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逃亡劇(二)

 声が玄関から響き、シュリスが向かう。

 扉をゆっくり開くと、そこには騎士見習の青年が立っていた。


「夜分遅くにすいません。こちらにユウラ様、ユウリ様はいらっしゃるでしょうか」

 騎士見習の目は笑っておらず、シュリスを犯罪者と決めつけているような雰囲気だった。

「いませんが、どうされましたか?」

 シュリスはごく自然と会話をする。先ほどの慌てようから、考えられないほど落ち着いていた。


「こちらにお二方がいらっしゃると通報を受けまして、参上しました」

 青年も引かずに、玄関に足先を踏み入れる。

「念のため、室内を確認させていただきます」

 シュリスは外へ押し返そうとするが、青年に「貴方が犯人でなければ、抵抗はしませんよね」と言われてしまう。


 シュリスは悩んだ末、抵抗したが、鍛えられ騎士には勝てなかった。

「平民なのに、なかなか広い家ですね」

 青年は平民を見下すような口調で、家の中に目を光らせる。

「たまたま広いだけで、いたるところにガタが来ていますよ」

 シュリスの目が死んでいく。


 俺は、だるい身体を起こして変装道具を取り出した。

 ユウリにベッドの上に座るように頼み、作業を始める。

 この体調でどこまでのクオリティを出せるかわからない。

 ただ、やるしかない。


「ユウラ、大丈夫? 僕が説得してこようか?」

「私も説得してきますよ」

「いや、今はシュリスが誘拐及び殺人犯として逮捕される可能性がある」

 ユウリにカツラを被せ、自分も続けて変装を開始する。


 寝室に置いてあった家族写真を参考にしてみた。

「ソフィ、俺たち似てるか?」

「はい! かなり本物です」

 彼女は手を叩き、俺たちの変装に感嘆している。


「この部屋は何の部屋ですか?」

 玄関にいた男の声が扉の前から聞こえる。

「ここは、寝室です。特に何もないので、隣の部屋を案内します」

 シュリスは俺たちがいる場所を避けようとしていた。

だが、それが一番怪しい行動になっている。


「それじゃあ、お邪魔しますね」

 彼の言葉を無視して扉が勢いよく開いた。

 中には、俺とユウリ、ソフィがいる。

「お父さん、お母さん⁉」

 彼は俺たちを見て、かなり驚いていた。


「ここのお父様とお母様ですか。夜分遅くに失礼しています」

「何のためにいらしたの?」

「こちらのお宅に、ユウラ様とユウリ様がいらっしゃるとの通報を受けてまいりました」

 青年は優しい口調でそう話す。俺は、すぐに出て行ってもらうように働きかけた。


「その情報は間違っているんじゃないかしら?」

「どうしてですか?」

 途端に、不機嫌そうな表情を向けてくる。

「ユウラ様は平民の子を殺そうとしたのだろう? それじゃあ、ここに居たらおかしいじゃないか」

「ですが……」

 青年は、俺の方へ一歩近づいてくる。


「わたしはここにいたけど、貴族らしい服装の子は見ていないよ。それに悪魔に会ったら、呪われるぞ」

 彼を睨みつけるように話すと、怯え切った様子で扉を勢い良く閉めていった。

「し、失礼しましたっ!」

 青年が去ったあと、胸が苦しくなった。


 自分で行っといてなんだが、過去のユウラの行いは悪いものではない。

 助けようとした――いい子なのに――。

 瞳に涙が浮かぶ。拭っても拭っても止まらなくて、衣装にはメイクがついていた。

 きっと今の顔は化け物のようだろう。


「ユウラ⁉ どうしたの?」

 事情を知らないユウリは、俺を心配して背中をさすってくれる。

「大丈夫。なんでもないよ」

 言葉とは裏腹に呼吸が苦しくなって、言ってしまった言葉への重みを感じた。


「このままここにいるのはまずい。どこか場所を移そう」

 俺を前から優しく抱きしめて、シュリスが言った。

「……ごめんなさい。……迷惑だと思うけど、行く当てがある」

 乱れた呼吸の合間に言葉を紡いだ。


「友達、の――、マーシュ様の家に」


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