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第10話 その魔法はマカロンでできています!

 その後も特訓を続けるフェイリアだったが、完全に行き詰っていた。ここは一度、気分転換をすべきだろう。


「放課後は練習をお休みして甘いものを食べに行こうか!」

「えっ、特訓はどうするんですか?」

「根を詰めすぎても上手くいくわけじゃないからね。肩の力を抜くことで見えてくるものがあるかもしれない」

「た、たしかに……」


 強引な理屈だけど、何とかフェイリアを納得させて甘いものを食べに行く約束を取り付けた。


「今日はここにしましょう。珍しいお菓子を扱っているみたいですわ」

「へぇ、マカロンか……ドーナツみたいにも見えるけど」


 放課後、フェイリアは全力で調べていたようで、珍しいお菓子が食べられるお店を提案してきた。そこまで気合を入れなくてもと思ったけど、逆にフェイリアにとっては気分転換になったようで、思いつめすぎによる表情の翳りはなくなっていた。


 問題はいまだに残っているけど、まだまだ焦る必要はない。じっくりと腰を据えて解決へ向かっていくことも時には必要だ。


 フェイリアの馬車に同乗して店へと向かう。繁盛しているらしく、並んでいる人がたくさんいたけど、予約していたので待つことなく中へ。


「マカロンでございます。左からラズベリー、マスカット、オレンジ、パインアップルでございます」

「見た目もキレイですわね」

「うん、とても美味しそう」


 さっそく一つ手に取ってかじると、パリッとした表面とふわっとした中身の食感のコントラスト。そのまま口に入れると鮮烈な果汁の風味がいっぱいに広がっていく。


「お、美味しい……」

「素晴らしいお菓子ですわ」


 思わず言葉が少なくなる美味しさに大満足。香りが強いお菓子なのにもかかわらず、紅茶の香りと程よく調和していた。


「種類がたくさんあるのも嬉しいですわね」

「印象に残る味と香り、そして、種類が豊富──これだ!」

「ど、どうしましたの? 突然、大声を出して」

「魔法のイメージに、マカロンを使うのはどうかと思ってね」


 私の突拍子のアイディアにフェイリアは目を白黒させて戸惑っていた。魔法とはまったく関係のないお菓子で魔法を使うなど、聞いたこともない。


「魔法のイメージとマカロンを結び付けるように練習するんです。この皿の上でも4種類ありますから、これだけで4重の多重制御が可能になります」

「そんな方法があったなんて……」

「要するにイメージさえしっかりできればいいんです。ここまでの特訓で短縮詠唱まで行けたのも大きいですけど」


 短縮詠唱、いわゆるキーワードによる魔法発動における詠唱は、単なるイメージの紐づけでしかない。それならば、味や香りのイメージを紐づけするだけで同じことができるはず。


「そうとなれば、4種類では足りませんわ。もっと色んなマカロンをいただきませんと」


 さっそくフェイリアは店員を呼んで話をする。しかし、今日のマカロンは出された4種類しか作っていないらしい。


「こうなったら、全ての味を制覇するまで通い詰めますわ!」


 自分で焚きつけたとはいえ、やる気に火の点いたフェイリアは止まらない。止める間もなく、店員を呼んで一週間分の予約を入れてしまった。


「予約完了ですわ! 明日から毎日通いますわよ!」

「そ、そうですか──」


 フェイリアの行動力に思考が追い付かない。焚きつけた上に、予約まで入れてしまったからには、私も付き添うしかないだろう。


「それじゃあ、明日から頑張って通いましょうか……」

「よろしくお願いしますわ!」


 お菓子が食べられると思えば悪くない状況ではあるけど、フェイリアを不用意に焚きつけるのは危険だと実感した。


 翌日から、朝に特訓、放課後にマカロンという生活が始まった。その貪欲さは留まるところを知らず、次々と新しい味と魔法のイメージを結び付けていく。


「10個、いけましたわ」

「マジか──」

「素晴らしいですわ、マカロンイメージ法! これさえあれば──」


 わずか3日にして目標である10重の多重制御を達成してしまった。最初は半分冗談のつもりだった。時には奇策も有効な場合があるけど、出すアイディアが毎回ぴったりハマりすぎでは?


「ダメですわ。10は行けても、それ以上は上手くいきません」

「持ちきれないとダメってことか」


 絶好調と思われたフェイリアだが、思わぬところに落とし穴があった。手に持てない数のマカロンをイメージできないため、10を超えると厳しくなるらしい。


「でも、10は行けたし、他も試してみよう」

「今度は何を?」

「うーん、遠隔制御かな?」


 一度放った魔法の軌道を変えるのは不可能と言われている。しかし、別の魔力を干渉させることで軌道を変えることができる技術だ。


「例えば、こんな感じだね」


 小さい魔力弾を作り、マジックハンドの要領で軌道を変えていく。


「凄いですわ。ありえない動きをしてます」

「こんな感じだね」

「ちょっとやってみますわ」


 さっそく試してみるも、フェイリアの撃った魔法はまっすぐ進むだけだった。


「うまくいきませんわ」

「うーん、自分と繋がっている紐みたいなイメージするといいかも」

「なるほど、試してみますわ」


 フェイリアが放った火球が、引っ張るような動きにをすると、それに合わせて魔法が反転して、こちらに向かって飛んできた。


「うわっ!」「きゃっ!」


 試していきなり成功すると思っていなかった私はとっさに回避する。フェイリア自身も成功すると思っていなかったようで、短く悲鳴を上げながら避けていた。


「せ、成功しました」

「お、おめでとう。あとは、これを工夫して色々と動かしていけるようにしよう」


 その後、フェイリアは試行錯誤をしていたようだけど、紐のイメージが強すぎるせいか自由自在とまではいかなかった。それでも、この国のレベルを考えたら十分すぎるほどだけど。


 この日は特訓開始から6日目。魔法実技の授業がある日だ。


 魔法実技の授業はあいかわらずマト当てと模擬戦という実践的──と言えば聞こえはいいけど、理論などまったくないお遊びの授業だった。


「またマト当てかよ」

「ルミナさん、やりましたよ! 魔法がマトに当たってます!」

「そりゃあ、そうだけど」


 しかし、この日の授業は様子が違っていた。先日まで、落ちこぼれの代名詞だったフェイリアが、わずか一週間で魔法をマトにガンガン当てているからだ。ただ当てているだけではない。得意とする水属性だけでなく、炎属性をはじめとして多彩な属性の魔法を使っている。もちろん無詠唱で。


 フェイリアもさんざん特訓で魔法を使ってきたにも関わらず、クラスメイトの前で自分の魔法を認められたことで、少しだけ誇らしげに見えた。


「ふん、ちょっと魔法が使えたくらいでいい気になりやがって!」


 そんな中、雰囲気に飲まれていないのが、特訓に付き合ってきた私と、なぜか絡んでくるスーフェンだった。


「また、私たちに難癖付けるつもり? 戦いたいなら相手してあげてもいいけど」

「ふん、お前は見逃してやる! 今日の相手はお前の方だ!」


 自信満々にフェイリアに指を突きつける。前回、私に勝てないことを学習したようで、フェイリアに矛先を変えたらしい。


 しかし、すでにフェイリアとスーフェンでは圧倒的な実力差がある。──はずなんだけど、フェイリアの練習風景を見てもなお勝てると思っているのだろうか。


「いいですわよ。受けて立ちます」

「ククク、バカめ。いきなり魔法が使えるようになった程度で、魔法を使い続けてきた俺に勝てるとでも思ってるのか?」

「もちろんです。負ける気がしませんわ」

「無能のくせに!」


 こうして、魔法実技の模擬戦はスーフェンとフェイリアで行われることとなった。


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