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学生に不人気な時代を研究していた大学教授、異世界で奴隷から皇帝へ  作者: 越後⭐︎ドラゴン
崩壊と建国

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95話

 カクレンの圧は、それからも毎晩のように続いた。だがレイは耐え続けた。

 レイの治癒魔法は強力であり、カクレンの洗脳(せんのう)魔法を自ずと打ち消していたのだ。

 カクレンはなかなか従わせることができず、苛立(いらだ)っていた。


 その間、カクレン軍の行軍は遅くなっていた。

 エイゲツはさすがに遅いと感じ、カクレンの軍営に様子を見に行った。だが親衛隊に止められた。

 カクレンは連夜の疲労で眠っているのだという。さらに、その疲労の原因を聞き、エイゲツは苛立った。


「カクレン様を惑わす女とはどいつだ!? その顔を拝んでやる」


 このところエイゲツはカクレンの寝所に呼ばれなくなっており、悶々(もんもん)としていた。

 エイゲツは、その女がいる軍営に押し入った。


「エイゲツさん!?」


 軍営に一人でいた女に名前を呼ばれたが、エイゲツには誰なのか分からなかった。

 わずかに頭痛がした。あの賀蘭部の男が統万城に火を放った時と同じ感覚がした。


「何者だ!? なぜわたしの名前を知っている?」


「どうやらカクレンに洗脳されているようね……」


 エイゲツは、レイが頭に触れようとしたのを「触るな」と言って手を払いのけた。

 だが一段と頭痛が酷くなり、その場にうずくまってしまった。

 レイがエイゲツの頭に手を当てた。


 レイには連日の出来事から確信があった。

 レイの治癒魔法には、洗脳を打ち消す効果がある。

 カクレンの干渉(かんしょう)に耐えられた理由は、それしか思い当たらなかった。

 レイの手のひらから、温かい魔力が差し込まれる。


 だが、急にエイゲツは立ち上がり、乱暴にレイを突き放すと、叫びながら軍営を飛び出していってしまった。


「やめろ! わたしの頭の中を掻き乱すな! うわぁー!」


 レイは呆然(ぼうぜん)としていた。

 どうやら他人の洗脳を消すには、相当な苦痛を伴うのだと理解した。


 カクレン軍の滞陣(たいじん)の理由を知らない兵たちは騒ぎだした。

 どこからか「カクレンは病になり重篤だ」という噂が流れる。

 もとより兵たちに忠義心はない。恐怖の対象が死ぬなら、それは喜ばしいことでもある。


 カクレンは、その噂が流れていることを看過(かんか)できず、行軍を再開した。

 噂を口にしていた兵を何人か見せしめに首を刎ねた。

 レイへの執着は一旦脇へ置く。従軍させるのは邪魔であったため、レイは統万城へ護送させた。


 草が風で靡く。馬蹄の音が大地を揺らす。

 カクレン軍五万と、ケイの賀蘭軍四万が、ついに対峙(たいじ)した。


「降伏せよ! 我が婿に来るなら許してやるぞ!」


 カクレンは大音声で、ケイに降伏を呼びかけた。

 ケイに対して未練がないと言えば嘘になるのだ。だが、ケイは言い返した。


「恐怖で支配する者に従う道理はない! 匈奴の兵よ! 目を覚ませ!」


 ケイの声は決して大きくはないが、よく通った。

 カクレンは舌打ちし、手を挙げた。陣が鶴翼(かくよく)に開いていく。

 左はカンアリの一万、右にエイゲツの一万、真ん中にカクレンの三万が構えた。


 それに対してケイも鶴翼で合わせた。

 右にシトウの一万、左にジュンカンの五千、真ん中にソンスウとブクレンの二万を構え、ケイは五千でハクエンとサクを従え、後方に入った。

 (いびつ)な鶴翼であるが、ケイは戦況を見て動くことにした。


「左からだ! 突撃!」


 カクレンが号令をかけると、左翼のカンアリが動いた。

 カンアリは弟のアリラと違い異形ではなく、先頭を駆ける将でもなかった。

 匈奴には珍しい重騎兵(じゅうきへい)を前に出し、カンアリはその後につき、弓で狙撃した。


 対峙するシトウもまた弓を使う。直属の百人の小隊も弓の名手で固めていた。

 シトウはカンアリの矢を次々と撃ち落とした。


「一斉狙撃!」


 シトウが手を振り下ろすと、一斉に火矢が放たれた。

 それは的確に重騎兵の兜の目の隙間や、馬の喉などを射抜いていく。

 重騎兵たちは兜の中から焼け悶え苦しんだ。


「くそ! 舐めるなよ!」


 カンアリは二本の矢を同時に射る。矢はそれぞれ左右へ、反対の方向に分かれて飛んでいく。


「危ない! 伏せろ!」


 誤射に見えた矢には鋼線(こうせん)が括り付けられていた。

 矢が広がり、鋼線がピンと張って飛んでくる。

 シトウは身を屈めてかわしたが、十人ほどの部下たちはかわしきれず、鋼線に首を飛ばされていった。


「恐ろしいやつだ! 早く奴を仕留めねば!」


 騎馬隊が激しくぶつかり合った。馬が宙を舞い、振り下ろされた兵が踏み潰される。

 たちまち乱戦となった。

 その中でもシトウとカンアリの撃ち合いは続く。乱戦に紛れながら、兵に身を隠しながらも、お互いの急所を狙って矢が飛び交う。


 カクレンは左翼の戦いを見守るつもりはなかった。

 中央軍三万のうち、一万に突撃を命じた。騎馬は左翼の乱戦に介入しようと動く。


 賀蘭軍のブクレンが前に出る。地面に手を当てると、草花が枯れ始めた。

 ブクレンは木魔法の大技を使い、疲労で倒れる。

 ソンスウが火矢を放った。草原が一気に燃え広がる。

 匈奴の中央軍一万は突如の火に馬たちが驚き、大混乱に陥った。

 そこに追い討ちをかけるように矢の雨が降り注ぐ。


 匈奴軍は逃げ戻ろうとしたが、カクレンの(げき)が飛ぶ。


「その程度の火で狼狽えるとは、それでも誇り高き匈奴の兵か! 前に進め!」


 カクレンは中央軍の残り二万と共に前に出た。

 下がってきた兵は斬り捨てる。

 カクレンの強烈な後ろからの圧力で、匈奴軍は前に出るしかなかった。

 中央も乱戦になった。ブクレンは疲労で動けず、ソンスウはカクレンの猛攻に必死に耐えるしかなかった。


「カクレン……やはり強い……」


 ケイは左のジュンカンの戦場を見た。

 まだ動きはなかったが、対峙するエイゲツが気になって仕方がなかった。


「ケイ、エイゲツはジュンカンに任せるしかないわ。中央が崩れると負けるわよ」


 ハクエンの言葉に、ケイは頷くしかなかった。


「ジュンカン……くっ! 動くぞ! カクレンを討つ!」


 ケイの五千の軍が動いた。二つに分かれる。

 ハクエンは二千を率いてカクレンの背後に回り込む。

 ケイの三千は正面から乱戦に介入する。


「ついに出てきたな。今度こそ屈服させてやる」


 カクレンはニヤリと笑う。火は馬蹄に踏まれ、消えていく。

 ケイとカクレン、命運を決める戦はいよいよ佳境(かきょう)に突入した。

 

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