彼岸花
帰る途中で例の薬草を入手した。
葉の色が濃くて、逃がそうな印象を受ける。
邸に戻ると、顔色の悪いユウリがベッドに横になっていた。
いつもの元気がなく、熱に侵された体は汗をかき、荒い呼吸を繰り返している。
「ユウリ、大丈夫か? どうしたんだよ」
慌てて駆け付け、濡れタオルを桶にある水で絞り直した。
「……はぁはぁ、ユウ、ラ? おかえり」
弱弱しく笑う。その瞬間、心臓が苦しくなった。
まだ時間があると思っていたけど、そこまで症状が何もないわけがない。
自分の考えの甘さに涙が溢れてくる。
手に持っている薬草を渡すか迷いだす。比較的元気な状態でなければ、この薬草は毒になる。
今の状態ならなおさら、そんなことをしてしまえば……。
ポケットに乱雑に入れ込み、桶の水を変えるためにその場を去った。
厨房で睨まれたり、廊下で舌打ちされながらも氷水を用意した。
「ユウラ、ありがとう」
先ほどよりかは、楽そうになったユウリが起き上がる。
やはり、笑顔で――。
「俺にはこれくらいしかできないからな」
「十分だよ。看病をしてくれる人は使用人しかいないから。家族できてくれたのはユウラだけだよ」
「そんな――」
衝撃を受けた。俺が嫌われているのはわかるが、ユウリまでそんな扱いとは。
思えば、最初からそんな素振りがあったかもしれない。
「じゃあ、俺が精一杯看病する」
「ありがとう」
慣れないことをしたためか、失敗も多く疲れてしまった。
だが、ユウリの顔色は最初の頃に比べるとずっと良くなった。
「そういえば、ユウラ。そのポケットに入れた薬草はなに?」
ユウリが差した先には薬草が……先の方だけが飛び出していた。
「あ、ああ、ははは」
笑ってごまかそうとしたが、そう言うわけにもいかず、彼に見えるように差し出した。
「なんか苦そうな色してるね」
「うん、今日さマーシュ様と社会体験してきた帰りに本屋に寄ったんだ。そこで、見つけた本に書いてあって」
ボロボロと触るごとに、紙が崩れていく本を丁寧にベッドの上に乗せた。
「これ、血行が良くなる薬?」
「そう、俺。ユウリの病気の知識がないから手探りだけど、魔力は血管に流れているんだろ? だから、血行を良くするだけでも変わるかもしれないと思って……」
ユウリは本を読んで、薬草をそのままパクリと口に含んだ。
「そんな、体調悪い時に――もし、悪化でもしたら」
不安から、目を閉じてしまった。
何も聞こえてこない。もしかして……。
「成功した……?」
「ごふっ」
その時だった。ユウリの口元から血が溢れ出したのは。
白いベッド、本、俺の服まで赤い飛沫が飛んでくる。
「ユウリっ! 誰か、誰か来てください。誰か!」
俺の大声で駆けつけた使用人が、部屋の中の状況を見て悲鳴を上げた。
すぐ後に、父様と兄様も駆け付ける。
「何事だ。騒々しい」
「うるさいぞ」
文句を垂らしながら、俺たちを見る。
ベッドに血を流し倒れるユウリと、ただ茫然とその光景を見るしかできない俺。
父様は、面倒くさそうに医者を呼び付け、俺の首元の服を引っ張り引きずり出した。
「お前はなんてことをしたんだ。こんなことなら、早々に捨てるんだったな」
「なんで……」
「ユウリは研究所で解剖予定だったんだ。死んだ後にもお金を稼いでもらうためにな。あの状態を保つ必要があるんだ」
その言葉は衝撃的で、子どもを人だと思っていない親の言葉に前世の親の方がまだましであると思ってしまった。
「そうだ、お前の利用価値がある。なるたけ眉目麗しい姿に変装しろ。どこぞの変態貴族が買ってくれるだろう」
ぐへへと、よだれを垂らしながら言う父親に吐き気を覚える。
「すぐに準備をしろ、服は割といい物を買ってこい。もちろん、お前が稼いだ金でな」
俺は唇を噛みしめて、邸を飛び出した。




