表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRアイドル殺し  作者: 菱川あいず
残された者たち
55/74

犠牲者

 妃芽花が指差したのは、歌舞伎町によくある雑居ビルである。

 すなわち、一階にはいわゆる「無料案内所」があり、二階以上にも、名前からしていかがわしそうなテナントが入っている。



「……ここにアイラッシュの秘密が詰まってるの?」


 アイラッシュの背後には、怪しい風俗店の経営者――おそらくヤクザ絡みだろう――がいるという意味だろうか?



「正確に言うと、今あるこのビルはアイラッシュと関係がない。関係があるのは、七年前までここに建っていたビル」


 たしかに言われてみると、妃芽花が指差した雑居ビルは、築年数がそれほど経っていないように見える。



「……その、七年前まで建っていたビルがどうしたの?」


「燃えたんだよ。ビル火災でね」


 妃芽花は、ショルダーバッグから、四つ折りにされたコピー用紙を取り出す。



「これが当時の新聞記事。図書館で印刷してきたの」


 妃芽花に手渡されたコピー用紙を広げると、たしかに新聞の一面が印刷されていた。


 夜深くであるが、街のネオンによって、難なく文字を読むことができる。



 見出しはこうである。



〜歌舞伎町ビル放火 少女四人が犠牲に〜



「果乃、記憶にない?」


「うーん……」


 ぼんやりとだが、当時そのような報道を見たような気がする。


 たしか――



「……地下アイドルの子が死んじゃったんじゃなかったけ?」


「そうだよ。その記事にも『死亡した四人の少女は、アイドルとしてライブ活動を行っていた』って書いてある。ビルの地下がライブハウスで、高層階が楽屋になってたんだ」


 たしか消防法が守られておらず、本来の避難経路が改築によって塞がれていた、というような報道もあった覚えがある。ビルのオーナーが謝罪会見をしていた。


 覚えているのは、このくらいである。


 アイドルが四人も死んだというのは、とてもセンセーショナルなことにも思えるが、所詮、地下アイドルである。

 世間的な知名度はなく、報道が加熱することもない。



「放火犯は、アイドルファンの男だった。ただ、動機はよく分かっていない。その男も焼死したからね」


 だとすると、なおさら報道は落ち着く傾向にあるだろう。

 犯人死亡で、動機も不明となると、ワイドショーのコメンテーターも何も言うことがない。



「……それで、妃芽花、その放火事件がアイラッシュと何か関係があるの?」


「大アリだよ。これを見て」


 妃芽花がまた四つ折りのコピー用紙を私に手渡す。


 開いてみると、今度は印刷されていたのは雑誌の記事である。



〜逃げ遅れた地下アイドルの悲哀 ビル火災の犠牲者は全員同じユニットだった〜


 そんなタイトルの記事だ。



 その記事には、新聞以上に詳細に被害者の情報が記載されていた。


 被害者である四人の本名も載っている。



 私が目を奪われたのは、被害者のうちの一人の名前である。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 しかし、妃芽花が雑誌の記事を示したのは、私に被害者の名前を見せるためではなかった。


 妃芽花が指摘したのは、犠牲となったアイドルの所属ユニットである。



「亡くなった四人ともが、セゾンstationっていうユニットのメンバーだったの」


「セゾンstation……」


 聞いたことはない。


 おそらく当時の報道では、犠牲者が所属していたユニット名までは出ていなかったはずだ。


 それに、おそらくはそれほどメジャーなユニットではないのだと思う。



「最後にこれを見て」


 妃芽花がショルダーバッグから取り出したのは、コピー用紙ではなく、フライヤーであった。


 地下アイドルがライブハウスや路上でよく配布しているカラー印刷のチラシである。



「これって……」


「当時、セゾンstationが配ってたフライヤー。オーロラ・ドミナントの運営に、こういうのを几帳面に集めている人がいて、もらってきたんだ」



 そこに記載されていた情報は、あまりにも衝撃的なものであった。



 セゾンstationのメンバーである五人の女の子の写真。そこに記載されているメンバー名は――



「ゆうき、すみれ、みま、ひなの、みらい」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 否、名前だけではない。



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 すなわち、ゆうきはユウキのように丸顔で愛嬌のあるルックス、すみれはスミレのようなクールビューティー、みまはミマのような長身のお姉さんタイプ、ひなのはヒナノのようなベイビーフェイスなのである。



 ルックスの特徴に加えて、担当カラーもそれぞれ一致していた。



 さらに――


 私にとって最も衝撃的だったのは、唯一、アイラッシュのシオンと名前も特徴も担当カラーも一致していない「みらい」の写真である。



 見間違いようがない。



 それは私の恋人――幼き日の楠木なずなの写真であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まさか!!(;゜Д゜) でもでも……なぜ同じグループだけ(;゜Д゜)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ