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地獄のパーティー

 一週間ほど、マーシュの家に滞在している。

 その間に父様が来ることはなかった。安全な日々に麻痺し始めた時だった。

「ユウラ宛の手紙が届いていたよ。アシュリー・ドランス嬢から」

 マーシュから手渡された。中を見てみると、何かのパーティーの招待状らしかった。


「誕生日でもないのに、なにかあったかな?」

 頭を悩ませるが、婚約者のパーティーのため、参加は絶対だ。

「まだ、体調がすぐれないなら無理に出る必要ないんじゃないか?」

 俺の顔が曇っていることに気づいて、マーシュが声をかけてくれた。貴族だから、わかっているくせに……。彼を見つめていると、背中を撫でられた。

 マーシュなりの励まし方だな。俺は、頬を叩いて気合を入れ直し、参加することを手紙に書いて、送り返した。




 パーティー当日。

「気を付けてな。あの女、何考えているかわかったもんじゃないから」

 怒り気味のマーシュと、

「ユウラ様に危害を加える者たちは、僕がどうにかするよ」

 背中に黒いオーラが立ち上るシュリスが見送りに来てくれた。

「うん、気を付ける」

 変な意地を張らずに、自分の恰好を確認して馬車に乗り込んだ。


 俺の家の馬車ではなく、マーシュに借りた。扉には公爵家の紋章があるし、椅子はふかふかだし、怖いと思う気持ちと嬉しく思う気持ちが戦っている。

「出発致します」

 御者の声を聞き、しっかりと席に着いた。とりあえず、婚約者であるアシュリーの元まで向かってもらうことにした。

 だが、そこにはおらず、先に行ってしまわれたことを執事から知らされた。おかしいなと思いつつも、会場となるモダンの邸に着いた。


 扉を開け、会場に一歩足を踏み出した瞬間、周りにいた貴族たちの声は止み静寂が訪れる。俺の目の先には、先ほど邸にいなかったアシュリーの姿。そして、横にはモダンが立っている。

 婚約者がいる場合、不用意に触れることは許されないはずだが――。彼女は、堂々とした態度でモダンの腕に手を回していた。

「アシュリー伯爵令嬢、どういうことですか?」

 俺は慎重に聞いてみる。彼女は、手にしていた扇子を開き口元を隠す。



「ユウラ・アイジェント子爵令息。貴方との婚約を破棄いたしますわ!」



 瞬時に閉じられた扇子が、俺を指し示す。モダンは、見下すような目つきで冷ややかな視線を送る。

 あまりの出来事に、俺は膝から崩れ落ちた。


「噂通りどころか。生きている価値もない人間だな」

 ゲーム内の快活な印象はなく、次期国王の威厳があった。突きつけられる現実に、剣を向けられる以上の恐怖を感じる。誰もが俺のことを悪く言い、蹴散らし、踏みつぶす。言葉が心に刺さっていく。


「……俺は、そんな人間じゃ――」

 弁解しても、信じてもらえるはずもない。モダンとの関りは全く持ってないからだ。なぜ、アシュリーとこんなに関りがあるんだろうか。俺が来たことによってアシュリーとの関係値が変わってしまったのだろうか。


「アシュリー伯爵令嬢。俺は、貴方になにかしてしまったのでしょうか?」

 婚約破棄はわかっても、噂通りの人柄ではないと彼女は知っているはずだ。俺が入る前のユウラは、一人悩んでいた。そこに救いの手を伸ばしたのがアシュリーだ。

 生きる価値がないとまで言われるようなことはしていない。

「理由なんてないわ。ただ、政略結婚ではなくて愛されたかったのよ」


 俺のせいだな……。その一言は、俺のせいだ。

 ユウラはアシュリーのことを愛していたとは言えないが、好意を抱き常に大切に扱っていた。一人の女性として、自分の婚約者として――。


「申し訳ありませんでした」

 言い訳することはない。俺が彼女に対して真摯に向き合えていなかったからだ。

 だけど、人格を否定される筋合いはなかった。

「ちゃんと向き合えずに、申し訳ありませんでした」

 アシュリーに頭を下げて、その場を去っていった。会場にいた者たちは噂話を始め、扉の外にも聞き耳を立てる貴族たちがいた。


 瞳に浮かぶ水の玉を隠すように、空が雨を降らせてくれた。


「俺は間違っていたんだ。世界を変えてはいけない。俺は死ぬべきだ――」



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