仮面パーティー(一)
このまま逃げ出したかった。だが、そんなことをしてしまえば、ユウリがもっとひどい目に遭ってしまうかもしれない。
眉目麗しいといっても、個人差がある。万人に受けそうな顔か……。
教会までの道のりで、男女ともに人気のある旅芸人を真似することにした。
中性的な顔立ちで、まだ幼さが残る。雪のように白い肌はもちっとして見える。
目鼻立ちは目立つところはない。ただ、魅力がある。
まったくそのままだと、彼が誘拐される可能性があるため髪は長めで、半分あげる形にする。
ハーフアップは俺の好みだが、清楚な雰囲気が伝わる。
変装道具を売っていた店で買ったお面を、自分の手で少しずつ変えていく。
この顔に似合う白いワンピースのようなドレスを買った。
彼の声は優しく澄んでいて聞くものの心に浸透する。
森の中で見つけた零れ日が差し込む、安らぐ場所のようだ。
「んんっ、あー、あー、あー」
彼の声のような澄んだ声は出せないけど、柔らかさや温かさを含む雰囲気を出してみる。
唯一無二の声だ。だけど、この声がこの顔が知らない人の手に渡るのは避けたい。
だから、変装を解いて自分の顔を整わせた。
自信をもって邸に戻る。
父親は、高級そうなお酒を煽りながら、俺の姿を見てくる。
「それじゃあ、服装だけだろ! もっと、美しくしなさい。お前の顔は醜いのだ」
貴重なお酒を俺の顔にかけ、化粧を落とす。
拭った手についた下地やアイメイクが俺の心をすり減らす。
「俺は、誰の顔にもなりたくない。誰かが傷つくようなことはしたくないんだ」
「はぁ?」
「俺の顔で、今よりキレイになる。服装だって気を付けるから、これで行かせてください」
初めてに等しい。父様に敬語を使った。
上機嫌になった父様は、雑巾を投げつける。
「じゃあ、さっさとキレイにして来い」
俺は無言で雑巾を拾い、自分の部屋に戻った。
鏡の前で崩れた化粧を確認し、雑巾で拭いとる。
全部は、ユウリがこれ以上傷つかないため。
それ以上はなかった。
汚れてしまった衣装に、花やリボンを付けてアレンジを加える。
「これで、よし」
鏡に映る新しい自分に、気合を入れる。
ユウラの顔を見て、罪悪感が次から次に沸いてきた。
「ごめんね、ユウラ。君の身体を使ってしまって」
深呼吸で、精神を落ち着かせ再び視線を鏡の中へ。
両手の人差し指で口の口角を上げる練習を繰り返す。
一番キレイで、美しい状態に……。
バンバンッ
部屋が乱雑に叩かれる。
「おい、まだか。すぐ行かないと間に合わない」
「今行きます」
一番深い深呼吸で息を整える。
震える手を抑えて、ゆっくりと扉を開いた。
「まぁまぁな出来だな。ついてこい」
正装に着替えた父様と、いつの間にか現れた兄様に押されて馬車に乗り込む。
「今日は仮面パーティーだ。見えなくても顔の美しさはわかる」
「ちゃんと気に入られて来いよ」
兄様は、不敵に笑う。
「はい、役目は必ず果たします」
ガタガタと揺れる馬車の中で吐き気をこらえながら、気持ちを整える。
ひときわ揺れて、馬車が止まった。
「ユウラ、今夜のお前のあだ名はユイだ。上玉を捕まえてこい」
「……はい」
父様から渡された白い仮面を身に着けて、どこの家かわからない邸に入る。
中は広くて、シャンデリアが何個も高い天井の上で輝きを放っていた。
赤や青、黄色と派手な衣装に身を包み、お酒を片手に話している人々。
開いた扉から入ってきた俺たちに気づき、足元から頭の先まで見られる。
その眼差しは価値のある人間かどうかを判断されているようだった。
「可愛らしい子ですね」
俺が立ちすくんでいると、頭に手が伸びてきた。
そこからは、どんどん人が主に男性が近付いてきて俺を判断しだした。
「ほうほう、なかなか」
舌なめずりの音まで聞こえてきて、体の震えが抑えられない。
「体調が悪そうですね。私と一緒に休憩しましょう」
優しそうな青年が俺のわきの下に手を入れ、持ち上げた。
「よろしいですか?」
「ええ、どうぞどうぞ」
「では……」
「えっ、あの、下ろして――」
「静かにしていろ」
人気がない休憩室に運ばれ、椅子に下ろされる。
それと同時に、太ももに手を這わせてきた。
「いやっ、やめて!」
逃げようともがくが、力が及ばない。
その時、扉が勢いよく開いた。




