43話
ボヨウスイは洛陽に到着した。
五万の軍を率いている。数の上では、燕軍は秦軍と並んだ。
すぐに攻撃に出るようヒョウから伝令が来たが、ボヨウスイは無視した。
「言うことを聞かなくてよいので?」
トクが尋ねた。だがトクは、ボヨウスイがこの戦に意欲がないことを知っている。
大将軍への就任を上奏したが、ヒョウの反対で却下された。もしボヨウスイが大将軍になっていれば、このような事態にはなっていなかったかもしれない。
東晋まで侵攻してきている。五万では単独で洛陽を取ることはできない。
果たして秦と組むのか、それとも漁夫の利を狙うのか。
「ヒョウがいよいよ助けを求めて土下座してくれば、兵を出せばよい」
ボヨウスイは陣を組んだまま動かなかった。
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ヒョウは焦っていた。
なぜボヨウスイは動かないのだ。
秦軍はそれを見て、カクの出城に連日猛攻をかけている。
カクはよく耐えているが、いつまで持つか分からない。
ヒョウは何度もボヨウスイに伝令を送ったが、動く気配はなかった。
東晋軍のカンオンも、秦と燕の戦いを静観していた。
どちらかが疲弊したところを討つつもりだった。
ヒョウの使者がカンオンの元を訪れる。
秦軍を打ち払ってほしいという要請であった。
「先の戦では我らに働かせた挙げ句、燕は約束を違えた。信用ならん」
カンオンの返事に、ヒョウは頭を抱えた。
これも優柔不断な王のせいだ。ヒョウは、自分は決して悪くないと思っていた。
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カクの出城の攻防は続いていた。
トウキョウは初手で火の龍を放つ。
カクが防ぐ。その繰り返しだ。
トウキョウが疲れて下がると、入れ替わりにジョセイの一万とエイゲツの一万が攻め寄せてくる。
カクは水の壁を連発し、疲労の極みにあったが、魔道具兵を指揮して迎撃する。
「どうか、ご無理なさらぬように」
ハクエンはそう言うが、秦の二人の将の攻撃を一人で受け止め続けることはできなかった。
カクは魔道具兵の水弾をジョセイに集中させる。
ジョセイは火の盾の魔法で受けるが、すべてを防ぎきれない。水弾に撃たれるたび、兵が倒れていく。
水弾が尽きるのを見計らい、ジョセイは無数の火の矢を放った。
カクはすでに魔力が尽き、防ぐことができない。魔道具兵が次々と倒れる。
火の矢が魔道具に当たると爆発した。
ジョセイは明らかに魔道具の破壊を狙っていた。
魔道具が失われれば、出城の防御力は半減する。
ハクエンはジョセイを討とうと撃って出た。
そこにエイゲツが割って入る。
「お前の相手は、わたしだよ!」
「この裏切り者が! 恥を知れ!」
エイゲツが礫を放つ。
ハクエンは水流剣で払い落とす。
エイゲツが剣を抜くと、それは石で覆われ巨大化した。
水流剣とぶつかり、石は砕け散る。破片が飛び、ハクエンの視界がわずかに遮られる。
その隙を突き、エイゲツが剣を突き出す。
ハクエンは身を捩ってかわし、交錯した。
背後を取り、水流剣を振り下ろす。
――取った。
そう思った瞬間、エイゲツは自身の周囲に石の壁を張り、水流剣を弾いた。
「あぶないじゃないの」
ジョセイはすでに火の矢を撃ち切り、退却していた。
それを見て、エイゲツは数十の礫を放つ。
ハクエンが迎撃している間に、エイゲツも退いた。
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ボヨウスイは、その攻防を遠くから眺めていた。
そろそろヒョウが自ら乗り込んでくると予想していた。
だが、ボヨウスイの態度により、事態は思いがけない方向へ進んでいく。
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モクランは鄴の手前まで退いていた。
鄴から洛陽へ向かう援軍を遮断するのが、今回の任務である。
さらに、洛陽から逃げてくる燕軍を討つことも含まれていた。
因縁の相手、カクは洛陽防衛で手一杯だという。
モクランはハクエンの顔を思い浮かべる。
――あの女の嫉妬。いまなら分かる気がする。
男女の感情に鈍感だったモクランだが、ここ最近、少しずつ理解できるようになってきていた。
――これも、ケイが現れたからだ。
モクランはジュンカンに、サクに、そしてエイゲツにすら羨望を覚えた。
今回、エイゲツが洛陽に従軍していることに、わずかな安堵もあった。
あの日の森の光景。
ほんの一瞬視界に入っただけだが、エイゲツはケイに虚を突かれ、うろたえているように見えた。
ケイの正体について、もしやと思うところはある。
他の女たちは気づいていないだろう。
だが、モクランは自分だけがケイの「男の一面」を知らない。
それが悔しかった。将軍という立場上、許されぬ感情だと分かっていても。
「モクラン様! 敵が撃って出ます!」
物見の声に、モクランは思考を断ち切り、兜を被る。
「迎え撃て!」
モクランは、ケイが武功を立てたなら身分を引き上げようと考えていた。
身分の差が縮まれば、ケイとの間の壁もなくなる――そう思っていたのだ。




