84話
ヨウコウは急に陳倉の抵抗が弱くなったと感じた。数日前に何やら夜中に騒動があり、騎馬隊が出てくる気配があった。夜襲を警戒していたが、何も起きなかった。
魔道具の強弓の修復が済んだので、試しに火の矢を撃ってみた。矢は撃ち落とされることなく櫓を焼いた。
「これは罠なのか……」
ヨウコウはあっさりと櫓を焼くことが出来たことを不審に思い、試しに百人隊を突っ込ませた。何事もなく百人隊は城門まで辿り着いた。
「どうやら道を守る軍は離脱したようだな」
ヨウコウは全軍を進軍させた。蛇行した道は伏兵も矢の襲撃もなく、何なく城門まで辿り着いた。
「歩兵隊、城壁を登り、城門を開けよ」
城壁に梯子がかけられ、ヨウコウ軍が登っていく。矢の応戦が来る。だが、道で受けたものと違い、大した量ではなかった。千人隊が城壁に登る。
城壁は厚い。城壁の上も騎馬が駆け回ることが出来るほど広かった。ヨウコウ軍が上がり始めると、城壁の上を秦の騎馬隊が待ち構えており、ヨウコウ軍の歩兵を蹴散らしていった。
城壁からヨウコウ軍の兵が降ってくる。
「弓を!」
レイは指揮所から城壁に上がったヨウコウ軍めがけて弓を引いた。城壁までは多少距離はあるが、レイは木魔法を応用し、矢の速度を上げることが出来る。矢は勢いよく飛び、千人将などの指揮官を狙い撃ちにした。
「何をしている! 早く制圧せよ!」
ヨウコウは城壁に上がった軍が苦戦しているのに苛立った。自ら城壁に上がろうとしたが、配下に止められる。
「どうやら指揮官が狙い撃ちにされています。危険です!」
「どけ! 矢ごときで怯んでどうする!」
ヨウコウは周囲を鉄の大楯を持った兵で固め、魔道具の強弓を持ち、城壁に上がった。
レイはヨウコウが城壁の上に現れたのを見て、弓を放った。だが、大楯に遮られ、ヨウコウには届かなかった。大楯には矢が突き立っている。
「ほう。皇后様はなかなか良い矢を放つ」
ヨウコウはレイを見つけると強弓を引き、矢を放った。強弓は弦が強く、人の手で引くのは難しい。矢は勢いもなくすぐに落ちると思われたが、矢は方向を変え、レイに向かって飛んできた。
「あっ!」
レイの顔を掠め、後ろにいた兵たちを貫通する。レイは身動き一つ出来なかった。
「皇后様! ここはお下がりください!」
レイは侍女たちに支えられ、指揮台から離れた。
「矢を恐れるな! 狙撃は止んだぞ!」
ヨウコウが叫ぶと、城壁の上にいたヨウコウ軍は奮い立ち、秦の騎馬隊を追い込んでいった。
「くっ! 騎馬隊を下げなさい! 次の防衛線に移ります!」
レイの代わりに指揮台に立ったランカは、騎馬隊の撤退を命じた。レイは戦女神とは言われているが、その指揮の多くはランカが取っている。彼女はレイの侍女筆頭であるが、戦時では将軍に匹敵する武の持ち主なのだ。
ヨウコウ軍は城壁を制圧し、城門を開けた。ヨウコウ軍が続々と入ってくる。
「進め! あの指揮台を制圧せよ!」
ヨウコウは兵たちに突撃を指示したが、城門から先の道が下り坂になっていることに気づいた。指揮台に近づいた兵たちは、ほぼ真上から熱湯をかけられたり、矢で討たれたりする者が相次いだ。
「ちっ! 面倒な城だ!」
ヨウコウは強弓を引く。矢はやはり方向を変え、ランカに迫る。
「そんなもの通用するか! 来ると分かっている矢など恐れるに足りん!」
ランカは矢を矛で払い飛ばした。逆に槍を持ち、ヨウコウに向けて投げた。ランカもまた、レイと同じように木魔法を武器に纏わせることが出来る。もともとはランカがレイに教えたものなのだ。
槍は凄まじい速さで飛び、鉄の大楯を貫き、ヨウコウの持つ魔道具の強弓を粉砕した。ヨウコウはその衝撃で吹き飛ばされた。
「なんだ、あいつは……化け物か……」
ヨウコウ軍は攻めあぐねた。指揮台には近づくことも出来ない。ヨウコウはいったん城門を確保し、兵を下げた。城門の周りには外の櫓の残骸や大楯で障壁を作り、ランカの投槍を防いだ。城門と指揮台で睨み合う形となった。
レイは後ろに下がり、負傷者の治療に駆け回った。戦女神などと言われているが、本来はこちらの方が合っているのだ。
「皇后様に手当てを受けるとは……まことにありがとうございます」
レイに手当を受けた兵たちは感動し、泣いた。レイは兵たちの肩をぽんぽんと叩き、「こちらこそありがとう。生き残るのよ」と言って回った。
ランカはその光景を見て、自責の念に駆られた。フトウに密告したのは確かだ。だが、それは国と王室の秩序の為だ。なぜか話がねじ曲がって、姦通したということになっていた。
ケイへの警告のつもりであったが、捕縛され長安へ護送されてしまった。おかげで防御力が低下し、陳倉の中への侵入を許してしまった。
「こうなっては、私が守り抜くしかない……」
ランカは夜の見回りの為、外に出た。長安以外の状況は、陳倉の城門を取られたことで伝わってこなくなった。
「あの指揮台は城のようなものだ。こちらも準備が必要だ」
ヨウコウの元には、後方で兵站を担っていたヨウアンが来ていた。ヨウコウが苦戦しているのを聞き、攻城兵器を持って現れたのだ。
城壁の外で投石車が組み上げられていく。ヨウアンは陳倉に援軍は来ないことを知っている。じっくり落としてくれると、ニヤリと笑った。




