暗闇の中(二)
「なんだと」
怒りのあまり、城の中に乗り込もうとしたが、マーシュによって止められた。
「すぐに血を昇らせるのはよくない。まずは、ユウラの捜索が先だよ」
彼の冷静さを受け、雨で頭を冷やす。「うしっ」っと、両頬を叩き、気合を入れ直した。
「僕は、森の方に行ってみる」
「じゃあ、逆の方行くから。何かあったら、ちゃんと知らせろよ」
マーシュは、僕の顔を指差し、走っていった。それを見届ける前に、自分も向かう。
森の中は、雨が降っているため暗く、どんよりとした空気が満たしている。
「ユウラ様! ユウラ様っ!」
声を上げてみるが、返ってこない。
こっち側じゃないのか? 日が落ちてきて、雲も分厚くなる。
「完全に見えなくなる前に、見つけ出さないと――」
服の袖で、顔の水滴を拭いながら目を凝らす。
……一瞬だが、雷によって視界が開けた。
自分が歩く先にあったのは、先端がない崖。
「――っまさか!」
ないとは思っても、ユウラは自分のせいにしがちなところがあった。
今回の婚約破棄も自分が原因だと思っているのかもしれない。
「おーい、ユウラ!」
今までで一番の、大声を出し呼びかける。敬称を忘れるほど焦っていた。
「――――ここだよ」
雨音が声をかき消す。だが、確かに聞こえた。
「ユウラ様!」
声がしたと思われるのは、やはり崖の近く。走り出そうとした時だった。
「待って、そっちは危ない」
僕を呼び止める声が、近くから聞こえた。
声がする場所に目を凝らすと、崖の前に穴があるのが見えた。
急いで覗き込む。
「ここにいますか?」
「うん」
か細い声が返ってきた。身体はぐったりと、土の壁に預けられ、呼吸もおかしい。
「すぐ、助ける」
僕は腕を精一杯伸ばしてみるが、届きそうにない。だが、ここから離れて応援を呼ぶには距離があり過ぎる。
「くっそ、やるしかない」
覚悟を決め、両手のひらを合わせる。雨で下がった体温がゆっくりと上がる。
黄色や白っぽい光が塞いだ手の中から、漏れ出す。
「マーシュ様、気づいてくれ」
包んでいた手を開く。途端に、神々しい光の柱が立つ。
自分がいる場所だけ、雨がやみ始めユウラをしっかりと認識する。
顔が赤く火照っている。また、熱を出しているようだ。
魔力が尽きるまで放とうと思っていたが、早々にマーシュが駆け付けてくれた。
「何があった」
「ユウラ様が、穴に落ちてしまっていて。助けようにも、深くて難しい」
「わかった」
マーシュは、穴に手を向ける。
その瞬間、地面が音を立てて動いていく。穴の中から、ユウラがゆっくり上昇してきて、地面が平らになる。
「ユウラ、大丈夫か? すぐに、医者を呼んで来て」
「ユウラ様、ユウラ様」
マーシュは、共に来ていた使用人に声をかけ、僕はユウラの身体に自分の上着を乗せて抱き上げる。
医者を呼ぶにしても、こんな場所では清潔さがない。
「僕たちは、お城の方に戻りましょう」
「そうだね」
ユウラを探していた他の使用人たちにも、見つかったことを報告し、空いている部屋に通してくれた。
依然として、ユウラは荒い息を吐き続けている。身体は熱く、服越しでも伝わってくる。
「服を脱がせないと」
僕は、彼の服のボタンに手をかけて、脱がせる。その時、腹の細さが気になった。
あばらが飛び出しそうなほど、見えている。肉じゃなく、皮だ。
「食事できてなかったのか?」
傍に居たが、そんなことはなかったはず。だけど、さすがに痩せすぎている。
「お医者様をお連れしました」
扉が数回叩かれた後、白衣の人物が入ってくる。寝ているユウラの状態を診て、「風邪です。ただ、熱が非常に高いので、常にぬるくなったらタオルを変えてください」と言った。
僕たちは、着替えや風呂などを交互に入り、ユウラの様子を見続けた。
翌日には下がったため、マーシュの家に帰ることにした。
「待ってください」
僕たちを呼び止める声が聞こえて、足を止めた。




