72話
東晋の戦車は6台あった。弩が方陣に向けて発射準備をしている。以前の戦いではモクランは水の壁を作り耐えたが、3発目で魔力が尽き壁を崩された。
「あの時の倍か....早くあれを破壊しなくては」
ケイは戦車に向かって突進する。シャセキは戦車に近付かせまいと立ちはだかる。
「まともにぶつかってはやられる」
ケイの千人隊ではシャセキを突破出来ず、その周りを駆け巡るしかなかった。
「ケイ!隊を細かく分けろ!わたしとサクで陽動する!」
ハクエンがケイに隊を分けろと言った。ケイは千人隊を3つに分け、それぞれハクエンとサクに任せた。
「深く突っ込むな!戦車への道を開けるのだ!」
サクは騎射しながら駆けシャセキを戦車から引き離そうとする。シャセキは追わない。ハクエンが回り込む。シャセキはサクを無視してハクエンに向かった。
「ほぅ...なかなかの女ではないか」
シャセキはハクエンの顔を見て捕まえてやろうと考えた。ハクエンはその視線を感じ、徐々に戦車から引き離そうと立ち回る。
戦車が一斉に弩を撃つ。6本の巨大な矢が秦の方陣に向かって飛んでくる。前方にいる味方も容赦なく貫いてきた。
「ここは私たちで耐えるぞ!」
エイゲツはジュンカンに声をかけ、共に石の壁を張った。巨大な矢の衝撃で壁は砕け散る。
「くっ!前より威力が上がっている」
ジュンカンは衝撃に体を震わせる。次の射撃に備えて魔力を練る。
ハクエンとシャセキが交錯する。水流剣が舞い、シャセキの肩当てを飛ばす。
「なんだあの女は!?腕がたつぞ!」
シャセキはたかが千人隊にこのような凄腕の女がいるのに驚いた。シャセキは油断できないと感じ、気を引き締める。
わずかに戦車に繋がる道ができた。ケイはそれを見逃さず、突っ込み火の矢を放つ。矢は戦車に突き立ち燃やした。
「まず1台だ...」
ケイは離脱し、次の戦車に狙いを定める。シャアンは突然の戦車炎上に舌打ちする。
「シャセキめ!何をしている」
シャセキの騎馬隊はたかだか数百の秦の騎馬隊を追い回している。シャアンは本隊 2万を戦車を全力で守るべく前進させた。
ケイとサクは合流し、戦車を守る部隊に突っ込み割る。即座にケイは火の矢を撃つ。 2台目も炎上した。
だが、戦車は次第にシャアンの本隊に囲まれて、全く隙がなくなってきた。ケイとサクは、なんとか穴を開けようとシャアンの本隊を突いては離れるを繰り返すが、穴ひとつ開けられなかった。
シャセキはハクエンに翻弄され次第に戦場の端へ誘導されている。
「呼び出せ!そんな小隊に構うな!」
シャアンは合図を送り、さらに伝令を走らせる。
3発目の弩が発射される。4本には減っているが、それでもエイゲツとジュンカンの石の壁を打ち砕いた。2人は衝撃が魔力の道を通じて伝わり、後方に飛ばされた。
「このままでは持たない...」
エイゲツもジュンカンも全身汗でびしょ濡れであった。立ち上がるも足がガクガクと震えていた。
モクランはシャセキが離れているのを見て、全力で馬を駆りシャアンの軍に突っ込んだ。お互いの兵が宙を舞うが、穴が開いた。
「いまだ!いくぞ!」
ケイはモクランが開けた穴に突っ込む。サクが騎射しながら援護した。ケイが火の矢を放つ。3台目が燃え落ちる。だが離脱しようと反転すると穴が塞がってきている。
「あのネズミを逃すな!」
シャアンは戦車を焼きまくっているケイに狙いを定め囲いにくる。モクランが再び穴を開けた場所に突撃する。外から無理やりこじ開け、ケイの部隊を救出する。
次第に日が傾き夕日が戦場に差し込む。
「あと少し耐えよ!」
モクランは檄を飛ばす。日没まで耐えたならフケンは安全なところまで進んでいるはずだった。
4発目の弩。エイゲツとジュンカンは魔力を振り絞り石の壁を作る。だが壁は薄くなり、巨大な矢は壁を撃ち破り方陣の蓋に直撃した。
巨大な矢は秦の兵を薙ぎ倒し、方陣の蓋は大きな穴が開いた。エイゲツとジュンカンは吹き飛ばされ倒れて動けなかった。
「ジュンカン!」
ケイはジュンカンの元に駆け寄りたかったが、方陣の穴に向かってシャアンが突撃を命じたことで、歩兵の壁に遮られてしまった。
「ケイ!もういい。離脱せよ!」
そう言ってモクランは方陣を攻撃するシャアンの横腹を突き破った。ケイもそれに続き、ジュンカンに駆け寄る。
「ジュンカン!大丈夫か!」
ジュンカンは魔力が尽きぐったりと横たわって動けなかった。ケイは咄嗟に口付け魔力を流し込む。ジュンカンはそれに気づき目を覚ました。
「ケイ....」
ジュンカンは一瞬だけケイの手を握りしめる。ケイはジュンカンを馬に乗せてサクに託した。どうやらエイゲツも生きているようだ。秦軍はモクランを殿にして退却を始めた。ケイはモクランの手助けをしようと駆けた。
シャアンはモクラン1人を倒すためだけに残りの戦車を向けた。モクランは秦軍を退却させる為に、水の壁を張る。
「なんてやつだ!これほどの壁をつくるとは!」
シャアンはモクランが張った長大な水の壁に驚愕した。弩を発射させる。
巨大な矢は水の壁に遮られ落ちた。衝撃がモクランに伝わる。モクランは歯を食いしばり耐える。
「続けよ!モクランを休ませるな!」
戦車の装填の間も東晋軍は、矢を撃ったり槍を投げたりした。水の壁はそれらを受け、水面が大きく揺れる。
戦車が矢を発射した。大きな衝撃が起こり、水の壁が削られ水飛沫が上がる。
「もう少しだ!装填いそげ!」
モクランは立つのも精一杯であった。水の壁はかなり薄くなっている。モクランは振り返る。秦軍はすでに遠く離れていた。だが、ケイが率いる五百人程の騎馬がモクランに近づいてきていた。
「何をしている!早く逃げよ!」
モクランは叫ぶが、ケイはそれを無視してモクランに駆け寄った。
「お前というやつは...」
モクランはケイに支えられるように立ち、魔力を振り絞り水の壁を可能な限り厚くしようとした。その時、弩が発射され水の壁は大きな爆音を上げ崩れ落ちた。水飛沫が舞い上がり雨のように降り注ぐ。モクランは崩れ落ちケイにもたれかかっていた。
ケイはモクランを馬に乗せる。体を捻り、小さな火の矢を速射しながら駆けた。だが、シャアンはモクランを討つために囲み始めていた。すでに回り込まれ退路に立ち塞がっている。
絶対絶命であった。




