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学生に不人気な時代を研究していた大学教授、異世界で奴隷から皇帝へ  作者: 越後⭐︎ドラゴン
北魏編

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129話

 ケイは目の前の信者の兵を見ながらあることを考えていた。宗教が政治に結びつくと碌なことがない。中国史においても、黄巾の乱をはじめ、宋代のホウロウの乱、近代でも太平天国の乱など枚挙にいとまがない。ケイが転生前に生きていた世界でもそうだ。政教分離と言いながら、しっかりと票田となっている。

 

「信仰は認めるが、政治と宗教は切り離すべきだ」


 ケイの転生前からの持論でもあり、歴史研究をしてきた者としての考えであった。それだけに南燕のような宗教国家は粉砕しておきたかった。


 ケイは邯鄲にいるサイコウにある物を準備させた。それが到着するまで、ハクエンとサクには無理をせず戦えと伝えた。


「次から次へときりがないわ......」


 ハクエンは苛立っていた。斬っても斬っても減らない信者の兵に疲弊していた。死を恐れない。仲間が倒れても屍を乗り越えて向かってくる。ハクエンは騎馬隊を率いて、人の海を縦横無尽に駆け、水流剣で首を斬り飛ばしていく。


 ケイには無理をするなと言われたが、いつまでも敵の兵は減らない。それどころか南燕各地、いや全国から信者が集まり敵の数は増えていた。


 サクは軽騎兵でケイの言いつけを守り、騎射しては離れるを繰り返していた。だがハクエンは騎馬隊による白兵戦が主体だ。敵に切り込み、離脱も敵を切り開き行う。サクよりも心への負担が大きかった。


「あそこを突破すれば敵が割れる」


 ハクエンは焦った。馬腹を蹴り、信者の兵の海を真っ二つに割った。


「ダメだ!ハクエン!深く入りすぎだ!」


 ケイはハクエンの動きに危険を感じ焦った。信者の兵の先に南燕の正規軍が待ち構えている。ケイは本陣の騎馬2千を率いて飛び出した。木魔法の俊足を使い駆けた。


 ハクエンは急に視界が開け、目の前に南燕軍が弩を構え待ち構えているのに気づいた。


「しまった!焦りすぎたわ......」


 弩が一斉に放たれる。ハクエンは矢を水流剣で払いのけたが、周囲の騎馬は撃ち抜かれ倒れていく。


「後退!え!?退路が......」


 真っ二つに割ったはずの道は、すでに信者の兵たちが密集し、塞がってしまっていた。


「あ!きゃあああああ」


 ハクエンの馬が矢を受け棹立ちになる。振り落とされた。南燕の正規軍は距離を詰めてきた。


「まずい!囲まれる!」


 その時、後方の信者の兵が再び真っ二つに割れた。ケイの騎馬隊が飛び出してくる。


「ハクエン!」


 ケイは手を伸ばしハクエンを抱き上げ、一緒の馬に乗せた。ケイは馬首を返し駆ける。俊足の魔法の掛かった騎馬隊は、信者の兵が元に戻るより早く駆け抜けた。


 ハクエンはケイにしがみ付く。ケイの背中の温もりを感じた。


「......ありがとう......ケイ」


「無理をするなと言っただろ」


 ケイが本陣に戻る。魏軍はケイが飛び出したことで混乱したが、サクが本陣に入り、冷静に対処をして陣形を保っていた。サクはケイ、そしてハクエンを一瞥し、自身の持ち場に戻っていった。ハクエンに対して何か言いたそうであった。


 ハクエンは冷静さを欠いたことを恥じた。モクランに託され、ケイを見守ってきたつもりが、いつのまにかケイに依存してしまっている。ヨウカが正室になった時、いやもっと前にケイがレイと再会した時、そのあたりから戦でも無理するようになり、気持ちが乱れることが多くなっていた。


 今もケイに危ないところを助けられた。その存在はかつて愛したカクのように大きくなっていた。ケイはカクの仇だという思いは、いつの間にか薄れていた。ただ今はケイに対して満たされない思いがあるだけであった。


 1週間ほど経ち、邯鄲からの物資が届いた。


「これは?鎖に馬甲?いったい何に使うの?」


 ハクエンもサクも大量の鎖と馬甲に驚いた。しかも馬甲は普通のものでなく、馬の全身を覆う程のものであった。


「重騎兵を鎖で繋ぐ。これで信者の兵を一気に片付ける」


 ハクエンは目を見開いた。サクも目を丸くしている。


「連環馬軍という戦法だ」


「連環.......そのような戦法聞いたことがないわ」


 ハクエンが知らないのも無理がなかった。この戦法は水滸伝、つまり宋代に登場する戦法であり、ハクエンが知りようもなかった。ケイは知識として持っており、信者の兵を一網打尽にするにはこれしか無いと考えたのだ。


 ケイに躊躇いは無いわけでは無かった。平原だけで使える戦法であるが、これは大量殺りくすることを前提としている。多くの血が流れ、多くの命を奪うことになる。だがケイは拳を握りしめ覚悟を決めた。脳裏にアシャの首が浮かんだ。あの乱れた筆跡の警告を無視した自分が、この結末を招いた。


「なんだあれは?」


 トクは城壁の上から、魏軍が黒い塊になって押し寄せてくるのを見ていた。よく見ると重装備の騎馬が鎖で繋がれ塊となっている。およそ3万の騎馬の塊であった。それが信者の兵に向かっている。


 塊が信者の兵とぶつかる。一方的であった。文字通り兵たちは踏みつぶされていた。


「まずい!急ぎ後退させよ!」


 トクは慌てて鐘を鳴らす。だが信者の兵は50万で密集している。そう簡単に後退することも出来なかった。


 阿鼻叫喚とはこのことであった。ケイは信者の兵たちが逃げ惑い、ひき殺されているのを見ていた。目を逸らすわけに行かない。指示したものとして見届ける必要があると感じていた。


 ハクエンはケイを見た。昨日、自分の命を救ってくれた人が、今日はこのような虐殺の指示を出している。ハクエンはケイという人間を疑った。すぐに首を振った。これは戦争なのだと言い聞かせた。だが本当に辛いのは虐殺を見ていることではなく、そのケイの横顔から目が離せない自分自身だった


「辛かったらここにいていいよ」


 ケイの声は剣よりも深くハクエンの心に突き刺さる。


 ケイは馬に乗り突撃の準備をしている。連環馬軍で全ての兵を倒せるわけでない。逃れた兵は騎馬隊で狩るのだ。サクも既に突撃の態勢にある。サクはどこまでもケイに忠実であった。ハクエンはそんなサクを少し羨ましくも思う。


「いいえ.......大丈夫だわ」


 ハクエンも馬に乗る。そして突撃の号令を下した。


 トクは信じられない思いでいた。50万いた信者の兵が半日ほどで壊滅状態になっている。騎馬の塊を避けた兵も魏軍の騎馬隊に突き倒されていた。信者の兵を踏みつぶした塊は、南燕の正規軍にも襲い掛かる。弩で撃っても矢は弾き返された。トクは急いで正規軍を広固の城内に退却させたが、1万程度の兵が犠牲になった。


 アシャを弄び殺した。その代償が50万人の命であるのか。トクは動転し気を失い倒れてしまった。


 大量の亡骸が平原を埋め尽くした。ケイは兵たちに穴を掘らせ埋めた。そして墓標を立てる。宗教も何も関係が無い。ただこの戦乱の時代に犠牲になった人たちへの手向けであった。






















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