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学生に不人気な時代を研究していた大学教授、異世界で奴隷から皇帝へ  作者: 越後⭐︎ドラゴン
征西編

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61話

 ケイの言葉にモクランをはじめ、みんなハッとした。そう言われるとそうなのだ。


「氐軍の総大将は丘の上に陣取るフトです。今までヨウアンを総大将だと勘違いしてましたが、やつは氐の将軍の1人に過ぎません」


 ケイが更に地図を広げて続ける。


「フトが陣取る丘を落とすと、ヨウアンを抜かずとも天水に進むことが出来ます。ここはフトを攻撃し、丘を越えて天水に進みましょう」


「フトが囮でヨウアンが罠を張っているのでは?」


 モクランが疑問を口にする。これまでに何度もヨウアンは罠を張り巡らせてきた。これも秦軍を誘う罠だと思えた。それに対してケイは言う。


「ヨウアンという人物は策士の面が強いです。そのような人物は往々にして、能力の低い者を見下します。そしてフトは愚か者と噂されています。おそらくヨウアンはフトが邪魔で、無視しているのでしょう」


 一堂、ケイの言葉に思案した。確かにヨウアンの陣を攻めるより、丘の上にあるとはいえフトの方が落としやすそうであった。エイゲツがケイに聞く。


「もし罠だったらどうする?」


「これまでもヨウアンの策は嫌らしいですが、大きく損害が出るものではありませんでした。罠があるとした上で、警戒しながら進めば問題ないでしょう」


 ケイの答えにモクランは頷き、フトを攻撃すると決めた。

 フトへの攻撃はエイゲツとジュンカン、そしてケイの一万が当てられた。モクランはヨウアンに圧をかける役割だ。そして翌日の夜、丘を奇襲すると決定した。


 軍議の後、ジュンカンはケイを幕舎へ呼んだ。


「ここに来てお前の成長は目を見張るばかりだ……思えばお前は奴隷兵だった頃から見どころがあったよ」


「俺の股間を蹴ったくせに、そんなことを言うのかい?」


 ケイがジュンカンの言葉を揶揄うと、ジュンカンは少し俯き、やがて小さく笑った。


「ふふ……そうだな。あの頃のわたしは必死だった」


 ジュンカンはケイの隣に腰を下ろし、しばらく黙って篝火の揺れを見つめた。


「明日、お前が危ない目に遭うかもしれない……」


 ケイは何も言わなかった。ジュンカンの言葉の続きを待った。


「死ぬなよ。それだけだ」


 ジュンカンはそう言うと、ケイの肩に頭を預けた。戦場でこれほど素直になれるのは、ケイの前だけだった。ケイはその細い肩をそっと抱き寄せる。


「死なないよ。約束する」


 二人はしばらく、言葉もなく寄り添っていた。その夜、幕舎の灯りが消えるのは、ずいぶん遅かった。


 翌日、昼間もヨウアンの陣に攻撃を仕掛けながらも、秦の陣内では後方の大きな天幕に覆われた中で、何やら作業が行われていた。夜の攻撃の準備なのだという。


 日が沈み、秦軍はいつもより多く篝火を焚いた。戦場は煌々と照らされている。


「ふん。今日は夜も攻撃を仕掛ける気か。女将軍も焦り出したな」


 ヨウアンはモクランが攻めあぐねて焦っていると思った。秦軍は山を越えて侵攻してきている。いつまでも滞陣することはできないはずだ。


「始めよ!」


 モクランの指示のもと、ヨウアンの陣へ矢が降り注ぐ。ヨウアンの兵は防壁に隠れ、矢の雨をしのぐ。今度はヨウアンの指示で氐軍が矢を放つ。それはモクランの水の壁に遮られ、秦軍には届かなかった。


「相変わらず馬鹿の一つ覚えの攻撃だ。そんなことでこの陣は落とせないぞ」


 ヨウアンが笑うと、その瞬間、暗闇の空から大きな石が降ってきて陣の中に落ちた。氐軍は石の下敷きになり、被害が出ていた。


「投石車か!?」


 モクランは氐軍に気づかれないよう、天幕の中で投石車を密かに組み立てさせていたのだ。


「次、発射せよ!」


 四台の投石車が一斉に石を飛ばす。氐軍は陣の中で右往左往して逃げ惑った。


「狼狽えるな! 石の数などたかが知れている! よく見て避けるのだ!」


 はじめは暗闇から落ちてくる石に恐怖を感じていた氐軍も、やがて投石車の精度が高くないと気づき始める。秦軍も野戦での夜間使用は想定しておらず、狙いは定まっていなかった。


「こんな攻撃に何の意味があるのだ……もしや、狙いは違うところにあるのか」


 ヨウアンが怪しんでいるところへ、案の定、フトの方へエイゲツ軍が動いているという知らせが入る。


「ふん。やはりこちらは陽動か。援軍五千を送れ」


 ヨウアンはフトと援軍で挟めばエイゲツ軍は始末できると考えた。


「いやはや、優れた軍師がいるかと思ったが、この程度の策であったか。たわいもない」


 ヨウアンが鼻で笑った瞬間、モクラン軍の背後に控えていたジュンカンとケイが、陣から出た援軍五千の後ろを追うように出撃した。ヨウアンはジュンカンが動いたことに気づいていなかった。


 エイゲツはすぐには丘への攻撃を始めなかった。フトはエイゲツ軍の接近にすら気づいていない様子だった。やがて背後から氐軍の援軍が迫ってくるのを察知し、エイゲツ軍は反転してそちらへ向かった。


「ジュンカンと挟撃するぞ!」


 エイゲツ軍と氐軍がぶつかり合うと間もなく、ジュンカン軍とケイの五百人隊が氐軍の背後から襲いかかる。氐軍は挟撃を受け、あっさりと崩壊して逃げ出した。


 三軍は合流し、丘の上への攻撃を開始した。だが、丘の上からの応戦はなかった。

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