80話
リョコウとトウ兄弟が早くも激突した。トウ兄弟は、あの秦の大将軍トウキョウの子供である。リョコウは出し惜しみなく先手を打つべきだと考えた。
リョコウは西の果ての都市、敦煌の出身である。毎日砂漠の砂に揉まれているうちに、砂嵐の土魔法を操ることが出来るようになってきた。
戦時に砂嵐が巻き起こる。トウケイの軍は視界を失った。そこへリョコウは突撃してくる。砂塵の中から突如現れたリョコウに、トウケイは対処できず、あっけなく首を刎ねられた。
「なんだ!トウキョウの息子だと言っても、大した事ねえな!」
トウヨクは兄トウケイが討たれたことに憤慨し、矢継ぎ早に火の矢を放った。
「おのれ!卑怯者め!兄の仇を討つ!」
「何が卑怯者だ!油断した奴が悪いのだ!」
リョコウは再び砂嵐を起こすと、トウヨクの放った火の矢は巻き込まれてかき消された。
「くそ!下がれ!下がれ!」
トウヨクは火の矢が通じず、逃げ出していった。リョコウが追撃し、トウ兄弟の軍は散々に打ち破られてしまった。
「おいおい!そんなんじゃ、あの世で親父さんが泣いてるぜ!」
リョコウは高らかに笑い、勝鬨を上げた。トウヨクは後退し軍の立て直しを図るが、リョコウの追撃は執拗で、ついには長安まで逃げてしまった。
作戦では、エイゲツは回り込み、ヨウチョウを直接叩くつもりであった。トウヨクはエイゲツへの伝令を忘れてしまい、エイゲツはトウ兄弟が敗れたことを知らないままであった。
リョコウは捕虜にしたトウヨクの将校から、エイゲツがヨウチョウに奇襲をかけるつもりであることを知る。リョコウは即座にヨウチョウに早馬を出して知らせた。
「ふふ……エイゲツが来るのか」
ヨウチョウとエイゲツは、もともとボヨウスイの副将として共に戦った関係である。ヨウチョウはエイゲツを罠に嵌めようと企み、あえて奇襲を受けやすい、森に囲まれた場所に陣取った。
ヨウチョウはニヤリと笑みを浮かべる。エイゲツの色っぽい顔が浮かんだ。あの女を蹂躙したいという歪んだ感情が湧き上がった。
エイゲツは斥候を出し、ヨウチョウの位置を把握した。ヨウチョウが油断していると見て、馬に靴を履かせ、物音を立てないように接近していった。
「夜襲をかける。物音を立てるな」
エイゲツはヨウチョウ軍の近くの森に潜伏し、夜が来るのを待った。
長安に逃げ戻ったトウヨクは、フトウの逆鱗に触れた。
「おめおめ逃げ戻るとは、この面汚しめ!」
フトウはトウヨクの将軍の地位を剥奪し、鞭打ちの刑に処した。そしてジュンカンにこう命じた。
「お主を将軍にする。逆賊どもを迎え撃て」
ジュンカンは言葉を失った。五千人将から将軍への昇格である。トウ兄弟があっさり敗れたとあっては、長安には他に将軍に出来る人物はいなかったのだ。
「見事に敵を退けた際は、褒美を授けよう」
将軍任命で気持ちが昂ったが、フトウのニヤけた顔を見て、ジュンカンは一気に気分が冷めた。ジュンカンはフトウの妾などになるつもりは無い。だが、敵が長安に迫っている状況だ。ジュンカンは命を受け、長安から出撃した。
ジュンカンはトウ兄弟の敗残の兵をまとめ、自身の軍と合わせて一万以上の軍を率いて、長安郊外に陣を引いた。トウ軍の兵の話だと、敵はリョコウという、砂嵐を使う将軍であった。
「果たして、わたしに止められるのか……」
ジュンカンは敵が強敵だと知り不安であったが、ケイの事を思い、心を奮い立たせた。ケイが王として立ち上がる時、その側で支えていたかった。ここで死ぬわけにはいかないのだ。
ジュンカンは緊張した面持ちで、前方から砂を巻き上げてくる敵を見ていた。
陳倉にはヨウコウの軍が迫ってきた。ケイは城門の外の最前線で指揮を取った。
「敵が来るぞ!一斉射撃!」
城門へと続く道は蛇行している。ところどころに櫓が立っており、攻め手にはその位置が見えない作りになっていた。ヨウコウ軍はケイの千人隊の位置が分からず、弓の一斉射撃を受け、混乱した。そこにサクが指揮官を狙い撃ちする。
ただでさえ狭い道なのである。前方の混乱は後方に伝わり、進む隊と退く隊がぶつかり合い、混乱に拍車をかけた。
さらに追い討ちをかけるように、ハクエンの小隊が突撃してくる。水流剣で次々と敵兵の首を飛ばす。ヨウコウ軍は一瞬で二千人を討たれる損害を出した。
「何をしている!たかだか千人隊に、何を苦戦している!」
ヨウコウは前回も陳倉を攻めあぐねており、同じような失態をした前衛の指揮官に対して怒りを感じ、蹴り飛ばした。
「この城は秦の要だ。絶対に守りぬくわ!」
レイの檄が秦軍に伝わり、士気が上がる。ケイもそれに乗せられ、歓声を上げるのであった。
「ここを守り抜けば、歴史は変わる……」
モウ皇后の運命を変えるには、ヨウチョウ、ヨウコウを討つしかないのだ。レイと共に逃げる選択肢を取らない以上は、戦い、勝つしかなかった。
ケイ、ジュンカン、エイゲツ。それぞれの戦いは、ほぼ同時に幕を開けたのであった。




