逃亡劇(四)
いつもより口調が悪い。
睨み合う二人は、俺の右腕と左腕をそれぞれ掴んだ。
「それなら、俺の部屋でいいだろ」
「僕の部屋の方が、警備が整っている」
右へ左へ揺られて、頭がくらくらしてきた。吐き気も催してきて、ぐったりする。
「いい加減にしてください」
二人を止めて、助けてくれたのはソフィだった。いまだ、頭は回っているが刺激がなくなったから少し落ち着いてきた。
「……ありがとう、ソフィ」
近くにあった革製の椅子に寝かされる。ここまで、手際がいいなんて――。
「ユウラ、大丈夫?」
椅子の前に座り込む、ユウリを見て指で丸を表現した。
「もう、二人ともやめて。僕がユウラと同じ部屋になるから」
ユウリの真剣な表情に、俺は嬉しくなった。初めてこの世界に来た時、唯一助けてくれた家族で。その後はほとんど床に臥せていた。
元気な時もあったようだけど、起きていたのはその日だけだ。
「ユウリ、俺も同じ部屋がいいな」
目の前にいるユウリの手を掴み、微笑んだ。なんだが、ほっとしたら一気に眠気が――。
最近、眠っている時間が多いから、自分でも少し心配になる。起きたら、マーシュに改めてお礼をして、滞在中は何か仕事を貰おう。
気が付いたら、ふかふかなベッドに運ばれていた。
「おはよう。まぁ、今から寝るんだけどね」
俺が目を開けた時、隣にユウリが横になっていた。これまたいつ着替えたのかわからないシルクの寝巻に身を包んでいた。
「もう、部屋の中ね」
「全然起きないから、シュリスとマーシュ様が喧嘩してたよ」
「なんで⁉」
「どっちが部屋まで連れていくかって、結局ソフィが姫抱っこで運んでくれたよ」
ユウリはさらっと言うが、「いやいやいや、ソフィすごい」
シュリスたちの家から、ユウリを背負ってマーシュの家に来た。それから、喧嘩する二人から俺を取り上げ、ベッドまで姫抱っこした?
ヒロインすごい。俺は心の中でソフィに尊敬の眼差しを送る。
「本に出てくる王子様みたいだったな」
ユウリも同じような眼差しを心の中で向けているだろう。
「そんなに眠くないな」
「結構寝てたもんね」
ユウリが俺の元へと近づいてきて、抱きしめる。その体温につられてまんまと夢の世界へ旅立った。
寝返りを打つと、近くにいたはずのユウリがおらず、腕を伸ばして探す。
「……ユウリ? どこ?」
触り心地の良い、シーツを触りながらどんどん横に進んでいく。ベッドっていってもそこまで大きくないから、いるはずなんだけど。
「ユウリ?」
服を見つけて、抱き寄せる。ユウリの成長早いなとしみじみしていたところ。
「ユウラ様、それ以上は……」
慌てたような声が返ってきた。ユウリとは明らかに違うので、寝ぼけ眼を擦って確認した。
「し、ししし、シュリス――!」
ずいぶん大きいなとは思っていたけど、部屋には俺とユウリしかいないと油断してたから。こんな、こんな恥ずかしいことって――。
「ごめん、忘れてくれ」
近場にあった枕で頭を覆い、背を向けた。空はまだ暗いが月明かりが、俺の顔を照らしている。見られるわけには行かない。
「ユウラ様。ごめんね。ユウリ様は、ソフィのところにいるから」
「な、なんで、ソフィのところに?」
「それは、わからない」
背後から近づいてくる気配を感じた。優しく傷つけないように、俺の肩口からそっと抱きしめてきた。
「おかえしだよ」
耳元で響いた彼の声に、より顔が熱くなる。俺は、そんな風に触ってないのに……。
「えっち……」
自分の言葉とは思えないものに耐えられず、手元にあった毛布でくるまる。
シュリスは、ほどかれた手を布団の上から覆ってきた。
「隠れても無駄だよ。僕は、えっちじゃない。そう考えるユウラ様の方じゃない?」
微笑む声が聞こえる。今は年下かもしれないけど、前世では年上なんだぞ。
言葉には出せないけど、思いっきり拗ねてやった。
「ちゃんと顔を見せてよ」
「いやだ。近づくな」
というか、距離感がおかしいんだよ。たった数回会っただけなのに……。
「元気なお顔見せてよ」
「はぁ」
俺はこうして隠れている方が恥ずかしいと思い、顔だけ出した。
「これでいいでしょ。早く部屋に戻ってよ」
「だから、交換したから帰れないって」
仕方なく背負向けて、離れて寝ることにした。




