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学生に不人気な時代を研究していた大学教授、異世界で奴隷から皇帝へ  作者: 越後⭐︎ドラゴン
決戦

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68話

 年が明け、ついにフケンは東晋征服を協議した。チョウアンは遠く、諸将を呼び集めるのは無駄であったため、フケンは自らラクヨウに赴き、そこで軍議を開いた。


 トウキョウは年明け早々、病で亡くなっていた。秦初の大将軍であり、数々の戦功を挙げた武将の最期は、あまりにもあっけなかった。近頃は体調が優れない様子であったが、正月に酒を飲んでそのまま寝てしまい、睡眠中の嘔吐で息を詰まらせ、窒息死したのだという。


 フケンは、チョウシ、オウモウに続き、秦がここまで大きくなる原動力であったトウキョウの死を深く悼んだ。だが、歩みを止めるわけにはいかなかった。


 軍議には、フユウのほか、ボヨウスイ、モクラン、エイゲツ、ジョセイといった将軍たちが集められていた。ヨウチョウは、遠く離れたリョウの地にいたため参列していなかった。


 冒頭でフケンは、東晋征服に向けて親征すると宣言した。かつてのように配下の意見を求めることはない。これは協議ではなく、決定事項としての通告であった。


 だが、それに対してフユウは真っ向から反対した。


「東晋の軍は侮れません。王に万が一のことがあってはなりません」


 フユウの言葉に、フケンは顔を曇らせた。


「朕の言うことに、不服であるのか?」


 このところフケンは、一人称を「余」ではなく、「朕」に変えている。まだ王ではあったが、東晋を滅ぼし、皇帝となるつもりであった。


「我が国は、一度号令を下せば九十万の兵が集まる。東晋は、どれほど動員しても十万が限度であろう」


 その言葉には誇張も含まれていたが、予備兵まで含めれば、九十万という数字も決して不可能ではなかった。もっとも、実際に東晋征服に投入されるのは四十万程度であろう。それでも大軍であることに変わりはない。


 フユウはなおも反論を続けた。


「九十万といっても、民族は多種多様、軍制も統一されておりません。一方、東晋は精鋭で結束力があります。これに打ち勝つ保証はありません」


 フケンは、露骨に怒りをあらわにした。


「そなたはトウキョウのもとで、何を学んだのだ! 臆病者め! 敵を褒め、味方を貶める真似を、なぜする!」


 フケンは斬りかかる勢いであったが、ボヨウスイの取りなしによって剣を収めた。ボヨウスイもまた、フユウの意見に一定の理解を示していた。東晋は容易に倒せる相手ではない。しかし、負けるとも思っていなかった。そのため、最終的にはフケンの親征を支持したのである。


 フケンはボヨウスイの言葉に満足し、親征を正式に決定した。


 モクランは何も発言しなかった。フユウの言葉はやや極端だと感じていた。各軍はそれぞれ精強である。モクラン軍も、エイゲツ、ジュンカン、そしてケイを擁し、秦最強と称されるボヨウスイ軍にも引けを取らない。


 だが、本当に九十万が動員され、寄せ集めの大軍となるのであれば、話は別だとも感じていた。


 それでも、モクランは口を開かなかった。フケンの命令は絶対であり、かつて代で埋もれていた自分を取り立ててくれた恩義もあった。


 フケンは諸将の思惑など意に介さず、秦全土に徴兵の勅命を出した。ヨウチョウには南下し、東晋の西を攻めよとの命を下した。


 さらに、まず手始めとして、襄陽近く、江夏に陣取る東晋の将シュジョを討てと、ジョセイに命じた。シュジョは二万の兵で江夏を守っていた。ジョセイは三万を率いて、江夏へと向かった。


 ボヨウスイは揚州に戻り、東晋の首都建康を狙う姿勢を見せる。


 フケン本隊には、フユウとモクランが主力の将として従軍した。


 こうして、東晋への侵攻が始まった。


 一方の東晋では、ボヨウスイへの牽制として、丞相シャゲンが建康の守りについた。ボヨウスイ九万に対し、シャゲンの兵はわずか一万である。


 しかし、揚州と建康は大河に挟まれており、兵力差があっても船団の練度は東晋が上回っていた。ボヨウスイといえども、容易に渡河できる状況ではなかった。


 フケン本隊に対しては、北府軍と称される東晋最強の軍を預かるシャゲンの甥、シャアン、シャセキ、カンオンが、総勢七万で迎え撃つ構えを取る。


 フケン本隊は、各地からの徴兵によって膨張を続け、その数は二十万を超えつつあった。その様子を見て、モクランは危惧を覚えた。モクラン軍の中核は四万で揺るぎないが、集結する兵は明らかに調練も連携も不足した寄せ集めに見えた。それを、戦の指揮経験が乏しいフユウが受け持っているのだ。


 モクランが大将軍にあと一歩及ばない理由は、フケンに直言できない点にあった。


 東晋は西側を完全に捨て、兵を東の防衛に集中させた。ヨウチョウは、ほぼ無抵抗のまま東晋西側の山岳地帯を制圧し、そのまま東進を開始した。


 千人将となったケイは、見たこともない規模に膨れ上がる秦軍に圧倒されていた。本当に、これで秦は敗れるのか。史実ではそうなるが、この世界では勝つのではないか――そんな考えすら浮かぶ。


 だが、千人将という立場では、戦の趨勢を左右することなどできなかった。


 北から吹きつける風は冷たい。


 ケイは身を引き締め、この大戦を生き延びると、固く心に誓った。

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