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学生に不人気な時代を研究していた大学教授、異世界で奴隷から皇帝へ  作者: 越後⭐︎ドラゴン
崩壊と建国

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93話

 乾いた草原を匈奴の騎兵二万が猛進(もうしん)する。アリラは賀蘭部の先鋒が一万で、しかも半分は歩兵であるのを見て、一気に殲滅(せんめつ)しようと考え、陣も構えずそのまま突っ込んだ。


 ジュンカンは先頭を立つアリラに目を見張った。一人だけ飛び抜けて大きく、乗っている馬が小さく見えた。全身が筋肉で覆われており、巨大な斧を構えている。


「化け物か! だが狙いやすい的だ!」


 ジュンカンはアリラが八十歩のところまで近づいた時、狙いを定めて石礫を放った。ビューッと風を切りながら真っ直ぐに飛んでいく。アリラの額に命中した。


「何だ!? 痛えじゃねえか!」


 石礫は確かにアリラの額に当たったが、石礫の方が粉々になった。


「くそ! 強化魔法か!」


 ジュンカンは石の壁を正面に作り、馬首を返して、槍を突き出して構えている歩兵の後ろに回る。


「こざかしい! 皆殺しだ!」


 アリラは斧を振り回して石の壁を粉砕する。そしてそのまま、槍が並べ立てられているのにもお構いなく、歩兵に突っ込んだ。


 ガキッ、バキッという激突音と共に、歩兵が数十人宙に舞った。アリラは歩兵を蹴散らしながら、真っ直ぐにジュンカンめがけて突き進んでくる。目が血走っていた。


「あれは人なの!? まるで獣だわ!」


「ジュンカン! あれに構うな! 周りの兵を討て!」


 ケイの三千の騎馬隊が早くも前に出てきた。アリラに向かう。サクが矢継ぎ早に射る。アリラはそれを避けることなく弾き飛ばした。


 サクはそのまま千の騎馬を引き連れ、ジュンカンの援護に回った。アリラにはケイとハクエンが立ち向かう。


「決して止まらないで! 一撃入れたらすぐに離れて!」


「わかってる!」


 ケイは水流剣で斬りつける。アリラはそれを斧で弾く。ケイはすぐに離れると、今度はハクエンの水流剣が振り下ろされる。アリラはそれは交わすことが出来ず、肩に受けた。


 バシィッと、まるで鞭を打ったような音が響く。ハクエンが離れると、今度はケイがアリラの背中を打った。やはり鞭で打ったような音がする。


 アリラは傷こそ受けていないが、痛みは感じているようであり、顔を(しか)めていた。


「うっとしい羽虫どもめ! 正々堂々と撃ち合え!」


 ケイとハクエンは執拗(しつよう)に打っては離れるを繰り返した。次第にアリラの息が上がってきた。斧も大振りになり、隙が大きくなっていった。


 ジュンカンとサクは歩兵に絡みつく匈奴の騎馬隊の背後に回り込み削っていた。だが、匈奴の方が数が多く、決定的な打撃を与えることが出来ないでいた。逆に歩兵が徐々に削られていく。


 ケイとハクエンはアリラへの攻撃を繰り返したが、なかなかアリラの強化魔法は解けない。次第にケイの方も息が上がってきた。モクランから承継(しょうけい)された水流剣をまだ物にしたとは言えず、無駄に魔力を消費していたのだ。ケイの動きが鈍くなり、ハクエンはそれを庇うような動きを取らざるを得なかった。


「ケイ! しっかりして! よく敵の動きを見るのよ!」


 そう言いながらも、ハクエンはアリラの斧を受ける剣を持つ手が痺れてきており、余裕が無くなってきていた。


 その時である。


「賀蘭の兵よ! よく見よ! ケイ様のあの勇姿を! 我々も続くぞ!」


 賀蘭部の軍一万を率いていたシトウであった。彼は賀蘭部の中でも一、二を争う勇将であった。史実でも北魏建国に大いに貢献する人物であった。


 シトウの一万は歩兵に絡みついていた匈奴軍に襲いかかる。ジュンカンとサクは呼応した。


 匈奴軍は混乱し、アリラの周りも賀蘭軍が囲み始めた。


「おのれ! 勝負はここまでだ! 次はこうはいかぬぞ!」


 アリラはケイに狙いを定め突進する。ハクエンが間に入る。その時に生じた空隙(くうげき)を突いて、包囲を脱出した。


「敵は引いたぞ! 勝鬨をあげよ!」


 シトウは高々と槍を上げ、勝ちを宣言した。賀蘭軍の兵たちの声が天に轟いた。中身的には引き分けのような内容であったが、その声は賀蘭軍の士気を大いに上げるのであった。その声の中心にいるケイも、高々と剣を振り上げた。


 カクレンはアリラを急がせた割には、軍が集結するのを待って統万城を出た。右翼にエイゲツの一万、左翼にアリラの兄であるカンアリが一万を従えた。カクレン本軍は三万であった。


「お前の弟の力を試させてもらうぞ」


 カクレンはカンアリに言った。カンアリもアリラも、カクレンに反抗していた匈奴の有力な族長であったが、カクレンにより洗脳(せんのう)され従っている。


 カクレンにとってはただの駒だ。アリラが勝とうが負けようがどうでもよかった。


「あれは何だ?」


 カクレンが休息のために立ち寄った村に、何人も列をなしている一軒家があった。並んでいるのは怪我人であった。


「あの方はまさしく神様のようなお人だ。(あきら)めていた傷が治ったぞ!」


 一軒家から出てきた男の言葉を聞き、カクレンは興味を持った。どうやら一軒家は診療所(しんりょうじょ)らしい。


 カクレンは列を押し除け、一軒家に入った。


「ダメです。列に並んでください!」


 カクレンを制止しようとした女は睨みつけられると大人しくなり、カクレンを通した。


 診療所に居た女は、どこか高貴な雰囲気を持っており、しかも美貌の持ち主であった。女であるカクレンも、ハッとする程の美しさであった。いや、カクレンの男の部分も疼いていた。


「あなたはどなたですか?」


「ほう。匈奴の地にいるくせに、わたしを知らないとは無礼なやつだ」


「まさか……カクレンとはあなたですか?」


「おい、女。呼び捨てするとはいい度胸だ。名乗れ」


 カクレンは女の顔を片手で掴むと、そのまま椅子から吊り上げた。


「わ……わたしの名はレイです……」


 カクレンは手を離すと、レイの体はどさっと床に落ちた。レイはゲホッ、ゲホッと咳き込む。


 レイという名前には聞き覚えがあった。秦の最後の王、フトウの妃であり、陳倉を守っていた将でもあった。陳倉は落ちたが、どうやら匈奴に落ち延びていたようだ。


「秦の皇后様ともあろう方が、この地で何をしている」


 レイは、カクレンが自身を知っていることに驚いた。レイは陳倉脱出後に長城を越え、匈奴を縦断して盛楽を目指していたが、匈奴の村々のあまりの惨状に耐えかね、行く先々で民の治療をしていた。


 カクレンは民にとっては恐怖の大王であった。城の建築に行った人夫は帰って来ない。何でも城壁に埋められたと言われていた。簡単に人を殺す。気に入った者は男でも女でも召し上げられ、廃人となり捨てられた。レイはその噂を何度も聞き、カクレンを唾棄(だき)する程に嫌悪(けんお)していた。そのカクレンが目の前におり、レイの心拍は激しくなった。


「ふん。生意気な女だが、我の側に置いてやる。ついて来い」


 レイは逃れる術は無かった。ケイに再会する前に死ぬ訳にはいかないと思うだけであった。

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