暗闇の中(一)
森へと続く道を、雨の中一人歩いた。
水を含んで重くなる服に構わず、彷徨い続けた。しばらくすると崖が見えてきて、手のひらを握る。
「やっぱり……」
崖の元に向かい、一歩一歩足を進める。震えているように感じるが、気のせいだと思い込む。木々が少なくなり、青より黒に近い海が見えてくる。
ここにも、何か魔獣がいるのだろうか。落ちたら、食べられてしまうのかもしれない。
「それくらいでちょうどいいか」
口角だけ上がり、感情のない笑い声が漏れ出す。
「俺は、いなくても――」
足が地面に着いた感覚がなく、もう崖の先まで来てしまったのかと思った。だが、身体に衝撃が加わり、自分が深い穴に落ちただけだと悟った。
「こんな時まで、俺は命を捨てられないなんて」
自分の鈍くささに、うんざりする。最後まで、潔く逝けないんだ。立ち上がろうとするが、落ちた衝撃で、腰を打ってしまったようだ。
上に登るには、立ち上がらないといけないのに、厳しい。
声を出しても、雨音に消えてしまう。ここまでか――。
「おーい、ユウラ!」
***
「まだ、帰ってこないのか?」
「いくら何でも、おかしい」
僕とマーシュは互いに、言い合った。迎えに行くとか、行かせなきゃよかったとか。
今更、そんなことを言ったとしても何にもならない。
「二人とも落ち着いてください」
ソフィが止めに入り、ユウリも心配そうに近づいてきた。
「だが、ユウラ様に何かあったら」
「これに関しては、同じ意見だよ」
初めて、マーシュと意見があった。危険なのは、アシュリーが婚約破棄を告げていること。婚約者を失えば、ユウラの立場がない。
無理やり邸に戻されてしまう可能性がある。
言い争ううちに、窓を叩くほどの雨粒が降り出した。雷が白く光り、黒い雲で視界が悪い。
「僕は行くから」
マーシュに宣言するが、「馬車の手配は、僕がするんだぞ」と強引に、加わった。
「出してくれ」
彼が御者に頼むと勢いよく、出発した。ソフィにユウリを託して、こちらは全力でユウラを連れて帰る。
「会場は確か、モダン王子が用意している」
「ということは、王城?」
恐る恐る聞いてみると、彼は頷いた。そこに、僕のような平民が入れるのか。側が公爵家の馬車だが、この身なりを見られたら……。
身体を縮こませ、服装を隠す。
「どうした? お腹でも痛いのか?」
「そういうわけじゃないです」
そっぽを向いたが、さすがにバレたようだ。マーシュが、群れてしまった時ように持っている着替えを差し出してきた。
「これでも着て、平民だから品格は出ないかもしれないけど、それよりはましだから」
「ありがとうございます」
有難く受け取り、素早く着直した。さすが、貴族と思うほど肌触りがいい。
「そろそろつく頃合いだから、準備はいい?」
「大丈夫です」
城の門番が、扉を叩く。
「本日は、国王のご子息であられるモダン様がパーティーを開催しておられます。ご用件は、ありますか?」
「僕も招待状を貰っているんだ。中に通してくれる?」
中盤辺りで来るのは、怪しいだろう。だけど、雨の中来たということで、とりあえず中に通してくれた。
城内では、なにか問題が発生したのか。数人の使用人が何かを探しているようだった。途中で、騎士たちも捜索に加わっていた。
「この辺でも魔獣が出るんですか?」
「いや、王城に魔獣はでない。だから、わからない」
服が濡れるのにも構わず、馬車を飛び降り、一人の使用人に声をかける。
「あの、何かあったのですか?」
「えっと……」
言っていいのか。悩んでいるように見える。だが、僕は何か嫌な予感を感じた。
「僕も手伝いますから」
「ですが」
「じゃあ、僕も混ざるよ」
話を渋る使用人の前に、同じくずぶ濡れになったマーシュが出てきてくれた。公爵家の登場に、彼女は慌てた様子で話しを始めた。
「実は先ほど、アシュリー様が婚約破棄を告げられて、ユウラ様はお城から飛び出してしまわれたのです」




