表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学生に不人気な時代を研究していた大学教授、異世界で奴隷から皇帝へ  作者: 越後⭐︎ドラゴン
北魏編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

129/134

128話

「西域の人は美しいわね。惹かれるわ」


 ビャクレンはアシャを見てクスリと笑う。椅子に座ると薄衣から長い脚が覗いた。薄暗い部屋の中に白く綺麗な肌が蝋燭の灯りに照らされて映える。


 アシャの周りを信者たちが囲む。いずれも屈強そうな男であった。


「いったいこれは何ですか?」


 トクはアシャを睨みつけ言う。


「とぼけるな。魏の間者め。ビャクレン様を暗殺しようとしていたのだろう」


 アシャの額から汗が流れる。ケイには広固には来るなと言った。だが既に魏軍は泰山を超え、広固に迫っている。ならばアシャの使命はビャクレンを暗殺することだ。


 広固の信者の熱は異常である。死ぬことも恐れない者が50万人以上も居る。しかもその数は日に日に増えている。兵の練度は魏軍が上だ。だが死を恐れない兵が無数に居るのは脅威であろう。


 その結束は教祖の存在によるものが大きい。ビャクレンが死んだら広固は瓦解するか、それとも別の熱となって爆発するのか。賭けのようなものであったが、ビャクレンの命を狙う価値はあった。


「そんな暗殺なんて......私は西域の出身ですが、救いを求めてここまで来たのです」


 アシャは目を潤ませビャクレンに訴えた。


「演技がお上手ね。でもあなたの正体はもう掴んでいるの」


 奥からアシャの見知った女性が入ってきた。アシャの手の者であった。ケイへの伝令を頼んだはずであった。


「その者は魏の間諜で間違いありません」


「な......何を言っているの.......そんな女の言うことなど信じないでください!」


 アシャは必死に否定した。だが女は余裕の笑みを浮かべていた。


「残念だったわね。この子はもう何年も前から信者なのよ」


 ビャクレンの言葉にアシャは愕然とした。事実だとすれば、まだアシャがヨウカの子飼いの間諜だった頃から女は信者だったということになる。全くその素振りは見せなかった。確かに手練れではある。だがまさか南燕との二重間諜だとは思ってもなかった。


 ビャクレンは懐に忍ばせていた短刀を抜く。囲っていた男の一人の喉笛を切り裂いた。


 血が吹きあがり、男が崩れ落ちていく。囲いが緩み、アシャはビャクレンに狙いを定める。ビャクレンは動じなかった。座ったまま動きもしない。アシャは一歩踏み込んだ。喉を狙い短刀を突き出す。


 だが刃はビャクレンに届かなかった。トクが持つ棒がアシャのみぞおちにめり込んだ。


「がはあああああ」


 アシャは胃を押され吐いた。酸っぱい匂いが血の匂いと混ざり合う。アシャは膝から崩れ落ちた。


「無様な恰好ね。隊長さん」


 女はアシャの背中に足を乗せた。体重が掛かり、アシャの胸が床につくほど折り曲がる。ふいに踏みつける力が弱まると、すぐに尻に激痛が走った。女が思い切り蹴飛ばしたのだ。アシャは尻を手で押さえ悶絶した。


「ははは。情けないわね」


 女は手を叩いて笑う。のたうち回るアシャの姿がおかしくて仕方がないようであった。


「この方が乱れる顔をみたいわ」


 ビャクレンの顔は紅潮していた。アシャはその顔を見て寒気がした。女がニヤニヤしながら近づいてくる。トクは腕を組みながら無表情で見ていた。こういう光景は見慣れているのかもしれない。


 女の手が伸びる。小麦色の肌が露わになった。アシャの下着が床に落ちている。アシャは耐えた。夜は始まったばかりであった。


 翌朝、ケイのもとに南燕から軍使が来た。何やら木箱を持っている。ケイは嫌な予感がして恐る恐る木箱の蓋を開けた。


「.......そんな......」


 ケイは箱の中身を見て顔を歪めた。ハクエンもサクも口を押えている。


 アシャの首がそこにあった。


「無理はするなと言ったのに......」


 ケイの嫌な予感は当たってしまった。アシャを無駄死にさせてしまった。ケイは頭を抱える。長い沈黙が続いた。


「アシャの弔いだ。攻撃を仕掛ける」


 やがてケイは顔を上げてそう言った。


 サクの偵察により、南燕の精鋭の位置は概ね把握出来ている。信者の海を掻き分け精鋭だけを討つ。そうすれば南燕の戦力は大きく低下するはずであった。


「決して敵の中で止まるなよ。無理をせずに一撃したら離脱せよ」


 ケイは将校たちを集め作戦を伝えた。魏軍は千人隊単位で騎馬隊を何十にも組む。それをハクエンとサクが指揮を取る。連携を密にしてどこに攻撃するか統制する。ケイは歩兵で擁護だ。


「始めよ」


 魏軍は鶴翼に開く。南燕軍は広範囲に広がっており、正規軍が点在している。それを個別に撃破する為に魏軍は左右に広がった。右にハクエン、左にサクがいる。魏軍は突撃を開始すると、いくつもの部隊に分かれた。南燕軍の薄いところから侵入する。


 すぐに硬い部隊にぶつかる。頭だけを見ていると黄色い頭巾で見分けがつかない。だが正規軍は持っている武器は、信者が持つ武器よりよいものを持っていた。


 魏軍は正規軍に狙いを定め一撃を加える。長く絡まなかった。すぐに反転する。信者の兵たちは魏軍の動きについていけなかった。南燕軍は正規軍と信者の兵とで連携が取れていない。かえって正規軍の動きを阻害していた。


 トクは広固の城壁に立ち戦況を見ていた。


「狙い撃ちされているだと?」


 信者の兵の中を駆け巡る魏軍の動きを見ていた。細かく指示が行き届いて的確に南燕の正規軍を突き崩している。


「正規軍を紛れ込ませる策が裏目に出たか。一旦引かせよ」


 トクは鐘を鳴らせた。正規軍だけがその鐘を音を聞き分け、広固に向けて後退していく。前線には信者の兵たちが取り残される形になった。


「こちらの狙いを読まれたか。さすがはトクだ」


 ケイも退却の鐘を鳴らす。魏軍は人の海から抜け出し元の位置に戻っていった。


 南燕軍は前面に信者の兵40万、後方に正規軍10万の構えになった。信者の兵を打ち破らなければ正規軍に届かない格好だ。


「信者を死に兵に使う気か.......嫌な戦い方をする」


 ケイはこれからの戦闘がどうなっていくか予想し、深くため息をついた。

















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ