!」

「そもそも、こいつらが横槍を入れなければ、魔法を使うつもりはありませんでしたよ!」


 たしかに被害を抑えたのはスーフェンとベテラン教師である。しかし、私を煽って被害の原因を作ったのもまた彼らだった。いわゆるマッチポンプというもの。


 そこまで言葉を尽くしても、シャルルの疑いが完全には晴れなかった。しかし、事実から目を逸らすつもりはないらしく、大きく息をついて、シッシと手を振ってきた。


「わかったわかった、今回は大目に見てやる。さて、それじゃあ本題に入るとしようか。お前ら、なぜルミナを煽ったんだ?」

「ち、違います! 僕はフェイリアに模擬戦を申し込んだだけで──」

「それだけで終わらなかったんだろう?」


 シャルルが冷淡にスーフェンの弁解が言葉足らずであることを指摘する。模擬戦だけで終わっていれば、私が動くことはないだろうと考えているようだ。


「たしかに僕は模擬戦で負けました。でも、それはこいつが不正を──」

「そうです。ありえない魔法を──」


 口々にフェイリアの不正を訴える。だが、彼らの言葉はまったくシャルルに響いていないように見えた。


「お前たちの常識なら、たしかにそうなんだろう。だが、ありえない、など断言できるほど、お前たちは魔法に詳しいのか?」


 そう言いながら、シャルルはチラリとこちらを見る。いいかげん、問題があった時の原因を私に持ってくるのをやめて欲しい。その想いもシャルルには響いていなかった。


「僕の父親は魔術師団長だぞ! 詳しいに決まっている!」

「俺だって何十年も魔法教育の現場に携わってきたのだぞ! それで詳しくないとでも言うつもりか、若造が!」


 それなりの実力的背景を持つ二人の猛抗議を受けながらも、シャルルは静かに目を閉じて聞いているだけだった。一通り、彼らの主張が終わって、ゆっくりと目を開く。


「言いたいことは、それだけか?」


 シャルルの言葉に伴う圧に怯みながらも、彼らはうなずいた。


「ならば聞く。フェイリアとルミナ、二人の魔法がどうやって発生したかを説明しろ」

「不正なのだから、わかるわけがないだろうが!」

「バカか? よくわからないから不正などと、自分の無知をさらしているだけだろうが!」


 シャルルはスーフェンの妄言を一刀両断にするとベテラン教師に向き直った。


「お前も同じか?」

「ち、違う。お、俺は──」

「じゃあ、何が不正なのかわかるように説明してみろ!」


 完全に立場が逆転しているにもかかわらず、怒れるシャルルの気迫におされてベテラン教師は完全に受け身になっていた。


「そ、それは……ま、魔道具だ!」

「たしかに魔道具なら、無いとは言わんけどな。だが、別に不正じゃないだろう。それを言い出したら杖すらも認めるわけにはいかなくなるぞ」


 シャルルの言うことにも一理ある。杖自体が魔力の増幅装置になっているから当然と言えば当然。もちろん、侯爵令嬢であるフェイリアの杖も、かなりの高性能となっている。もっとも、それが原因で逆に魔法が使えなかったことを考えると皮肉な話だった。


 もちろん、それ自体が魔法の発動までしてくれるような魔道具もないわけじゃない。シャルルは、その存在を知っていてもなお、魔道具で実現できる範疇を超えていると考えているようだ。


 そこでふと疑問に思う。なぜ、その場にいなかったはずのシャルルが詳細を知っているのか。まるで、その場にいたかのように──。


 その疑問を口にするよりも前に、シャルルが答えを口にする。


「授業の様子は全て映像で見ているんだよ。適当な誤魔化しは通じないぞ」

「くそっ!」

「どうした? それとも、無能でしたと白旗でも上げるか? いずれにしても、お前はクビだがな」

「なっ──それは横暴だろう! お前ごときに何の権利が──」

「私が認めたのだが、問題でもあるかね?」


 必死の抵抗を見せるベテラン教師に、背後から現れた学園長がトドメを刺した。


「この学校がエリート校であることは理解しているだろう? 実力がない者は去るだけだ」

「そんな、私は長年──」

「言い訳無用。お前の怠惰な魔法実技の授業の実態も把握している。早く去るがいい。それとも、実力で追い出されたいか?」


 ガックリと肩を落としたベテラン教師は、トボトボと学園から去っていった。


 その後、魔術師団長でもあるスーフェンの父もやってきて、学園での彼の振る舞いを知り激怒した。そのまま転移魔法でスーフェンは連行されていった。


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