第11話 魔力量でも負けている、技術でも負けている。どこに勝つ要素があるというのでしょうか?
フェイリアとスーフェンが位置について向かい合う。ほとんど関わり合いのない二人ではあるが、まるで宿敵のようににらみ合っていた。
それもそのはず、スーフェンとしては無能だと思っていたフェイリアが急に頭角を現してきたし、フェイリアとしては、散々見下してきたスーフェンに思うところがあるのだろう。
「ふん、こちらから行くぞ! エル・フラム・ラス・シクロ・コンフェリエ──うわっ!」
杖を持って長々と詠唱を始めたスーフェンに向かって、フェイリアは小さい水球を放つ。ただの水球ではない。軌道修正するための紐が付いているものだ。
「それはそうと、派手な魔法を使うために長々と詠唱をするなんて、フェイリアが無詠唱でやっているの見ているはずなのに……」
相変わらず学習しない男である。威力だけを求めるのは素人にありがちだけど、こんな素人くさい男が次期魔術師団長とは先行きは暗い。
「はっ、ビビらせやがって。全然当たらねえじゃねえか!」
フェイリアが魔法を乱射する。当てる気があるのかわからないほどメチャクチャな使い方に、誰もが正気を疑っているに違いない。もっとも、魔法に繋がっている紐が見える私には乱射している意味も理解できていた。
しかも、ただ紐をつなげているだけではない。紐の途中から紐を分岐させて接続していて、まるで蜘蛛の巣のように複雑に魔法同士が結びついていた。
私の方法では紐自体を自在に動くようにしているんだけど、フェイリアの方法では紐の性質をそのまま生かす形にしている。その発想力に、私も驚きを隠せない。
「バカにしやがって。当たらなきゃ意味がねえ──ぎゃっ!」
フェイリアが手元の紐を手繰り寄せる仕草をした途端、放たれた魔法が不規則に軌道を変えた。背面から襲い掛かるもの、左右から迫るもの、逃げ道を塞ぐような軌道を描くもの。まるで意思を持っているような動きでスーフェンに迫る。
「そんなバカな! こんな動きをするはずが──」
「降参するなら今のうちですわ」
「な、舐めやがって!」
怒りに任せて、スーフェンは長々と詠唱を始める。フェイリアの魔法は数こそ多いものの、一発は弱い。防御魔法で耐えつつ、特大の魔法で一発逆転を狙うつもりらしい。実用性は皆無だけど、模擬戦では有効な作戦と言える。
フェイリアは、余裕の表情を崩さず次から次へと魔法を放っていく。奇行とも思える彼女の行動に、周りは呆然とするばかり。その中で、私だけが疑問を声に出す。
「ど、どういうこと?」
すでに多重制御は30を超えている。昨日までフェイリアは10以上の魔法を同時に使えなかったはず。しかし、わずか1日にして壁を越えていた。
「いったいなぜ──ま、まさか」
フェイリアの動きは一見するとメチャクチャだった。だけど、実際にメチャクチャだった。自分でも何を言っているのか、と言いたくなる。だけど、フェイリアはメチャクチャに魔法を投げているだけ。メチャクチャに投げられたもの同士が影響し合って不規則な軌道を作っていた。
それに加えて自身で紐を引くことで別の力を加える。
この方法の利点は手の中にマカロン──もとい魔法が残っていない。すなわち、新しく魔法を使うことができるということだった。不規則な軌道を描きながら行きつ戻りつを繰り返す魔法の中に、新しい魔法が加わり、まるで無数の魔法が飛び交っているような状態になっていた。
「まさに無限のマカロンとも言うべき恐ろしい魔法。これで発展途上というのだから、やっぱり才能も大事だよね」
一発逆転のために長い詠唱を始めてしまったスーフェン。しかし、フェイリアの圧倒的な物量の前に、詠唱を終える前に防御魔法を削り切られてしまった。
そのまま、フェイリアの魔法が何度も何度も連続して当たり、空高く吹き飛ばされた。どさりと地面に落ちて、スーフェンはピクリとも動かない。
ベテラン教師は、なぜかフェイリアの勝利を認めまいと判定を先延ばしにしていた。しかし、スーフェンが動く気配はなく、かといって、終わるまでは回復させることも不可能。
「フェ、フェイリアさんの勝ちです!」
ヤケクソ気味に叫んで、スーフェンの方に駆け寄り癒しの魔法を使う。私から見れば癒しの魔法じゃなくて卑しいの魔法だけど、みるみるスーフェンの傷が塞がって意識を取り戻した。
いまだ朦朧とする意識の中、スーフェンはよろよろと立ち上がった。その顔は底知れない怒りに歪みきっていて、元がイケメンだとは思えないほど。
そんな状況なのに、フェイリアの方をビシッと指差した。
「くそ、卑怯だぞ! あんなの魔法じゃない!」
「たしかに、あんな動きをする魔法など前代未聞だ!」
スーフェンの主張にベテラン教師が加勢する。一つ一つは素人目に見ても確かに魔法である以上、彼らの主張はかなり苦しい。
「どう見ても魔法じゃないですか。何をもって魔法じゃないと言い張るつもりで?」
「魔法の得意属性はそれぞれ違う。得意属性以外の魔法など使えることがおかしい。それだけじゃない、放った魔法が戻ってくるなどありえないし、いくつも同時に魔法を使うなど不可能だ!」
「そうだ! 何か卑怯な仕込みをしているに違いない!」
彼らの主張がそもそも破綻しているのはもちろんのこと、卑怯な仕込みがされているとしても、それを立証する責任は彼らにある。あまりにも一方的な主張に呆れて物もいえない。
「それじゃあ、私の魔法も魔法ではないと?」
「当たり前だ。魔石が必要な魔法など魔道具ごときと変わらん!」
「魔石を使わなければ、魔法と認められると?」
「それなら認めてやらんこともないな!」
それならばと、地面に落ちている石を拾って杖に据え付ける。その様子を見て、スーフェンとベテラン教師が嘲笑った。
「強がりはよせ。それは魔石じゃないと意味がないのはわかっているんだ!」
「そうだ、俺たちの目は誤魔化せんぞ!」
「わかりました。では、身をもって体験してもらいましょう」
杖のトリガーを二人の方へと向けて石の周りを時計回りに魔力を高速回転させる。魔石ほどではないが、この世界のあらゆる物質には魔力が含まれている。それはただの石でも例外ではない。
「ふん、脅せば屈すると思ったか。無駄なことを!」
「泣いて土下座すれば許してやらんこともないがな!」
さすがに石に含まれる魔力量が多くないので、どうしても時間はかかってしまう。どんどん魔力の回転を加速させ、秒速100万回転を超えた辺りで十分な力がかかり始めた。
最後に照準を二人の間に合わせて、ゆっくりと引き金を引いた。前側の留め具が外れ、右ねじの法則の力により、杖にはめた石が超音速で二人の方へと飛び出した。
「ははは、全然だめ──」「無駄なあがきは──」
二人の嘲りの声が止まる。ヒュン、という音を立て、一瞬のうちに石が二人の間を通り抜けていった。爆発こそしていない。しかし問題は、二人とも通り過ぎるまで、まったく反応できなかったこと。
「ば、バカな……」
彼らの背後のマトに大穴が開いていた。実戦であれば、大穴が開いていたのは彼らの体だろう。恐怖が遅れてやってきて、二人の足がガクガク震え出した。そのまま足の力が抜けてへたり込む。
「このくらいで怖気づいてしまうなんてだらしない」
「こらぁぁぁぁ! お前、何をしている!」
私ですら怖気づくほどの殺気を放ちながら、シャルルが授業に怒鳴り込んできた。




