モダンルートだったら……(一)
振り返って、その姿を視界に入れる。
モダンは、アシュリーを腕の中に抱き留め、俺を睨みつけていた。
「追いかけてきたのかと、聞いているだろ」
その表情は激昂していて、真っ赤に染まっている。眼差しだけは冷たく、俺の身体に突き刺さる。
「そんなことはありません。俺は、ただこの学園に――」
「そもそも、学力と財力が無ければ、この学園には入れない。お前は、どちらともないだろ」
その通りだ。だが、ゲームをしていた時の記憶と、少ないながらも、この数年間学んできたため悪くはない。
財力については、また働きに出ればいいだけだ。あの邸に戻ることなく、平和に。
「ふっ、モダン様は、将来有望なユウラのことをわかっておりませんね」
マーシュが口を開く。
「なんだと」
彼は、マーシュに敵意を向ける。腕の中におさまっていたアシュリーは、モダンを軽く叩いた。
「モダン様、私たちの方が悪いですから、教室に行きましょう」
手を繋ぎ強引に、引っ張っていった。
「ユウラ様、ごめんなさい」
去り際に彼女は謝ってくれた。俺も、「こっちこそ」と返したが気まずい雰囲気が流れた。
五人でその場から去ろうとした時、思い出した。
モダンルートのイベントで、入学前ではなかったけど主人公と会った後に起こっていた。
「ちょっと、俺用事あるから」
そう告げると、去っていった二人の元に向かった。
上からは鉢植えが降ってくるはず。主人公のソフィが、本来の悪役令嬢であるアシュリーの手によって危険にさらされる。
それを聞いたモダンは、主人公を守るため、常に傍に居た。だから、上から降ってくる鉢植えに気づいて守れた。
だけど、今回は何も知らない。ストーリーの時でも背中に当たってしまっていたのに――。
どうすればいいのか考えていると、目の前を歩くアシュリーとモダンが視界に入ってきた。
空を見上げると、校舎の四階から鉢植えが出されていた。
それと、女子たちの笑い声も。
「あの女、目障りなのよね。ここに入学するためにモダン様に媚びをうったに決まってる」
「そうですわ。ちゃんと当てるのよ」
「言われなくてもわかっているわ」
二人は気づく様子がなく、仲睦まじく鉢植えの下に近づいていく。あのままだと、言葉よりも先に身体が動いていた。
いきなり走り出した足は、ピキッと音を立て痛みを感じる。だが、それどころではない。
俺が向かい始めてすぐに落下が始まった。
二人の背中を押し出し、自分もそのまま走り去ろうとした。けど、体格差のせいでモダンを押し出せなかった。
「キャっ」
「何するんだ」
怒りの形相を向けてくる。そんな暇はない。
自分の精一杯の力を振り絞り、身体を低くして、お腹にタックルした。
「がはっ」
彼は衝撃を受け、倒れ込む。次期国王の息子に、こんなことをしてしまったからこれから生きていけるかわからない。ただ、ユウリのことはお願いしよう。
そう思っていた瞬間。右足に重い何かがぶつかる。衝撃の強さに顔が歪む。痛みより先に驚き、次に鼓動がおかしく跳ねる。
冷や汗が止まらない。とにかく痛い。痛いのか。痛いを繰り返している。
「ユウラ様」
押し出したアシュリーは、足をすりむいてしまったようだが、怪我はそれくらいだ。
「怪我がなくてよかった」
俺はモダンのお腹に倒れ込んだ。
「あ、あ、足が――」
そんな声を聞きながら。
次に目を覚ますと、清潔な白い空間が広がっている。消毒液の匂いと白衣を着た女性の姿。
「起きた。まだ、痛みはある?」
優しく問いかけられて、右足の痛みが蘇る。
「っ――、右足が」
「わかっているわ。骨が折れてしまっていたの。運ばれたときにソフィって女の子が治癒してくれたけど、それでもこの折れ具合だから。相当、ひどかったわよ」
「ソフィたちはいますか?」
「ええ、外で待機しているわ」
医者が扉を開けると、勢いよく飛び込んできた。




