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青色はぐれ星  作者: Full moon
第1章
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第二話 紹介と誘い






「それでは転校生を紹介します。如月未来さんです」


担任から伝えられた言葉に、教室中が沸き立った。僕も表情には出さないが、心の中でかなり驚いている。


セミロングの赤い髪。比較的高い背丈。ヘアピンで留めていた髪は、今は流していて、広いおでこは隠してある。


「如月未来です。よろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げる。ざわざわとざわめく教室。


さっき模擬戦にいたよな。あの大剣使ってた子?まじかよ、俺、彼女にはが立たなかったぜ。ていうかすっごい可愛いよな。


美人で強くて明るい雰囲気の彼女がやってくれば男子どもが色めき立つのは当然のことだろう。そして女子の間でも、模擬戦の戦いを見たからか、感嘆の声を上げるものもいるし、素直に可愛いと口にする子も多い。


「空いている席は・・・佐藤の隣があるな。そこに座ってくれ」


担任の言葉に、佐藤の席から離れている男子がブーイングをした。


「よろしく」


佐藤は綺麗な笑顔を浮かべた。すると男子の一人が、でた、佐藤の悩殺の笑顔、とヤジを飛ばす。

佐藤はクラス1のイケメンと、誰もが頷く人間だ。顔だけじゃなくて、リーダーシップも取れるし、何よりスポーツ万能、成績優秀、模擬戦でも通算成績一位だ。


そんな佐藤に笑顔で目を向けらればたとえ男子でも赤面指定しまうと言われていて、実際鈴支那も初対面はそうだった。


だが、如月はあまりそういうタイプではないらしい。笑顔を向けてよろしくお願いします。といってはいたが、目は笑顔ではなかった。そして、彼女は俺の方を向いてチラチラ、っと手を降った。ほんのわずかな動作だった。おそらく気づいている人は他にいないだろう。


彼女が席に着くと、担任が話し始めた。


「みんな、彼女と仲良くしてやってくれ。さて、模擬戦の後で疲れただろう。今日はこれで学校は終わりだ。みんな解散」


担任がそういうと、それぞれカバンを持って席を立ち始める。当然、如月の周りには生徒が集まり始める。


さて、僕には関係ないと言い聞かせながら、それでもなぜ僕にだけ手を降ったのか、そしてなぜ僕と模擬戦のペアを組んだのか、その疑問を抱えながらも、鈴支那はカバンを持って、帰ろうとした。


「お、鈴支那。お前には仕事がある。後で職員室に来てくれ」


げ、と思ったがもう遅い。担任はすでに職員室に戻りかけている。今からわざわざ声を出して止めるのは少し恥ずかしい。鈴支那は仕方なく息を吐き、今も彼の帰りを待っている家にメールを打って、もう一度席に座り込んだ。








鈴支那に言い渡されたのは、プリントのホッチキス留めだった。こんなことぐらい自分でやれよと思うのだが、担任の先生というのは忙しいに決まっている。忙しいのだから、生徒が手伝うのは当然のことだ、と半ば諦めていた。



「・・・・終わった」


ケータイを見ると大量のメールが送られて来ている。どいつもこいつも、早く帰ってこい、晩飯はまだかだの好き勝手いっていやがる。


だが、それが嬉しくないといえば嘘になるし、実際僕は頼られるのが嬉しかった。


ホッチキスをたたんで、できた書類を束ねる。トントン、という音の中に、ガラリ、と教室のドアが開く音がした。


「ゆーいちくん。遅くまでお疲れ様」


僕のことを学校でそう呼ぶ人は一人しか知らない。今日転校して来た、如月未来だ。


何をしにここに来たんだ?普通クラスの奴らが歓迎会だのなんだのと開いてもてなしているのだと思っていたのだけど・・・


彼女は笑顔でこちらにやってくる。僕は少し警戒して、一歩引いた。すると彼女はそれに気づき、手を口元に当てて笑った。


「ほんとにも〜、そんなところまで一緒なの?」


嬉しそうな口調だった。意味がわからない。彼女は一体何に笑っているんだ?


「それじゃあまた一からやり直しか〜、でもそれもいいかも」


ほんの僅かの落胆と、幸せそうな笑顔。彼女の笑顔は本当に眩しい。心臓が高鳴った。


「・・・どうしたんですか?」


だが、口から出て来たのはぶっきらぼうな言葉だった。コミュ障によくある、女子と喋れない、喋りたくてもうまいこと話せないあれだ。


「うーん。優一くんと話したいことがあるんですよこれが」


彼女はわざとらしく抑揚をつけた声で話す。


如月さんは僕の方に近づいて来て、さらに距離を詰める。ホッチキスで先ほど束ねた紙を手にとって、ざっと流し読みしてからまた同じ場所に戻す。小さく彼女はつまんないの、と発した。


そして教室から窓を除く。ゆっくりと夕焼けが沈んでいく。オレンジ色の淡い光が机を照らす。乱反射した光がさらに瞳に、彼女が照らされた姿がくっきりと瞳に入る。


くるりと俺の方を振り向いた。彼女の妖艶な笑みが、僕の心を射抜いた。


「私と一緒に世界を征服しない?」


彼女はゆっくりと唇を動かし僕に伝えた。それがまるで、物語の始まりのように。





正直な話し、僕の最初の感想は、「何言ってんだこいつ?」だった。


日が傾きかけ、あたりが暗闇に満ちかけてきた時間帯。僕の隣には如月がいた。


「ちょ、ちょっと待ってって・・・話しを聞いてってば!もう、優一くん!」


彼女はしつこく推しすがろうとするが、僕は無視して歩き続けた。家の奴らも心配している。僕が早く帰らないと、料理がどうなっているのかわかったもんじゃない。


「世界を征服って言ったって、悪い意味でじゃないの!世界を平和にするために世界を征服するの!そういう意味なの」


「・・・すいません、あんまり興味ないんで」


さっきまでの胸の高鳴りは何処へやら、今の彼女はあまり女性的な魅力を感じなかった。言うなれば、今も家にいる妹たちのような感じがした。


「世界を征服すればね、なんだって思い通りなんだよ!自分の好きなようにできて、自分の思うがまま。優一くんが思い描く平和を実現できるんだよ」


まるで下手な宗教勧誘だった。僕はそういうものには興味がないと言っているのに彼女はかなりしつこい。


「・・・世界征服なんてできるわけないじゃないですか。僕にはなんの力もないのに」


何を僕は冗談に応対しているのだろうか。無視して入ればよいものの、なんか、家にいるやつらの感じで、反応してしまう。


すると彼女は、よくぞ聞いてくれました!とばかりに目を輝かせる。どうやら聞いてくれるとわかっていたらしい。何かいいように誘導されたような気がするのだが・・・


「力ならある。ほら、リミッターを外したら、ものすごい力があるじゃない」


リミッターと聞いて、なんのことなのか少し考えて、思い至った。


「R.I.Rデバイスのことを言っているんですか?あれだって、僕がリミッターを外したところで他の人が同じように外したら意味がないじゃないですか」


「ノンノン。君たちはさ、色々と勘違いしてるよ?」


人差し指を立てて、もったいぶった口調で話す如月。まるで小さな子供が大人に知識を自慢するような感じだ。


「でもまぁ、今は言わなくていいかな」


なんじゃそりゃ、と思った。


「でも、優一くんには他にはない力があるんだよ。だから、世界征服だってできる」


なんだろう、本当に宗教勧誘じみて来た。いよいよやばい子なのかな、と思い始めた。


「・・・ところで、家はどこなんですか?結構歩きましたけど」


この辺りにはあまり生徒は住んでいない。東京蒼穹学校は実は寮がある。ほとんどの生徒はそこに住んでいるのだ。鈴支那のように住んでいない方が珍しい。


「ん〜?私は寮に住んでる、ってことに一応なってる」


何やら不審な言葉に突っ込むべきなのかどうか悩む。すると彼女は嬉しそうに、


「気になる?私の私生活とか?」


「別に・・・・・・そろそろ僕の家につきますけど・・・どうしますか?


「え〜いたいけな美少女が男の子に家まで付いて行こうとしてるんだよ?何か誘いのアクションをするべきなんじゃないのかな?」


「生憎、そんな度量を持ち合わせていないんですけど・・・」


そんな会話を続けていくうちに、本当に自宅に着いてしまった。僕の家は普通とは違う。それは外見からも言えることだった。


大きな門と広い庭。綺麗に刈りそろえられた芝生。そこに転がるおもちゃ。戦隊物?とか魔法少女のやつとか、あるいはスコップとかジョウロとか、色々。

大きな三階建の建物は、蔦が絡みついていて、薄汚れた白い壁が見え隠れしている。


門を開けると、ギギギ、という耳障りな音が響く。油指しなんかじゃ間に合わないほどの深刻なサビ。怪我もするからあまりよくはないのだけど、放って置いている。


敷地内に入ると、如月は不思議そうな顔をしてついてきた。


「小鳥の家」そう名付けられたここは、いわゆる、戦前の児童養護施設。政府が福祉に対してあまり補助金を出さなくなってからは、孤児院、という名前の方が定着してしまった。


「孤児院か〜」


彼女が言った感想はそれだけだった。驚きなどは特になかった。友達が実は、サッカー部に所属していたんです、というくらいの感じだ。


「それで、どうするんですか?」


「ん〜それは優一君の好きなように」


ずるい言い方だった。彼はこんな夜中に家の前々で来た女性を放っておけるほど、無神経な人間ではない。


扉を開けると、暖かい電球の光に照らされた玄関が映し出される。靴がたくさん、壁にはたくさんのフックがつけられ、帽子がたくさん。木の床は、中央あたりが変色している。


僕が入った時から、ここはこのままだった。壁に残された落書きの後、背を比べるために柱に刻まれた線。誰がやったのかわからない、壁の修復後。どれもこれも、ひたすらボロい。


そして、廊下の奥の方からざわざわと騒ぎごえが聞こえてくる。そうか、今は食事の時間だよなぁ・・・参った。


食事時の子供の破壊力は半端じゃない。長年子供たちと一緒にいた経歴があるからなんとか対応できるものの、それでも、しんどいものはしんどい。

多分初めてのアレを見たものは戦争でも始まったんじゃないのかと思ってしまうだろう。ロシアとの戦争が、あんな風になるのなら、それはそれで歓迎すべきことなのかもしれないが。

とにかく、如月さんにあの光景を見せるわけにはいかない。あいつらから質問ぜめを受けるだろうし、迷惑がられるだろう。


「如月さん、今は2階に・・・」


そう言おうとする前に、彼女は扉に手をかけていた。待って覚悟を・・・と鈴支那が言う前にそれを開く。


一瞬、静寂が辺りを包んだ。扉の奥の住民が一斉に如月の方を見る。

鈴支那は耳を塞いだ。この後来る爆音に対応するために。

「誰?!」

がたりと椅子から立ち上がった年長者。

「うわぁ、女の人だ」

フォークを口にくわえたまま、呆然と喋る男の子。

「う、うぐ、うわああああん!」

急な来訪に戸惑い泣き出す小さな女の子。

「おい!俺のミートボール!」

「ぼーっとしてるからだよ!」

二人の男の子がご飯を取り合う。

「道場破りだ!」

男の子が椅子から飛び降り、叫ぶ。

「ま、まって危ないよぉ」

ビクビクと震えながら小さな声を出す女の子

「ふむ、制服が優一と同じだ。つまり彼の同級生では?」

冷静な判断を下す女の子。


「・・・お、おっす。私、優一くんの・・・彼女です」


片手を上げて、なぜか恐れおののいた口調で、彼女は虚偽をのたまった。


ビシ!と奇妙な静寂が辺りを支配する。そして、全員の動きがシンクロし、廊下の奥にいる鈴支那の方に向く。


何を言ってくれるんだこのクソ女!と本気で言いたくなった。


「嘘!」

口元を押さえ、突然のカミングアウトに目を見開く年長者。

「うわあ、優一の彼女だ」

フォークをくわえたまま呆然と喋る男の子。

「うわあああああああん」

泣き出す小さな女の子

「おい!俺のハンバーグ!」

「ぼーっとしてるからだよ!」

やられたらやり返すふたりの男の子。

「修羅場だ!」

男の子が戦いの構えで叫ぶ。

「ま、待って、危険だよぉ」

ビクビクと震えながら声を出す女の子。

「ふむ、ついに彼にも春がやってきたということか」

冷静な判断を下す女の子。


騒ぎが騒ぎを呼び、飛び火が燃え広がり、この場をしっちゃかめっちゃかにしていく。総勢10名ほどいる子供達が一斉に大声を出せば、こんなボロい家は倒壊の危険さえある。


しかも、今はそれを止める立場のやつ、水谷果穂という年長者が固まってしまっているため、収まることがない。


実際問題として、ここは僕がいくべきなのだろうけど・・・実は僕にはほとんど権限がない。子供達が言うことを聞いてくれないのだ。よく言えば懐いている、悪く言えば舐められているといったところか。


だから僕にもどうすることもできない。


どうしたらいいか困り果てていると、如月がやってきてこう言った。


「私が止めようか?」


止めれるなら止めて見せなさいよこら、と僕は叫びたくなった。そんなことが簡単にできるわけないのに。

そう言おうとしたら、彼女は部屋に入り、


ドン!!!!


と机が揺れた。そして床が揺れた、ついでにぼろ家も揺れた。


一瞬静まり返る室内。そこをすかさず、


「静かにしてね?お願い」


笑顔で言ってのけた。それにはどうともしれない、迫力があった。多分初対面でこれをやられていたら、多分、腰を抜かしていた。


子供も例外ではない。特に小さな子供なら泣き出してしまうのではないかと思ってしまったが、もはやそれを通り越して、ぼーっとしている。


彼女はこちらをくるりと振り返った。顔は、少し戸惑ったような表情。流石にここまで効果があるとは思っていなかったようだった。








子供達が食事を終え、おのおの自分の部屋にいったり、テレビを見たりしている時間。如月と鈴支那は遅い夕食をとっていた。


あのあと、子供達は如月に一緒にご飯を食べようと言ってきたのだが、鈴支那がそれを止めた。嫌な予感しかしなかったからだ。多分質問責めを受け続け、やがて自分の悪口に変わっていくのだろうと考えた。


そのため、一旦如月を自分の部屋にあげ、子供達が食事を終えるまで待った。もしかしたらこの部屋に押しかける奴もいるんじゃないかと考えたのだけれど、それはなかった。


鈴支那の部屋にいる間、彼女はずっとくすくす笑っていた。


「家に女の子を上げるのを躊躇するくせに、部屋に上げるのはいいんだ」


その意味を理解するのに5秒、そして顔が真っ赤になるのに2秒、言い訳が口をついて出てくるのに1秒もかからなかった。


僕がその時何を言ったのかわからなかったけど、たいそうおきにめしたらしく、ずっと笑っていた。



「学校の同級生か〜そっか」


時間を戻そう。今はこの部屋には僕と如月、そしてこの家の住人、水谷果穂がいた。僕と如月はご飯を食べていて、果穂はお皿を洗っていた。


一通り話しを終えて、やっと僕は食事の味に集中できる。さっきから果穂の視線がめちゃくちゃに痛かったからだ。


「あ、私が勝手に押しかけちゃっただけなの。だから優一くんはわるくないよ」


すると如月が慌てて付け足した。もしかしたら自分が来たことが迷惑だったのじゃないかと考えていたのだ。

それを水谷は感じ取ったのか、


「別に来てもらっても構いませんよ。子供があれだけおとなしくなってくれて助かってるので」


水谷はあまり抑揚のない口調でフォローをいれる。彼女は人見知りだ。本当はもっとズカズカと喋るタイプなのだが。


「如月さんでしたよね。優一とは・・・友達ですか」

「うん。今日転校して来たんだけど、優一くんには色々と案内してもらって、調子に乗っちゃった」


そう言って笑う彼女はまるでここにいる子供と変わらない、道中に世界征服をしようと言い出した面影なんてどこにもない。


「ふ、ふーん、そうなんだ」


その時水谷の声がかなり戸惑ったように感じた。なぜなのだろうか、と鈴支那は首をかしげる。


「優一は学校ではどうですか?きちんと学校生活を送れていますか?」


さらに水谷が質問を続ける。おや、その質問は如月の方からすると思っていたのだけれど。


「うーん、私は今日来たばっかりだからよくわかんないんだけど・・・」


そう言って彼女は僕の方を見てくる。その目は、どう言って欲しい?と尋ねて来ているようだった。


別にやましいことは特にない。強いていうなら友達と言える友達がいないということだけ。正直な話、親しい友達がいなくても学校生活はなんとかなる。休み時間は寝るか勉強すればいいわけだし、放課後はさっさと家に帰ればいい。困ることといえば、授業でペアを組む時誰もいないということだけだ。


だが、果穂は心配するだろう。自惚れているわけではないが、僕はここの奴らに慕われている。特に彼女からは、まるで母親のように心配しているのだ。それこそ友達がいないと言ってしまえば、小言を一晩中聞くことになるだろう。


汲み取ってくれたのか、如月は、


「そうだな〜静かな一匹オオカミって感じ?あ、けど友達がいないってわけじゃないよ。ちゃんと休み時間とか楽しんでるし、行事にも積極的に参加しているみたい」


当たらずも遠からず、という感じの、かなり曖昧な回答をする如月。


「そうですか、よかった・・・」


水谷は安心したように息を吐く。


彼女の心配ようを知っているからこそ、僕の心は罪悪感に満たされた。

如月さんと目があう。彼女は感情の読み取れない瞳で僕の方を見ていた。

すると洗い物の終わった果穂がテーブルの方へと移動してくる。


「それじゃあ改めまして、こんなふつつかな奴ですが末長くよろしくお願いします」


多分液体を飲んでいたら盛大に吹き出していただろう。それでもブフッと吹き出す音は消すことができなかった。


「何を・・・」


「いい、優一。これはチャンスよ」


果穂は僕のそばに素早くよって来て、耳打ちする。


「普通にかんがえて、初対面の男の家に押しかける?いくら転校初日で案内してあげたったとしても、行きすぎよ。これは間違いなく優一に惚れてるわ」


先ほどまでとは打って変わった早口でズカズカとした言い方。


「あわよくば押し倒してもらおうとでも思っていたのでしょうて。これを逃さない手はない」


「いや、それは・・・」


「正直、優一に結婚相手が見つかるかどうかずっと不安だったの。優一って奥手だから、女に手を出せないだろうし。けどこんなに喰ってください、って言ってるような人と巡り会えてよかったじゃない。この恋が実らなくたって色々経験を積めるのは良いことじゃない」


何やらかなり危険なことを言っているのだけれど・・・


如月は微笑ましく思いながら二人を見ている。


「とにかく、部屋に戻ったらデートしてくださいくらいいなさい。いいわね」


どうやら決定事項らしい。どうしてこうも僕が承諾するという前提で話を進めるやからが多いのだろうか。


「お話し終わった?なんの話してたの?」


「秘密です」


果穂がそう答えると、如月さんはクスクスと笑った。







「あー美味しかった。果穂ちゃんって料理の天才だね。毎日たべれるなんて幸せだなぁ」


僕の部屋に戻り、如月はそう言った。彼女は僕の布団に寝転び、背伸びをしている。それを見ると、いやが応にも、如月さんの言葉を思い出す。彼女は本当に世界征服を考えているのだろうか。もしかして、僕に近づくための口実だったりして、と考えてしまう。


すると彼女と目があう。


「優一くん」


その言葉にどきりとした。まるで誘っているように感じたからだ。


「世界征服は、してくれる?」


彼女の瞳は真剣だった。その雰囲気に、さっきまで自分が考えていた浅はかなことがバカらしく思えてくる。


「・・・すみません、まだ何を言っているのかわからなくて・・・」


「そう」


彼女は特に何も言わなかった。ただ、少し悲しそうだった。

道中の食いつきを考えたらあっさりした感じに疑問を抱かずにはいられなかった。


「それでもいいけど・・・でもね、気づいてからじゃ遅いの。何かを失った後で取り戻そうと思ったら、また何かを失う羽目になる。絶対に奪われないためには、奪われる前に行動を起こすしかないの」


意味深な言葉だと思った。でも、それがどういう意味なのかを詳しく追求することはできなかった。


しばらくして彼女は小鳥の家をさって行った。世界征服だの言っていたことは、それから言及してくることはなかった。もちろん、果穂の言うようなデートの誘いなどと言うこともできてはいなかった。



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