↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/29

ふいに、落ちる(一)

 振り返ると、そこにいたのはアシュリーだった。

 横にはモダンが控えていて、僕たちを警戒している。

「なんのようだ」

 ユウラを抱えている僕の前に、マーシュが割り込んでくれる。

「ユウラ様の体調は大丈夫なのですか?」


 心配しているような雰囲気ではあるが、こいつのせいで今に至るため、睨み返す。

「婚約破棄。しかも、別の男といるなんて淑女として最低なのでは?」

 精一杯の皮肉を込めて、話した。アシュリーは、顔を少し下げて、唇を噛む。

「では、我々は失礼します」

 マーシュが、言い切り御者に扉を開けてもらい、乗り込んだ。


「待って、私が悪かったの。ごめんなさい」

 地面にへたり込む彼女を見ながら、馬車はゆっくりと動いていった。

 顔を両手で覆い、泣きじゃくる彼女に、モダンは寄り添っていた。




 馬車の中は、暗く静まり返っていた。話し始めることはなく、ただユウラを見つめる。

 毛布にくるまれた彼は苦しそうに息を荒げている。熱は下がったが、それでも体調が悪いことには変わりない。

「ゆっくり、揺らさないように」

 マーシュは御者に忠告して、城に戻る。


「着いたら、速攻で部屋に運ぶぞ」

「わかっている」

 喧嘩しているような雰囲気の中、到着した。

 中から出てきたソフィとユウリに、事情を伝える前にベッドへと運び込んだ。

 すぐに、身体をタオルで拭う。汗で濡れてしまった服も、触り心地の良いシルク素材のモノに変えた。

 健やかな寝息を立て始めて、安堵のため息を零す。


「ユウラの様子はどうだった?」

 マーシュは、残っていた二人に事情を説明していたため、診に来れていなかった。

「ユウラは平気なの?」

「大丈夫なの?」

 それに続いて、ユウリとソフィも僕に近づいてくる。


「とりあえずは、大丈夫です。だけど、今日は僕が寄り添います」

 マーシュは目を開いて、唇を噛みしめ、言葉を飲み込んだ。

「頼んだよ」

 ユウラが眠る部屋に戻り、布団の中に潜りこむ。

 彼の熱気で、少し温かく感じ、まだ熱が下がりきっていないことを実感する。


「おやすみ、ユウラ様」

 聞こえなくてもいいと、声をかけて眠りについた。


***


 身体のだるさが幾分か落ち着いてきたように感じる。

 服も濡れていないし、着心地がいい。目を開いてみると、今の状況に「ぁっ」と少し声が漏れた。


 シュリスの顔面がほんの数センチまで、近づいていたからだ。

 すぐに起き上がればよかったんだけど、「んん」と寝返りしたと思ったら、唇に何かが触れた。優しく、柔らかく、熱を持った。

 身体も熱いが、顔に一番、血液が集まってくる。


「ひゃあ」

 情けない声がこぼれて、ついにシュリスも目を覚ました。眠たそうに、瞼を擦り見つめてくる。

「どうした?」

 寝起きで掠れた声が、今はクリティカルヒットで、心臓が跳ね上がる。

「いや、あの、えっと……」

 言葉が紡げずに、あわあわと手振りだけが大きくなった。


「顔が赤い、熱も高い――」

 シュリスは近くにあったタオルを濡らし、俺の額に乗せてくれた。額に感じる重さに、冷静さを取り戻……せなかった。

冷えていくけど、心までは届かない。

心拍が速まり、唇に当たった感触が残っている。


「どこが痛い? 辛い?」

 真剣に、看病してくれているのに、邪な気持ちでいる。

 死んだ方がいいとか、この世界に来なければとか考えていたのに、そんなことって思えるほどの衝撃だ。

 感じたことのない胸の高まり、直視できない彼の顔面。頭に響かないように話す囁き声。

 俺は、シュリス相手に緊張しているのか。それに、なんだこの気持ちは――。


「……もう一回したいなんて」

「何を?」

 声に出てしまった。慌てて口を手で押さえるが、シュリスは問いただしモードに入ってしまった。

「もう一回って、タオル? それとも、身体を拭う? 着替える?」

 腰元に伸ばされた手に、ビクッと身体が動く。恥ずかしくて、それこそ死にそうだ。


「どうしたの、ユウラ様。言ってくれないとわからない」

 真剣に言ってくれているのに、俺は何も言えない。


「もしかして……キス?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。