凛奈となずな
「凛奈ちゃん、良いねえ。合格」
貸し会議室で踊りを披露した私がまだ息を整え切れないうちに、なずなが言う。
「凛奈が最後のメンバーね。これで五人全員揃った」と、風華も同調する。
「……良いんですか、その、そんな簡単に決めてしまって……?」
「簡単に決めてるわけじゃないよ。書類審査もしてるし、VRアイドルに欠かせない歌とダンスもしっかり見てる」
それに、となずなは続ける。
「一番大事なのは雰囲気。私たちは、凛奈ちゃんの雰囲気が気に入ったの」
「雰囲気……金髪が好きなんですか?」
私が真顔でそう言ったのが可笑しかったようで、なずなも風華もクスクスと笑う。
「違うよ。そんなことじゃない。VRアイドルのオーディションだから、もっと内面的なことを見てるよ」
「内面……」
「まあまあ、とにかく凛奈ちゃんは合格」
目の前の若い女性二人の審査は最初の関門で、その後に、事務所のもっと偉い人の二次審査が控えているに違いないと思っていた私は、拍子抜けする思いだった。
このタイミングで肩の力が抜けたのは私だけでなかった。なずなも「はあ、疲れたあ……」とダラリと机に寄りかかる。
「ふうかちゃん、全部で何人くらい審査したっけ?」
「この会議室に来てもらったのは、三十一人だね。書類でその四倍くらいは落としてる」
広く公開されたオーディションではなく、アイドル経験者を中心に応募していたと聞く。そう考えると、なかなかの高倍率を、知らぬ間に私は勝ち抜いたということになる。
「失礼なことを訊きますが、お二人のどちらかが社長さんなんですか?」
なずなと風華が同時に首を横に振る。
「違う。風華は、このユニットのプロデューサーで、私はメンバー」
「え? メンバー?」
「だから、凛奈ちゃんの同僚だね。これからよろしく」
たしかになずなはアイドルのようなルックスだが、まさか審査員にメンバー予定者が加わっているとは思いもしなかった。
「メンバー審査に、事務所の偉い人は関わらないんですか?」
オーディションを主催する大手町VR事務所は、VRアイドルの先駆であり、VRアイドルが五十人近く所属する大事務所だ。
「うん。説明は難しいんだけど、半分セルフプロデュースというか……」
「半分セルフプロデュース?」
「アイドルとしてのマネジメントは、敏腕プロデューサーのふうかちゃんが一手に引き受けるの。ふうかちゃんは、曲も作れるし、振り付けもできるし、スケジュール管理も得意だし、レジ打ちもできるし……」
「レジ打ちは関係ない」と、風華。
「あ、そうだね。とにかく、メンバー選考は私とふうかちゃんに委ねられていて、その後も、ふうかちゃんと、それからメンバーみんなで話し合いながら、アイドルを作っていくの」
「それに事務所はどう関与するんですか……?」
「もっぱら技術面だね。普通のアイドルと違くてVRアイドルだから、機材がないと動かないでしょ?」
なずなの説明は、なんとなくだが理解できた。
この際だから、気になっていることは全部二人に訊いてみよう。
「ビジュアルはもう決まってるんですか?」
「ビジュアル……ああ、絵のことね!」
それはVRアイドルにとって、文字どおり顔であるし、生命線なのだと思う。
「メンバー全員の絵はもう書いてあるよ。VR処理はされてないけど」
「……書いてある?」
なずなの言い方が引っ掛かった。
あ、となずなが口を押さえる。
「……書いてある、というか、すでに出来上がってるというか……」
「メンバーの絵は、なずなさんが書いたんですか?」
「まあ、そうとも言えるというか、なんというか……」
「なずな、逆に怪しいよ」
風華にそう指摘されて、なずなは恥ずかしそうに頭を掻く。
「なずなはすごく絵が上手いの。だから、原画はなずなが担当」
「まあ、そういうわけで」
私は、目の前の二人は随分と多彩なのだな、と目を丸くしていただけだったのだが、風華は、私がなずなの画力を疑っていると思ったのか、スマホを操作して、なずなが書いたという原画を表示させた。
「……え? 可愛い」
お世辞ではなく、本心でそう思った。
想像どおり、いや、想像以上だ。
目がクリクリで、シャープな輪郭の、可愛い女の子五人組。
私がこのうちの誰かの中の人をやれると思うと、心がときめく。
「ここからまた修正をするんだけど」と、なずなは言い訳をするように言ったが、私には、これ以上何を修正するのか分からなかった。
「なずなさん、あともう一つ訊いても良いですか?」
「もちろん。凛奈ちゃん、なんでも訊いて」
「VRアイドルも、声はそのままなんですよね?」
「……凛奈ちゃん、声を変えたいの?」
「えーっと……」
変えられるならば変えたい、と思っていた。有名人を気取るつもりはないが、ここ半年で、知る人ぞ知る存在になってしまったつもりではある。
声を変えなければ、おそらくすぐに前世バレをする。
とはいえ、私自身は、別に前世バレをしたって――
「凛奈ちゃんがどうしても声を変えたいというなら検討するけど……」
「やっぱり大丈夫です」
別に前世バレをしたって構わない。
私は、私のままで、この世界で生きていこうと決めたのだから。




