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学生に不人気な時代を研究していた大学教授、異世界で奴隷から皇帝へ  作者: 越後⭐︎ドラゴン
決戦

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74話

 フケンは肩の傷を押さえながら、彭城の方角へ進んだ。

 モクランにつけてもらった護衛は百人ほどだ。

 東晋軍に遭遇したら、ひとたまりもなかった。


 フケンは追っ手が来ていないことを確認し、森の中で休息を取った。


 ―――果たしてフユウは生きているか……


 フユウは東晋遠征に反対していた。

 彼はトウキョウの元におり、東晋軍との小競り合いで、侮れない敵だと知っていたのだろう。

 フケンは、なぜ反対を押し切って出兵してしまったのかと後悔した。

 いや、思えばオウモウも死の間際に反対していたのだ。


 ―――あの時から歯車は狂っていたということか。


 フケンは自責の念にかられる。

 水筒の水を飲み、一息ついた時、突然バサバサッという物音と、歓声のような声が聞こえてきた。


 ―――敵襲か!?


 フケンは慌てて森を出た。

 だが、それは畠にいる鶴が飛び立つ際に鳴いた声であった。

 フケンは、自分が臆病になり、物音に敏感になっていることに愕然とした。


 ―――朕は、これほど弱かったのか……


 フケンは数多くの敵を滅ぼしてきた歴戦の王だ。

 それが今では、鶴の鳴き声にすらびくびくしている。


 休息を切り上げ、先に進んだ。

 草原に出る。あたりは薄暗くなってきている。

 突然、背後で草木が揺れる音がした。

 今度こそ敵襲だと、フケンは構えた。


 だが、それは突風が草木を揺らした音であった。

 フケンはがっくりと肩を落とし、膝から崩れ落ちた。


 遠くから馬蹄の音が近づいてくる。

 フケンは観念した。戦う気力もなかった。


 近づいてきたのは、ボヨウスイの隊であった。

 フケンは、ようやく生きた心地がしてきた。


 ―――ボヨウスイ様、この機会にフケンを斬りましょう。


 トクはボヨウスイに小声で話しかけた。

 ボヨウスイは静かに首を振る。


「多少なりとも、フケンには恩義がある。

 ここで裏切れば、生涯汚名を残すことになろう」


 ボヨウスイはそう答えた。

 フケンを新しい馬に乗せ、洛陽まで護衛すると申し出た。


 秦軍が次々と潰走してくる。

 その様子を見て、ボヨウスイは出兵に賛成したことを後悔した。

 状況を把握するため、斥候を四方に放っていた。


 斥候が帰ってくるたびに戦況が明らかになる。

 フケンもその報告を聞いていた。

 歴史的な大敗北であった。

 フユウも死んでいた。


 それを聞き、フケンは馬から転げ落ちそうになるほど愕然とした。

 フユウは、皇太子のフトウが王になった際、王を補佐する大将軍になるはずであった。


 それが、なす術もなく討たれたというのか。

 フケンは涙を流し、フユウの死を嘆いた。


 だが、悪い知らせはそれだけではなかった。

 モクランの軍が洛陽に帰ってきた。

 だが、そこにモクランの姿はなかった。

 身を挺して殿を務め、力尽きたというのだ。


 フケンは信じられない思いでその知らせを聞いていた。

 ボヨウスイも、まさかという思いであった。


 やがて、モクランの遺体が運ばれてきた。

 その姿は、まるで生きているかのように美しかった。


 フケンは悲しんだ。

 モクランは、その才能と美貌に惹かれ、フケン自ら代から引き抜いたのだ。

 秦の拡張の立役者といってもよいほどの人物だった。


 フケンは、フユウの死の知らせよりも深い衝撃を受け、悲しみのあまり食事も喉を通さないほどであった。


 モクランの遺体は土に返された。

 ケイは墓標に手を合わせる。

 モクランの意思は、確かに継いだ。

 モクランの剣を振る。

 それは水流を生じさせ、暗い夜空へ消えていった。


 フケンは長安に帰還することにした。

 東晋は、ボヨウスイが洛陽に現れたことで追撃を打ち切った。

 揚子江の上流域がヨウチョウに荒らされている。

 シャアンはシャゲン三万を西へ派遣した。


「ケイ、これからどうする気?」


 ハクエンはケイに聞いた。

 ケイは、モクランの死後、ハクエンの様子がどこか変わったと感じていた。

 どこか優しくなった気がした。


「長安へ行く」


 エイゲツはボヨウスイに戻らないかと誘われたが、断っていた。

 ケイについていくと言った。


 ボヨウスイは、将軍であるエイゲツが千人将についていくとはどういう関係なのかと疑問に思った。


 エイゲツのほかにも、ジュンカンという五千人将もケイに従っていた。

 さらにはケイの傍らには、燕のカクの副将であったハクエンがいた。


 ボヨウスイは、ケイという男がモクランの剣を持っているのを見た。


 ―――どうやら、ただの千人将ではないようだ。


 ボヨウスイは理由は分からないが、将来この男が障壁として立ちはだかる予感がして仕方がなかった。


 ケイがボヨウスイの方を見た。

 視線がぶつかり合う。


 ケイの知る史実では、ボヨウスイはこれから最大の障壁となる人物である。

 この世界でも、そうなのであろう。


 ケイは馬首を長安へ向ける。

 フケンが破れた。

 秦はこの後、多くの反乱が起き、崩壊の道を辿るはずだ。


 中でも、最も警戒すべき相手は、涼刺史のヨウチョウである。

 史実でフケンを殺す人物。

 そして、モウレイを殺す人物であった。

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