44話
鄴の守将シュンのもとへ、何度も洛陽を救援せよという命令が届いていた。だが鄴には、モクラン軍四万が洛陽へ向かわせまいと陣を張っている。
攻城の動きはない。この鄴には三万がいるのだ。たとえモクランといえども、落とすことは不可能なはずだった。
「……まだ不安定だが、あれを使うか」
シュンは魔道具を引き出した。長い棒状の筒である。シュンは、この世界でも数えるほどしかいないと言われる金魔法の使い手だった。金系統は魔道具を作ったり、武器に魔法属性を付与したりすることができる。
先のチョウシの軍を打ち破るために作った地下道も、シュンの魔道具を使うことで完成した。土中の硬い岩盤も、難なく打ち砕くことができたのだ。
「全軍で出れば、鄴はもぬけの殻になる。鄴を守りつつ、洛陽を救援する必要がある」
シュンは五千の騎兵を選抜した。そして新作の魔道具を、三十人の騎兵に持たせた。
「モクラン軍を突破する。残りは鄴を守り抜け」
二万五千が鄴に残れば、簡単に落とされることはない。五千だけでも洛陽に届けば、ボヨウスイなりカクなりが、うまく活用するはずだ。シュンは先頭に立ち、門を出た。
敵が撃って出たとの報告を受け、モクランは兜をつけ馬に乗る。
――強行突破する気か……舐められたものだ。
ソンキンに敵を囲めと指示を出す。ソンキンが敵の進路上に歩兵を動かした。シュンはそれを回避するように、進路を横に変えながら進む。
「ジュンカン! 出よ!」
モクランの指示で、ジュンカンの騎馬一千が横撃しようと走る。ケイの百人隊も続いた。モクランは四人の千人将に矢継ぎ早に指示を出す。五つの騎馬隊が、シュンの騎馬隊を取り巻くように動いた。
だが、シュンが構えた魔道具から、赤い光の線が放たれる。それは、シュンと最初に対峙した秦の千人将を貫いた。ぽっかりと体に穴を開け、千人将は絶命する。
「なんだ! あれは!?」
見たこともない攻撃に、ジュンカンは驚いた。赤い光が、人の胴体に穴を開けたのだ。シュンがジュンカンの方を向く。
赤い光が来る。咄嗟にジュンカンは石の壁を作り、身を隠す。
「だめだ! ジュンカン、伏せろ!」
ケイは、あの魔道具を光線銃だと見抜いていた。ケイの叫びに、ジュンカンは馬の上に伏せる。
赤い光は、石の壁を易々と貫通した。
――ケイの声を聞いていなければ、死んでいた……。
ジュンカンは肝を冷やし、シュンとの距離を取る。
――なんだ、あいつは。初見でこの魔道具の性質を見切ったというのか。
シュンは「伏せろ」と叫んだ方を見る。声の主は、まだ若い男だった。その事実に驚く。
――厄介な奴だ。ここで討ち取る。
シュンが構える。ケイは、あれが銃なら狙うべき場所は一つしかないと理解していた。矢を構える。
シュンが引き金を引くより早く、ケイは火の矢を放った。銃口に火の矢が突き刺さる。
シュンが引き金を引いた瞬間、魔道具は暴発し、右手が吹き飛んだ。
「くそ! なんてやつだ!」
シュンは痛みに顔を歪める。兵に持たせた三十の魔道具は前方に集中し、秦の歩兵を盾ごと貫通していく。ソンキン軍は崩れ始めた。
だがソンキンは、赤い光に貫かれ倒れていく兵の様子を見て、シュンに近づくことを躊躇する。
シュンは馬に乗ったまま、自ら右手を切り落とし、包帯を巻きながら駆けた。すでに後方には秦軍が回り込み、退路はなかった。
「……なんとしても突破するしかない」
シュンは決死の覚悟で駆ける。
ジュンカンとケイは追った。秦の歩兵は魔道具の掃射で割られ、シュンの騎馬隊が突き進む。
「逃すか!」
ジュンカンは拳大の礫をシュンに向かって放つ。シュンは背後から礫を受け、馬から転げ落ちた。率いていた騎馬も、秦の騎馬に追いつかれ、討たれていく。
――ここまでか。だが、この魔道具が敵の手に渡るのは危険だ。
シュンは最後の足掻きを見せ、魔道具を乱れ撃った。魔道具は限界を超えて掃射を続け、銃身が赤熱する。魔道具兵三十人も駆け寄り、同様に乱れ撃った。
秦軍は次々と討たれ、やがてシュンたちを遠巻きに包囲するしかなくなった。
ケイは、シュンたちが固まっている地点へ、ありったけの魔力を込めて火の矢を放った。訓練の成果により、火の矢の魔力を調整できるようになっていた。
ケイの渾身の一矢は、いつもより大きく唸りを上げて飛び、シュンたちを炎で包み込む。
戦場に噴火したかのような轟音が鳴り響いた。
撃ちすぎて熱を帯びていた魔道具に引火し、連鎖的に爆発したのだ。シュンたちは跡形もなく消し飛んでいた。
モクランは、見たこともない光景に息を呑んだ。
――これは、戦なのか。
魔道具と魔法による殺戮。その果てに眉をひそめながらも、モクランは命じた。
「残った敵兵を掃討せよ」




