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学生に不人気な時代を研究していた大学教授、異世界で奴隷から皇帝へ  作者: 越後⭐︎ドラゴン
崩壊と建国

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97話

 草原は風もなく、晴れ渡っていた。

 日差しが注ぐ中、賀蘭部と匈奴の戦いは佳境(かきょう)を迎えつつあった。


 ケイが中央に介入したことで、ソンスウ軍は息を吹き返し、匈奴の軍を押し返す。


 ハクエンは匈奴軍の背後に回り込み、鋭く突いた。


「ほう。なかなか良い動きをする。しかも女か」


 カクレンはハクエンを見て、ニヤリと笑う。

 手を挙げると、匈奴の軍勢は道を開けた。


「誘ってるの? いいわ、乗ってあげる」


 ハクエンは迷わず、カクレンに向かって突進した。


 ――違和感。


 頭上に気配を感じ、咄嗟(とっさ)に水流剣を振り上げる。


 何かを斬った手応えがあり、血が降ってきた。

 地面にドサッと、真っ二つになった狼が落ちてくる。


「ふふ、オットウだ。ここは任せた。殺すなよ」


 カクレンはそう言い残すと、ケイを討つべく前に出た。


「待ちなさい! ケイの元には行かせないわ!」


「お前の相手は、このオットウ様がしてやる」


 数十匹の狼を従えた男が、ハクエンの前に立ち塞がる。


「狼使いだと!? そのような獣に遅れをとる私ではない!」


 オットウが指をパチンと鳴らすと、三匹の狼が同時に飛びかかってきた。

 喉元、腹、脚――それぞれ急所を狙っている。


 ハクエンは水流剣をぐるりと回す。

 三匹の狼は同時に真っ二つになった。


 続けて、六匹の狼が襲いかかってくる。

 それも同様に斬り捨てた。


「何度やっても無駄よ!」


「馬鹿め! 周りを見てみろ!」


 オットウの言葉に、ハクエンは視線を巡らせた。


 配下の騎兵たちは、初めて相対する狼に困惑(こんわく)していた。

 馬の首や脚に噛みつかれ、振り落とされた兵たちに、狼が群がり食いちぎっている。


「くっ……止まるな! 狼など振り払え!」


「まんまと飛び込んできたお前の失態だ。

 だが安心しろ。お前は殺しはしない。カクレン様に(ささ)げるのだ」


「ふざけるな! ならば貴様を討つまでだ!」


 ハクエンはオットウに向かって突進した。

 だが、周囲を囲まれつつある状況に、焦りが生じる。


 飛びかかってきた狼の一匹を仕留め損ね、太ももを噛まれた。


「あっ!」


 慌てて振り落とす。

 だが、太ももに傷はなかった。


「お前は大事な献上品(けんじょうひん)だ。傷をつけるわけにはいかないのでな!」


「おのれ……私を(なぶ)る気か!」


 怒りに任せて前に出ようとした瞬間、狼が馬の脚に噛みついた。

 馬は驚き、竿立(さおだ)ちになる。ハクエンは振り落とされた。


 周囲を狼たちが取り囲む。


「大人しく降参しろ」


「誰が!」


 立ち上がり、飛びかかる狼を次々と斬り伏せる。

 だが、狼の数は減る様子がない。


 初めは数十匹に見えた狼は、いつの間にか百を超えているように見えた。


 絶体絶命(ぜったいぜつめい)であった。


 ⸻


 エイゲツは中央の乱戦を見て前に出た。

 対峙する賀蘭部の軍は、エイゲツ軍の半数しかいない。


「舐められたものだ。さっさと撃破して、カクレン様の手助けをするぞ」


 ジュンカンは歯を噛み締め、突撃してくる匈奴軍を見据えていた。

 先頭にいるのはエイゲツ。話には聞いていたが、実際に目にすると動揺を隠せなかった。


「……やるしかないか。出るぞ!」


 意を決し、前に出る。


 距離が詰まる。


 同時に石礫を放った。


 それは空中でぶつかり、粉々に砕け散った。


「なんだ!? 同じ魔法を使うのか!?」


 エイゲツは驚き、剣を石で巨大化させ振り上げる。


 ジュンカンも同じように振り上げた。


 ガツン、と鈍い音が響く。

 互いの石は砕け、刃同士の鍔迫(つばぜ)り合いとなる。


「エイゲツ! 目を覚ませ!」


「誰だ貴様は! 私の名を呼ぶな!」


 わずかな動揺が走る。


 ジュンカンは剣を押しのけ、馬首を返して距離を取った。

 振り向きざまに石礫を放つ。


 それはエイゲツの額に命中し、兜を割った。


 旋回し、包囲を避けながら駆ける。


 エイゲツは動きを止めた。

 額から血が流れる。


「……なんだ、この感覚は……」


 懐かしいものが、額から流れ込んでくる。

 知っている魔力――自分のものと似た感触。


 その正体に気づき、エイゲツはハッとした。


「これは!…」


 治癒魔法の影響もあり、カクレンの洗脳に(ほころ)びが生じていた。


「ジュンカン……ケイ……」


 すべてを思い出す。

 自然と涙が溢れた。


「私は……何をしていたんだ……」


 涙を拭い、剣を振り上げる。


極悪非道(ごくあくひどう)のカクレンを討つ! 続け!」


 匈奴の兵たちは驚いた。

 だが、次第に恐怖が憎悪へと変わっていく。


「エイゲツ! 思い出したのね!」


「ああ……すまなかった。お前のおかげだ」


「私はハクエンを助ける。あなたはケイの援護を!」


 エイゲツは中央へ、

 ジュンカンは後方で孤立するハクエンのもとへ向かった。


 ⸻


 乱戦の中、ケイとカクレンが睨み合う。


「無駄なことだ! 早く降参しろ!」


 カクレンの怒号が響く。


「貴様などに屈するケイ様ではない!」


 サクが矢を放つ。

 だがカクレンは素手で掴み、投げ捨てた。


「小娘が! 我に従え!」


「だめだ! サク! 見るな!」


 カクレンの目が妖しく光る。

 離れていてもサクは頭を抱え、馬から転げ落ちた。


「ブクレン! サクを頼む!」


 ケイはそう叫び、乱戦へと飛び込む。

 水流剣で遮る兵を薙ぎ払い、踏み込んだ。


「よいぞ、ケイ! 受けてたとう!」


 カクレンが大剣を抜く。


 ガキィン、と水流剣と大剣が激突する。


 ケイは剣圧に押され、吹き飛ばされた。


「なんて馬鹿力だ……!」


 魔法ではない。

 巨躯(きょく)から繰り出される、純粋な暴力。


 カクレンがゆっくりと迫る。


 兵たちが立ちはだかるが、一振りで弾き飛ばされた。


 大剣が振り上げられる。


 その瞬間――

 匈奴軍の側面に、エイゲツ軍が突入した。


「馬鹿な! エイゲツだと……!」


 注意が逸れた刹那(せつな)


 ケイは見逃さなかった。


 水流剣を斬り上げる。


 剣は伸び、カクレンの股間を切り裂いた。


「うぎゃぁぁぁぁぁ!」


 湿った音が響く。


 地面に落ちたものを見てカクレンは愕然とする。


 カクレンの身体が一回り小さくなり、筋肉が(しぼ)む。

 それでもなお、常人を超えた体躯であったが。


「くそ……覚えていろ、ケイ……!」


 傷を押さえ、背を向けて逃げ出す。


「待て!」


 追おうとした瞬間、矢が頬を掠めた。


 カンアリが立ち塞がる。

 背後ではシトウがその軍を叩いていた。


「カンアリ! 殿をせよ!」


 カクレンは逃げ去り、カンアリは矢を撃ち続ける。


 後方では、ハクエンが狼の群れに囲まれていた。

 倒れた狼は七十を超えている。


 ハクエンは自分の体に傷ひとつないのが一番腹立だしかった。体力だけが消耗していく。


 オットウが止めを刺そうと手を挙げた瞬間、石礫が飛んできた。


 オットウの頭が砕ける。


 狼たちは我に返ったように動きを止めた。


「ハクエン! 大丈夫か!」


 ジュンカンが肩を貸す。

 ハクエンは魔力を使い果たし、ぐったりしていた。


 カクレンの逃走により、匈奴軍は崩壊した。

 武器を捨て、投降する者が続出する。


 最後まで抵抗したカンアリも、エイゲツの石礫を受けて絶命した。


 ケイが大将として、初めて手にした勝利であった。


 草原に、賀蘭部の勝鬨が高らかに鳴り響いた。

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