初めての友達(一)
マーシュは俺の発言に驚き、怯えている。
「はい、わかりました」
本音を飲み込み、笑顔で頷く姿に心が締め付けられた。
公爵家の跡取りとして気を張っていたマーシュは、厳しいことを言われても笑顔で飲み込んでしまう性格。
彼の父親が言うお茶会は、貴族間で仲間を作るためのもの。簡単に心変わりしてしまう貴族との絆を深めるためにも、お茶会を繰り返した。
――彼はもう、限界だったんだろう。
家から飛び出し、一人で魔獣が出る森に入ってしまったのだから。
「マーシュ様、改めて自己紹介させていただきます。ユウラ・アイジェントと申します。友達になったからには、貴方を信頼し決して裏切ることはしません」
「えっ?」
マーシュは不思議そうに、頭を傾げた。
「俺のことが嫌いになったらすぐに、捨ててください」
深く頭を下げ、敬意を示す。彼はそんな俺を見て、慌てていた。
「顔を上げてください。とりあえずは友達になったので、こちらこそよろしくお願いします」
さすがは公爵家の子ども、礼儀作法が丁寧で見ていて気持ちがいい。
「では、早速お聞きします。正直に答えてくださいね」
「は、はい」
「俺のことをどう思っていらっしゃいますか?」
マーシュは黙り込んで、俺と父親を交互に見て考え込む。
「えっと、俺とマーシュ様だけにしてもらえますか?」
彼が本音を言える環境をこっちから作らないとな。
未来で、裏表が激しい子になってしまう。
「そうだね。じゃあ、私は先に帰っているよ。マーシュもそこそこで帰って来なさい」
「はい、わかりました」
彼の額には、冷や汗が浮かんでいる。
父親がいると緊張するんだろう。
出ていったのを確認して、俺はもう一度マーシュに尋ねた。
「俺のことをどう思いますか?」
彼の身体が答えに拒絶しているのか、涙目になり震えだす。
「大丈夫です。何を言われても耐えられますし、マーシュ様のことを嫌いになりません。信じてください」
難しいことだとはわかっているが、こうでもしないと初めの一歩を乗り越えられない。
「……ユ、ウラ様の、話は知っていて、正直に言うと――怖いです」
しっかりと俺のことを伝えてくれて、嬉しかった。何より辛いものは、無関心だから――。
「では、俺が怖くないことを時間をかけてゆっくり伝えます。それでも嫌だと感じたら迷わず捨ててください」
「……はい」
また、少し言葉を飲み込んでしまったが、少しずつでもいい。成長してほしい。
「俺のことは軽傷を付けて呼ばなくて大丈夫ですよ」
「ですが」
「俺は子爵家で、マーシュ様は公爵家です。気にせずに呼んでください」
「……はい」
それから俺は、マーシュの邸に週に一度お邪魔している。
自分の邸だと、父や兄がうるさいため仕方がない。
キレイに整った庭園やガゼボは、何回来ても美しく見惚れてしまう。
「ユウラ、早く椅子に座って」
最近はしっかり俺のことを呼び捨てできるようになった。
本音も言えるようになり、たまに毒舌が混ざる。
「いつまでも見てるんじゃないよ。知能が落ちたのかな?」
「はいはい、俺は馬鹿ですよ」
「そこまではいってない」
彼は、大好物のケーキを食べながら、器用に頬にクリームをつける。
「マーシュ様こそ、いつまで口にクリーム付けるんですか? かわい子ぶって」
俺がそう言うと、顔を赤く染め硬直する。まあ、拭きやすいから気にしない。
「そういえば、マーシュ様はお菓子作りもされるんですよね」
彼の趣味、お菓子作りは貴族の間でも言われていることだ。
お茶会でも自身が作ったものが紛れているらしい。
「俺、クッキーが食べたいので今度作ってもらえませんか?」
「いいよ、仕方ないからね」
その割には嬉しそうな表情をしている。本当にお菓子作りが好きなんだろう」
俺も何か好きなものがあればな。
「ユウラは普段何をしているの?」
「俺は、教会掃除と薬草採取くらいですね」
さらっと流れるような話だったのに、マーシュはくらいついてくる。
「僕も、行く!」




