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学生に不人気な時代を研究していた大学教授、異世界で奴隷から皇帝へ  作者: 越後⭐︎ドラゴン
洛陽争奪編

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46話

 ボヨウスイの使者の行き先は、東晋のカンオンであった。

 カンオンは、ここまで追い込まれたヒョウがどのような条件を出してくるのか、興味があった。


「それで? ヒョウはいかにするつもりか?」


 ヒョウの使者が提示した条件に、カンオンは考え込んだ。


 ―――燕に付くなら、揚州を明け渡す。


 洛陽は政治の象徴であり、東晋にとって北への帰還の悲願のような都市だ。

 だが、攻めやすく守りづらい都市でもある。加えて洛陽は、北の大河を越えた先にある、いわば飛地であった。さらに、洛陽を得たところで、常に秦の脅威に晒される。


 それと比べ、揚州は南の大河の北岸にある。土地は肥沃で、経済も発展している。

 なにより、東晋は南の大河の南北を押さえることができる。洛陽を得るよりも、はるかに魅力的な提案であった。


「あいわかった。燕を助けるとしよう。だが、秦軍を撃つには、先に軍を出していただきたい」


 ヒョウの使者は拝謝し、立ち去った。


 だが、この使者はジセンであった。

 彼はヒョウの側近を始末し、その者に姿を変えてヒョウに近づいていたのだ。そして偶然か、ヒョウは入れ替わっていることにも気づかず、ジセンを使者として差し向けた。


 ジセンは自身の配下に、フケンへ報せを届けるよう命じた。

 そして、わざとゆっくりとした歩みで洛陽へ戻る。東晋の回答を伝えるのが遅れるほど、秦に考える余裕が生まれるためだ。


 フケンは、ジセンの配下からの報せを受け、夜であったが諸将を集めて軍議を開いた。


 一堂は、その情報に唖然とした。


「ボヨウスイが黙っていないわ」


 エイゲツの言葉に、皆がうなずく。

 ヒョウとボヨウスイの関係が悪いことは周知の事実だ。だが、東晋を味方に引き入れるため、ここまで愚かな条件を提示するとは、誰も思っていなかった。


「ヒョウは、すでに目が曇っているようだ……」


「王よ。ボヨウスイがこれで動かぬことは、もはや確定的です。我が軍は、東晋の攻撃に備えるべきかと」


 ジョセイの言葉に、フケンは首を振った。


「いや、ボヨウスイを動かす」


 そう言って、フケンはエイゲツを見た。


 ―――


「ボヨウスイ様。ご無沙汰しております」


 エイゲツは単身、ボヨウスイの陣を訪れた。

 エイゲツは元々、ボヨウスイの副将である。山賊であったが、ボヨウスイに鎮圧され、それ以降は彼に従っていた。そしてボヨウスイの前では、敬意を表し、いつものような荒い口調は使わなかった。


「久しいな。達者であったか?」


 ボヨウスイは、エイゲツが秦に降ったことを責めなかった。そして酒を勧める。


 エイゲツは杯を軽く煽ったあと、ヒョウと東晋の密約を伝えた。


 ボヨウスイの顔色が変わる。


「なぜ、お前がそのような話を知っている?」


 その疑問は、すぐに事実であると知らされる。

 ヒョウが、東晋と組み、共に戦えと勅使を送ってきたのだ。


「東晋に揚州を与え、和を結ぶ。共に秦軍を討て」


 ボヨウスイは愕然とした。

 揚州はボヨウスイ自身の領地である。それを勝手に東晋へ差し出すなど、言語道断だった。揚州は、東晋を牽制する要衝でもある。率直に言えば、洛陽を与えた方が、燕にとっては遥かに痛手が少なかった。


 エイゲツは、このやり取りを陰で聞いていた。

 ボヨウスイが、怒りでわなわなと震えているのも見える。


 勅使が去ると、エイゲツは静かに言った。


「燕は、もう終わっています。王も宰相も揃って愚か者。

 もはや燕に従う必要はありません。秦のフケンは、ボヨウスイ様を喜んで迎えるでしょう」


 その言葉に、ボヨウスイは小さくうなずいた。


 ―――


 ヒョウは、東晋の回答に喜び、カクに二万、新兵三万を出させた。


「まずは新兵を前に出せ」


 ヒョウは、カクにそう命じた。新兵を死兵として使え、という意味だ。

 カクは、新兵など秦軍の前では無力だと思っていた。案の定、新兵は迎撃してきたジョセイの軍に、手も足も出なかった。


「やけに弱い……何かの罠か」


 ジョセイは、カクの罠を警戒し、燕軍を打ち破っても深追いはしなかった。


「無益なことだ……引かせよ」


 新兵の軍が無惨に崩れるのを見て、鐘を鳴らさせた。

 ヒョウには軍才がない。新兵で秦軍を疲弊させるつもりだったのだろうが、秦軍は無傷で、燕軍だけがこの短い戦闘で数千を失った。


「ここまでの激闘を見ていないのか……」


 カクは、ヒョウの指示に呆れていた。だが、実際に新兵では歯が立たないと目で見なければ、理解できないのだろう。


 入れ替わりで、カク軍二万が前に出る。

 カク軍は、騎馬一万、歩兵一万で構成されていた。


 カクは騎馬を二つに分けた。

 ジョセイは一万の騎馬で応じる。互いに挟み込むように動き、五千騎同士が激突する。馬と人が宙を舞い、わずかにカクの方が優勢であった。


 ジョセイは正面衝突が不利と見て、さらに隊を分け、カクの騎馬隊にまとわりつくように突く。

 カクは騎馬隊が交錯するのを見て、歩兵を前進させ圧をかけた。歩兵の介入により、ジョセイの騎馬隊は徐々に動ける場所を失っていく。


「危ういな……」


 トウキョウは、ジョセイが徐々に窮地に陥っているのを見て、五千の騎馬を率いて急行した。カクの歩兵の背後へ回り込もうとする。


 カクは騎馬五千と歩兵にジョセイを抑え込ませ、自らはもう一つの騎馬五千に合流し、トウキョウへ突進した。


 トウキョウの火の虎は、大きな的には向かない。

 騎馬隊に放っても、かわされる恐れがあるため、無数の火の玉を放つ。


 カクは魔道具兵に水弾を撃たせた。

 空中で火の玉と水弾がぶつかり合い、弾ける。すり抜けた火の玉と水弾は、互いの兵を削り合った。


 トウキョウとカクが交錯する。

 火の剣と水流剣がぶつかり合い、バチバチと火花を散らす。


 トウキョウが馬首を返したその時、フケン本隊へ向かって東晋軍が迫っているのが見えた。


「王が危ない……」


 トウキョウは火の玉で撹乱し、戦線を離脱する。

 カクが追おうとするが、ジョセイが割って入った。


「ジョセイよ! カクを抑えよ!」


 ジョセイは兵を広げ、カクを遮ろうとする。

 カクの騎馬隊が突っ込み、ジョセイの軍は割れ、包囲しようと回り込む。だがカクはその後尾を突き、ジョセイを翻弄する。


 ジョセイの兵は次々と倒れ、ついに軍は崩れ、散り散りになった。


 トウキョウは、ジョセイが時間を稼いだことで、フケン本隊の元へ戻り、横陣を二つ築いた。

 四万、四万の両翼のように構え、東晋と燕の攻撃に備える。フケンの本陣は、その後方に置かれた。


 東晋軍の弓の射程は長い。

 風魔法を操るためだ。トウキョウは右翼の兵に盾を構えさせる。ジョセイを突破してきたカクは、左翼の槍兵で迎え撃つ。


 東晋軍が弓を構えた、その瞬間。

 トウキョウは、東晋軍の背後から立ち上る砂煙を見た。


 ――ボヨウスイが、東晋軍の背後から襲いかかったのだ。

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