プロデューサーの告白
私がテーブルの上に出したセゾンstationのフライヤーを見た風華は目を丸くした。
私はブラックコーヒーを啜りながら、次の風華の反応を待つ。
まさかシラを切るはずはないだろう。
アイラッシュとセゾンstationとが無関係ではないことについて、このフライヤーは動かぬ証拠だ。
やはり風華は観念した。
「懐かしい……」と感想を漏らしたのである。
凛奈から聞いた話によれば、アイラッシュは、「半分セルフプロデュース」で、結成過程に関わっていたのは、なずなと風華の二人だということだった。
なずなが故人となってしまった今、アイラッシュ結成の秘密を確実に知っているのは、風華のみである。
そこで私は、歌舞伎町で妃芽花と別れるとすぐに風華にLINEをした。
時間が遅かったのでその日中に会う、ということはできなかったが、翌日である今日は、アイラッシュはオフだった。
そこで、朝早くにクラクションで待ち合わせしたのである。
「ふうかちゃん、ちゃんと私に説明して。『知りたいことがあったら言って』って昨日言ってたよね?」
「たしかに言ったけど……」
風華の口が重くなるのは分かる。アイラッシュが抱えている秘密は、誰にも、おそらくメンバーにも知られるわけにはいかないものなのだ。
ましてや、加入を検討しているメンバー候補の私には、話したくないものだろう。
しかし、フライヤーを突きつけられてしまった以上、風華は話さざるを得なかった。
「……セゾンstationはね、私が一から全部プロデュースしたユニットだったんだ。メンバー選考も私がやったし、楽曲作りも振り付けも私がやった。マネジメントもね」
風華は、アイラッシュに関しても同じ関わり方をしている。ものすごい才能の持ち主だ、と率直に思う。
「七年前に放火があった日も、当然、私はあのビルにいた。地下のライブハウスでPAとやりとりをしてたの。火の元は七階だったから、火災報知器の音を聞いた私はすぐに避難することができた」
だけど、と風華は声を落とす。
「出番を控えたメンバーは、八階の楽屋にいた。ゆえに、逃げることができなかった」
セゾンstationのメンバーは、五人中四人が犠牲になっている。生き残った一人は――
「……なずなちゃんもセゾンstationのメンバーだったんだよね?」
「そう。なずなは最年少の末っ子で、メンバーからも愛されてた。『ナズナ』って別名『ペンペン草』っていうでしょ。だから、メンバーからは『ペンペン』とか『ペンギンちゃん』、そこから派生して、『ギンちゃん』とか呼ばれて可愛がられていた」
ギンちゃんか……元の名前は跡形もないが、女の子の間ではこういうあだ名の付け方は珍しくはないように思う。
「なずなちゃんは、火事のあった日、お休みだったの?」
風華は大きく首を振る。
「ううん。なずなも楽屋にいた。なずなだけがエレベーターを使って逃げることができたの」
「……どうして?」
「その理由はなずなは話したがらないの。だから、私には分からない」
ただ、と風華は続ける。
「当時、楽屋には十三人のアイドルがいたの。私からすると、どうして犠牲となった四人が全員セゾンstationのメンバーだったのかということの方がむしろ疑問なんだけど」
「まあ、そんな不平不満を言っても仕方ないんだけどね」と風華はため息を吐く。
風華の言うとおり、犠牲者がセゾンstationのメンバーに偏ってしまったことは、単なる偶然だとすると、不思議なことのように思える。
「四人が突然死んじゃって、私、本当にショックだった。『ショック』なんて言葉で言い表せないくらいに。まさに全てを失った、という感覚だった」
風華は、焦点の合わない目で、すでに混ざり切っているカフェオレを、マドラーでぐるぐるとかき混ぜる。
「何をする気も起きなくて、アイドルプロデュースからも足を洗ったの。柄にもなくコンビニでバイトして、店長にまで昇り詰めちゃって……」
風華がコンビニでバイトしている姿は、失礼ながらも想像がつかなかった。
「なずなも一緒だと思う。アイドルを辞めて、きっと抜け殻のような日々を過ごしてた。なずなの場合には、学業という別に専念すべきものもあったんだろうけど」
「なずなちゃんとは連絡を取り合ってたの?」
「ううん。お互いに避けてた、とでも言うのかな。もちろんお互いに嫌いあってたわけじゃないけど、会うとどうしてもセゾンstationのことを思い出しちゃうから……」
風華の目にうっすらと涙が浮かぶ。
「だから、ビル火災から五年後、なずなから突然連絡があった時、私はびっくりした。なずなと再会することは、一生ないと思ってたから」
「なずなちゃんの方から連絡があったの?」
「そう。なずなが突然会いたい、って。なずなが待ち合わせ場所に指定したのが、ちょうどこの喫茶店――クラクションだった」
たしか風華は、以前になずなとこの喫茶店に来たことがあると言っていた。それは、この再会の場面だったのだろう。
「久しぶりに会ったなずなは、私にとんでもない提案をしたんだ」
「とんでもない提案?」
「そう。なずなは、私に、セゾンstationを復活させたいって言ったんだよ」




