初めての友達(二)
マーシュが俺の仕事についてくることになってしまった。
基本的には、位の高い貴族の子を傷つけるようなことをしたくないため断るのだが、彼は簡単に言うことを聞いてくれなかった。
「僕も、ユウラが体験していることをやりたい。何事も経験は大事って父様も言っていたし」
「それでも、危険は伴います。俺がマーシュ様に怪我をさせたら、何を言われるか」
「大丈夫、その時は僕がユウラを守るから」
もうすべてを諦めて、いつもの変装を始める。
その光景をみたマーシュは、驚きを隠せてない。口をあんぐりと広げて、目が点だ。
「これだけで驚くのはまだ早いですよ」
変装した姿で笑うと、マーシュは震えだす。
「なんで、そのままの姿で行かないんだ」
心底不思議そうに話す彼に、頭を使えばすぐわかりそうなのにな、と残念そうな眼差しを向けてしまった。
それに気づいたのか、頬を膨らませて俺を睨みつけてくる。
「なんだよ。そんな目で見てくることないじゃないか」
「俺が悪かったです。ちゃんと話しますよ」
「めんどくさそうに相手をしないでよ」
胸の前で、腕まで組み始めた。そんなに聞きたいのか。
「簡単な話です。俺は、街の人々に嫌われています。噂を聞いたことがあるでしょう」
「そう言えば、最初にそんな話をしていたね」
「じゃあ、今はどうですか? 俺のことどう思います?」
出会い頭にした質問をもう一度投げかけた。
彼は頬を赤く染め、俺から視線を逸らせる。返答がない。
まだ、噂通りの性格だと思われているんだな。
「無理に聞いてしまいすいません。気にしないでください」
「いやっ、そんなことは――」
「それより、ちゃんとこの声を覚えていて下さいね」
俺は、今の声をしっかりマーシュに記憶させてから喉を調節する。
「んんっ、あー、あー」
「何をして? ん?」
マーシュは変わってきている声に違和感を覚え始めているようだ。
「どうでしょうか」
得意げに、話しかければ彼はまた目を点にする。
「そんなこともできるんだ。すごいね」
自然と手が拍手してくれている。
「お褒めに預かり光栄です。なんなら、マーシュ様が好きな人を変装と声で再現できますよ」
にこっと笑いかける。彼は、口をパクパク閉開しだす。
「冗談ですよ。でも、もし本当にやってほしい人が居れば遠慮なく言ってください」
「……あ、ああ、そうだね」
まずは教会で、掃除を済ませてその足で冒険者ギルドに向かう。
「おー、ユウ! 久しぶりだな」
「別にそこまで経ってないですよ」
昼間からお酒を飲んでいる冒険者に絡まれる。まぁ、通常運転だ。
「誰連れてるんだ? 彼女か?」
マーシュは可愛らしい顔立ちをしているから間違われても仕方がないが……。
「違いますよ。友達です」
「はははい、そうです」
マーシュは俺の服の裾を軽く掴み震えている。会話が苦手なのに、ついてくるなんてな。
バレないように笑ったつもりだが、彼がまたむっとした顔をする。
「ユウっむぐ」
彼は俺の名前を普通に呼びそうになったため、口を塞いだ。
耳元まで近づいて、小声で話す。
「言い忘れていましたが、今の俺の姿では〝ユウ〟って呼んでください」
マーシュが頷くのを見て、ようやく手を離してやった。
「今日はどうしますか?」
受付の女性が、ちょうど話しかけてきたので薬草採取をすることにした。
「マーシュ様は大丈夫ですか?」
「大丈夫、あの時の魔獣は倒されたみたいだからね」
「それでは、いきましょうか」
はぐれないように、森の近くまで手を繋いで歩いていった。
薬草採取を始めたころ、マーシュは俺に問いかけてきた。
「そういえば、あの時のことどこまで覚えているの?」
「そうですね、マーシュ様を庇った時くらいですかね」
「そうなんだ」
俺は、不思議に思って首を傾げる。彼は、言うか言うまいか悩んだ末に話し出した。
「あの後、知らない男の人が来て……」




