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学生に不人気な時代を研究していた大学教授、異世界で奴隷から皇帝へ  作者: 越後⭐︎ドラゴン
北魏編

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132話

 ついに邯鄲への遷都。そして皇帝になる日がやってきた。


 邯鄲の街は前の日から祭りが始まり、人でごった返していた。この1週間、ケイは邯鄲と鄴を巡幸した。馬車に乗り、民衆に手を振った。隣にはヨウカが座り、笑顔を振りまいている。


 ハクエンとサクは禁軍を率いて警護している。ケイの命を狙う者がいてもおかしくない。だが、何事もなく馬車は邯鄲の宮殿に入り、巡幸は終わった。


「魏王におかれてましては、日ごろのご支援に感謝申し上げます」


 後秦から祝賀に参列する為、大臣が来ていた。後秦に対してはボクスウの軍を送り、明確に支援している。おかげで後秦は夏と互角に渡り合うことが出来ているのだ。


 夏からは簡単な書状が届いていた。在り来たりの社交辞令で大した内容ではなかった。東晋からも大臣級が来ていた。今のところ東晋とは敵対関係にない。商人の間では交易が盛んに行われてもいる。


「いよいよ皇帝になるのね......」


 ハクエンはケイに感慨深げに言った。ケイは頷く。ハクエンはモクランの意思を受け継いでいる。ケイを見守り、王とすること。そしてモクランが遂げられなかった思いを成就させること。はっきりと言葉にしたわけでは無い。だが最後にモクランはケイを愛していると言ったのだ。その意味するところはハクエンもケイも感じ取っている。


 国号は代ではなく魏になってはいるが王にはなった。そして間もなくその上の皇帝になろうとしている。モクランの意思は半分は達成されている。だが、もう半分は壁が高かった。


 ハクエンは手をケイの方に伸ばした。


「今は出来ないよ......」


 ケイはハクエンの考えを察して、そう言ってしまった。


「分かっているわ」


 ハクエンは慌てて手を引っ込め、恥ずかしさで耳まで顔を赤らめた。「警備に戻るわ」と言って部屋を出ていった。


 入れ替わりでサクが入ってくる。すれ違うハクエンに目を向けた。


「この度はおめでとうございます」


「サク。お前には助けられたよ。ありがとう」


「恐れ入ります」


 サクはハクエンと違い、はっきりとケイとの関係は主従関係と割り切っている。ケイの命令は忠実にこなすし、優秀な副官であった。


「そういえば昔、一緒に鄴にいったね。巡幸した時に思い出したよ」


 サクは少し顔を赤らめた。そして以前のような口の利き方に戻って言った。


「ふふふ。そんなこともあったわね。でも私はケイのことは諦めたの。近々、結婚するのよ」


「え!?聞いてないよ......お、おめでとう......」


「ハクエンさんにも優しくするのよ」


 サクは狼狽するケイを尻目に部屋を後にした。出る間際にいたずらっぽく笑っていた。そのようなサクの表情も久々に見る。ケイはどこか安堵しつつも寂しくもあり、そして最後の一言が胸に刺さり、複雑な心境であった。


 サイコウが入ってる。明日の戴冠式の段取りを事細かに確認する。ケイはどっと疲れ、ヨウカに優しく包まれて眠るのであった。


 次の日は早朝から戴冠式が始まった。


 盛楽で王になった時は、鮮卑族の黒いむしろの上をあるき、冠の代わりに帽子を被った。だが今回は違う。漢式の儀礼を採り入れたものであった。


 ケイは南に向いた祭壇に上る。壇上には老臣のサイゲンハクがいる。その佇まいは儀式にあっていた。


 サイゲンハクは、ケイが天から皇帝に選ばれたと高らかに宣言した。その後、ケイは天に向かい拱手して、祖先の霊に皇帝になったことを報告した。


 厳かな雰囲気の中、儀式は進んでいく。それでいて空気は爽やかであった。


 白馬と黒牛が祭壇に捧げられる。遊牧民の習わしだ。これは胡人と漢人が手を取り合うことの象徴でもある。ケイがサイコウに言い張って、儀式に採り入れさせたのだ。


 ケイは玉座に座り、廷臣たちに向き合った。


 正室のヨウカに、宰相のサイコウやサイゲンハク、大臣のソンスウ。草原の族長たち。そしてハクエン。ケイは居並ぶ廷臣たちの顔を見渡した。


 サイコウが進み出る。


「我々、臣下一同は皇帝陛下に忠誠を誓います」


 後光が差し込む。廷臣たちはケイの言葉を待った。少しの間の後、ケイは口を開いた。


「魏は胡人と漢人とが共に助け合い前に進む国だ。民族に上も下もなく、お互い尊重せよ。そしてこの戦乱を終わらせる。人にとって戦いほど愚かなことは無い。朕を信じてついてきて欲しい」


 信じてついてこいと言った者がかつていたであろうか。ケイの思いを受け止め、廷臣たちは拱手し深々と頭を下げた。


 儀式は終わった。廷臣や族長たちに金銀や絹が与えられた。


 そのまま酒宴となる。ケイは酒もそこそこに主だった者を集め告げた。


「夏を討つ。明日から準備せよ」


 因縁の相手カクレン。あの女が余計なことをしなければレイは死ぬことは無かった。ある意味仇でもある。ここから先は史実に無い戦いになる。ケイはぐっと杯を煽り、床に叩きつけ覚悟のほどを示すのであった。



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