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青色はぐれ星  作者: Full moon
第1章
2/21

第一話 出会いと戦い





『次のニュースです。中国北東部での戦闘は未だ膠着状態が続いますが、近いうちに大規模な作戦を行う模様です。これにより中国は完全に日米側が取得するでしょう』


・・・今日も嘘とは言えないが、真実とも言えないニュースばかりだ。


彼、鈴支那優一はため息をつく。

制服に袖を通し、ネクタイをつける。食パンを食べきり、コーヒーを飲み干すと、彼は自宅のドアを開ける。自宅、といっても彼一人が住んでいるわけではない。ここには彼のたくさんの家族がともに生活をしていた。





「今日の授業は君たちの装備についての歴史を学ぶ。教科書36ページを開くように」


後ろの方であくびをする。ポカポカとした日差しが気持ちいい。

「君たちも知っての通り、現在日米同盟とロシアは戦争状態にある」


外を眺める。今日もいい天気だ。


「当初は圧倒的な物量と技術力により我々日米が圧勝するものと考えられていたが、ロシアは新型の兵器を投入したことにより、戦線は拮抗した」


・・・あの空の向こうでまだ戦争が続いているのか。


「その兵器はルシアニウム、と呼ばれる」

その言葉に、多少だが教室に緊張が走った。

「君たちはよく知っていると思うが、ルシアニウムに対抗するために作られたのが第二特務隊と呼ばれる部隊だ。そして君たちはその訓練生となっている。

第二特務隊の兵隊は特別な装備を用いる。君たちに支給されているのがそれだ」


僕達には支給された武器がある。R.I.Rデバイスと呼称される武器だ。


「R.I.Rデバイスの最大の特徴は、銃タイプのものであれば銃弾を必要としないことだ。これは銃にあらかじめ備えられたエネルギーを使用、もしくは、体内のエネルギーをレーザー光線として使用することができる。そのため、風などの影響が少なく、放物線を描くこともない。非常に優れた武器だ」


自分が選んだ武器を見る。小さく折りたたまれた細長い円柱型の物。確かにここから青いエンルギーが発せられる。だが、それがどのような理屈で動いているのかを誰も気にしたことがない。それはもちろん、今窓を眺めている彼自身もだ。もはやケータイやパソコンは、彼らの祖父母が生まれた時からある代物だが、誰もその機能や不思議さを追求しないのと同じだ。


「君たちは優秀な武器に恵まれた。つまり優秀な兵士であるということだ。これからも日米同盟のため日々訓練に励んでほしい」


教師は黒板に何かを書き始める。


めんどくさい。ノートに板書するのも、黒板を見ることすら。


「君たちの装備は主に二種類に別れる。銃型と剣型だ。銃型は名前の通り遠距離から攻撃が可能となる。さらにR.I.Rデバイスはほとんど反動が存在しない上、弾切れも、所持者が倒れない限りは起こさない。まさに夢の武器と言えるだろう」


次の授業は・・・ああそうか、模擬戦闘か。・・・ペアを組まされることになるが・・・さて、誰が組んでくれるのだろうか。


「剣型は名前の通り、剣の形をした武器だ。実体剣型と非実態型に別れる。どちらも一長一短あるが、接近した時は恐ろしい戦闘能力となりうる。一見して銃型の方が有利に思えるが、ロシアでの戦闘経験から、剣型も役立つということが立証されているので、剣型も君たちには訓練してもらっている」


先生の言葉に時折、立証だとかそういう言葉が出てくる。しかし、それに関する何らかのデータが示されることはない。特にロシアでの戦闘に関するデータはほとんど提示されない。


「そして最もはじめに開発されたのは剣型だ。それでは剣型の種類とそれぞれの特徴を・・・堀田椎名、答えてみろ」

先生は一応はノートを取っている生徒に質問する。


「先生〜あたしの名前はホッタじゃなくてホリタです」

帰ってきたのはホニャホニャした言葉。一応先生のキリッとした言葉が続いていた中で、彼女の言葉は一種の清涼剤のように響く。


「ああ、すまない。それでは答えてみろ」

「えーとですね、えーとですね、えーとですね・・・」


わかっていない。それは教室中の人間が、教師も含めて理解した。しかし遮れない。

堀田椎名はふわふわした女だった。髪もふわふわ、性格もふわふわ。もしかしたら地に足がついていないのではないかと噂になったほど、動きもふわふわ。そんな彼女のふわふわした言葉に先生も遮るタイミングを失っているようだ。

そんなふわふわした時間が続くかと思った時、堀田の隣で声が上がった。

「先生、私が答えます」

そう言って立ち上がったのは、このクラスの副委員長の矢部真哉花だった。

「うわ〜助かったよマヤちゃん」

堀田の感謝の言葉を無視して、先生の問いに答えた。




無機質な彼女の声が響き渡る。それがどうしようもなく、鈴支那祐一を眠りへと誘った。は寝落ちした。どうでもいいことが眠気に叶うはずがない。むしろ彼はよく耐えたというものだろう。彼は昨日、いろいろなことに追われてほとんど眠っていないのだから。





世界はすでに終末期だ、と有名な学者さんは言ったそうだ。多分、今からほんの100年ほど前に言っても誰も信じなかっただろう。世界は冷戦と呼ばれる緊張状態から解放され、表面上だけでも平和を保ち続けていた。傲慢で嫉妬深く、自尊心の塊のような愚かな脳みそを押さえつけ、理性という鎖で、核兵器を禁止し、化学兵器を禁止した。それが一体なんの意味があったのだろうか。禁止するということは、それがあるということだ。使わない、と約束するのは、それを使う可能性が非常に高いからだ。しかし、当時の人間は、核兵器禁止条約だの、化学兵器禁止条約だの、そんな文面と建前と、正義の名の下に、それを所有したものを平和を脅かす蛮族と決めつけ、それを最初に所有し、使用した張本人が作った条文を眺め、ああ、世界は平和だ。これからも頑張ろう、などとよく本気で思えたものだ。


世界の終末期など、とうの昔に迎えていたというのに。そのスイッチはすでに彼らの手の中に収まっていたのに。





その火種はすぐに起こった。理由は、実のところよくわかっていない。というか、遠因と原因が多岐にわたり互いに複雑に絡み合い、フィードバックを繰り返した結果こそがまた新たな遠因になるという、よくわからない解釈のもと、理解されている。わかりやすい事例といえば、経済の疲弊しきった中国で漢民族とその少数民族が紛争を始めたこと。少数民族が化学兵器を使用したこと。中国国民のほとんどが避難をし、世界各国が軍隊を中国に投入したこと。アメリカの地下水が消失し、世界の食料が危機に瀕したこと。アメリカがボロボロで抑止力など皆無に過ぎなかったこと。オーストラリアの資源が底をつき、新たな資源を求め、南極が汚されたこと。インドがバングラデシュとパキスタンを併合という名の侵略をしたこと。EUが実質骨抜きとなり、経済が乱れたこと。北朝鮮が滅んだこと。韓国の若者が当時の大統領を射殺したこと。日本が自らの権益を守ることだけに固執し、レッドカードとも言える、東南アジアを中心にブロック経済を行ったこと。

極め付けは、ロシアが北極である鉱物を発見したこと。



何がトリガーで、何が火薬で、何が薬莢で、何がリボルバーで、どこに銃口が向けられ、誰が引いたのかもわからない。戦争は、世界中を巻き込んだ。


結論から言えば、ロシアの圧勝であった。ロシアは広大な土地の元、北極を事実上掌握し、莫大な資源を得ていた。その資源の元にヨーロッパのほぼ全域を手にし、高水準な技術力の元、北極で発見されたある物質を研究し始めた。それは新たな兵器だった。


ルシアニウムと名付けられたそれは、ある種の生物兵器とも言えた。自我は持たない。入力されたコマンドに従い、忠実に命令を実行する。どんな形にも変形する。そしてその甲殻はほとんどの重火器を通すことはない。


圧倒的な戦力の前に、カナダは陥落し、点と線を結ぶ広大な領域を盾に、ゲリラ戦による足止めを余儀なくされるアメリカ。同時に中国を取り込んだロシアは、さらに日本へと攻撃を開始していた。



日本は追い詰められた末、東南アジアの選りすぐりの研究者チームが、奇跡を起こす。それはルシアニウムを利用した武器。のちにR.I.Rデバイスと呼ばれるようになったそれは、物理法則を革新する全く新しい兵器だった。研究者たちはその理論、原理をさらに解き明かそうとした。一方で、日本政府に細かな理論は必要なかった。それがルシアニウムに対抗する唯一の手段であると知ってしまった以上、利用するしかなった。


新たな兵器。それは思春期から体になじませておかなければ、体が耐えられないような代物だった。日本政府は急遽、日本各地に軍隊養成所を設立。軍隊になるべくして育つ人材を集めだした。









よく晴れた空。今日本は戦争中なんて感じさせない、鳥の鳴き声と風の音。


だがグランドにいる彼らを見れば、戦時中だということが一目瞭然となる。制服・・・もとい戦闘服を着た彼らは、まさに兵士だった。彼らは目立たない麻色の地味な服を着て、その手や背中には銃や剣が装備されている。


彼らは慣れた様子でかちゃかちゃと体に武器をつけていく。あるものは背中。あるものは腰。装備する種類もそれぞれで、人によって違う。


女も男も違わない。皆が等しく隊員となり、模擬戦を行う。


「よーし、それではペアを組め!以前なったやつと組むのは禁止だ。異なる仲間との連携も大事になってくるからな」


最近行われているのは、二人一組で戦うバトルロワイヤル形式の戦いだ。敵地で敵部隊に囲まれた時、いかに乱戦に持ち込み、いかに生き残るのかを鍛える、ということだ。


まぁ正直敵に囲まれたら逃げの一手だろうが、おそらくロシアではそうは言ってられない事情があるのだろう。


皆がそれぞれ仲間を組んでいく。友達同士で組んでいく奴もいれば、恋人同士で組む奴もいる。前回と同じペアになってはいけないが、そもそも組む友達が一人だけのやつなんてほとんどいない。だから普通ペアはできていく。


「マヤ、今日は一緒に戦えるね」

「はいはい。指示には従ってよね」

遠くの方でいつものコンビである矢部真哉花と堀田椎名がチームを組んでいた。堀田の方は花が開くように嬉しそうに、矢部の方は言葉通り、はいはい、と。


矢部と目が合い、少し気まずくなる。

前回チームを組んだのは矢部だった。彼女とは、相性が悪かった。


僕にはチームを組む友達がほとんどいない。ほとんどいうからには一応いるにはいるのだが、そいつとは前々回にペアを組んでしまった。ちなみに前回は同じくはぐれものとなった矢部と組むことになった。結果は散々だったが。


彼はキョロキョロと周りを見て見るが、あまり期待できそうにない。諦めて隅っこで、どうか人数が奇数でありませんように、と願った。今朝、欠席が一人いたということを知っているので絶望的なのだが。


「ねぇねぇ、君、鈴支那優一くん?」


彼の背後で突然声がした。驚いて振り返ると、


「・・・そうだけど?」


一見して感じたことは、明るそうな女の子、だった。


黒髪でセミロング。ヘアピンで止めた前髪。大きく露出したおでこ。そして整った顔立ち。背はあまり低くはない。むしろ高い部類に入る。それでも彼よりは低いが。


すると彼女はジロジロと、彼を観察し始めた。上目遣いに顔を近づけ、目を細めて、まるで遠くのものを見るように彼を見つめる。正確には彼の瞳をじっと見つめていた。


いきなりそんなことをされて気分を害さない人間はいないだろう。たとえそれが美少女であったとしても。彼は顔をしかめて、数歩後ずさった。


「・・・うん。やっぱり君だ。君以外にありえない。ねぇ、私のこと見覚えない?」


「・・・いや」


戸惑いながら返事を返すと、彼女はむ〜と唇を尖らせ、


「まぁいいや。直に思い出させてあげるから」


彼女は自信満々に言い放った。一体全体何のことか、全く理解できなかった。


「一体なんの・・・」


「鈴支那!お前はペアを組んだのか!どうなんだ!」


すると教師からの怒号が飛んでくる。見ると他のクラスメイトはペアを見つけ終わっていた。

どうやらあぶれ者は俺だけらしい。


「あ〜あ、怒られちゃった。じゃあ私と組まない?」


彼女はいたずらっ子が浮かべるような笑いをした。一応初対面だと思うのだが、鈴支那には自信がない。というか、こんなクラスメイトいたっけ、というのが正直な感想だ。だが確かにクラスメイトの名前と顔が一致するかと言われれば不安になるし、もしかしたら忘却の彼方へ言っているかもしれない。


「ああ、わかった」


鈴支那は彼女の発言を懐疑的に思いながらも、承諾する。組んでくれる生徒は彼女しかいないようだったからだ。


「あ、私、如月。如月未来。よろしくね、鈴支那優一くん」


「・・・よろしくお願いします」


そこらのアイドルよりよほど綺麗な笑顔だった。どもらずに返事ができた僕を褒めて欲しい。


「全員組み終わったな!それでは所定の位置につけ!」


グランドといっても、その広さは広大だ。確か日本で一番敷地が広い大学の3倍はあるらしい。よくもまぁ東京にそんな土地があったもんだ。

あらゆるフィールドに対応できるように、平原、岩場、ジャングル、住宅地、ビル街など様々な地形が存在する。

人数が人数なので流石にグランドすべてを使うわけではないが、それでも十分広い。歩き回っているだけで疲労困憊だ。


それぞれが指示を受けた場所へと移動する。そこから模擬戦がスタートする.

ご丁寧に敵がどこに隠れたかわからないように時間と場所を的確にずらしている。


「さて、私たちがいく場所は・・・B2ブロックね」


渡された小さな紙を見ながら彼女が小さな声で言った。今回は市街地を中心に小さな山や、田んぼなどが含まれたフィールドでの戦闘となる。


B2ブロックは市街地から最も離れた、田んぼなどの障害物が少ない場所だったはず。


・・・はずれか、と落胆した。背中に背負っている、愛用のスナイパーライフルの重さが格段に重くなったような気がした。

彼が得意としているのは狙撃銃。そして銃型の装備だった。そのため平原では剣型に対し一方的に不利となってしまう。


「ねぇ、ここってどういうステージなの?」


すると如月は、よくわかんない、と言った感じで尋ねてくる。さすがにもう二年近くグランドで訓練していたのだから、場所と地形ぐらい覚えているものだと思うのだが・・・


記憶力の低い人もいるだろうと鈴支那は考え、説明する。


「端的に言えば、平原です。田んぼがあって、多少は隠れれるでしょうが、剣型の格好の的に」


「ちょっと待って、とりあえず敬語やめてよ。昔もこのやり取りしたと思うんだけど」


「昔?」


聞き返すと、如月はハッとしたように口を開け、曖昧に笑う。


「ううん、何でもない。ただ、敬語はやめて。なんか背中がムズムズするの」


そう言って、彼女は立ち上がる。


「説明してくれるのはありがたかったけど、考えてみれば直接言って確かめればいいだけよね。ちょうど私たちの移動の時間みたいだし、行きましょう」


如月は立ち上がって、歩いていく。その背中には彼女の身の丈ほどにあるであろう、大剣があった。




「あの、如月さんの武器って・・・」


ずんずんと、全歩を進んでいく彼女の背中に鈴支那は問いかける。


「ん?ああ、メインはこの大剣。こいつの方がね、しっくりくるんだよね」


平然とした口調で言うが、僕はあの大きさの剣型を扱っているやつを見たことがない。扱うだけで相当な筋力が必要で、女性にはほぼ無理であり、よしんば振り回せたとしても、遠距離からは移動が鈍いから格好の的になるし、近距離では短剣使いに簡単にやられてしまう。基本的に得物が大きくなるほど扱いにくくなる。


あとは・・・短い実体型が2本と、銃型が2丁。


剣型を扱う者は素早く動けることが必須条件となる。銃撃を交わし、敵の攻撃をかわしながら攻撃を当てていくのだからそれも当然と言える。大剣を抜きにすれば、スタンダードな装備と言えるのだが・・・


そう言えば僕の装備は言っていない、と彼は思い立ち、言おうとすると、


「ああ、優一くんの装備はわかってるよ。どうせ懲りずに遠距離重視よね?昔も今も変わんないんだから」


まただ、彼女は昔、と言う言葉をまた使った。彼の記憶が正しければ、彼女との接点はないはずなのだが。





「おっと、じゃあこの地形じゃ不利か」


B2ブロックにたどり着く。田んぼは青々とした稲が植えられ、背が低く身を隠せるのには向いていない。水田なので水が張っていて、動きづらい。


「格好の的よね・・・開始早々市街地に逃げ込む?」


彼女は水田の奥に見える、市街地を指した。そこまでは500m以上の距離がある。


もちろんそうしなければいけない。こんなところ、見つかってしまえば狙ってくださいと言っているようなものだ。

「そうしたいんですけど・・・」


鈴支那は言い淀んだ。もしかしたら彼女はこのブロックの恐ろしさを知らないのか?だからこうも平然としていられるのか?

すると、模擬戦開幕の汽笛がなった。耳障りな音が水田に響き渡る。


「これ、開始の合図ね。それじゃあ行きましょう」


彼女は歩き出した。あぜ道に沿って、一歩踏み出し、二歩目を出そうとした瞬間、目の端に青い光線が映る。


「如月さん!」


彼女の腕を引っ張って、自分の方に抱き寄せる。そのギリギリを、青い光線が通過した。


彼はスコープを取り出し、その方向を見る。しかし、撃ってきたものはすでにいない。もう移動した後のようだ。


くそっ・・・やっぱり狙われるか・・・


「如月さん、すぐにここから離れて・・・」


そう言おうとした途端、また何発か光線が彼女を掠めた。如月はなんとかそれを避けている。


「まだ開始10秒もたってないじゃない。何で狙われるの?」


そう思うのも当然だ。普通、敵が現れた位置は目視で確認しなければ見つけることはできないはず。だが、これは授業だ。実戦ではない。


フィールドが変化するわけでも、ましてや、はじめに生徒が配置される場所もだいたい決まっている。何度もやっていたら、だいたいこの辺りに最初に現れると言うのがわかってしまう。


そして鈴支那と如月が配置された場所は、市街地からの狙撃も可能で、周りに障害物も少なく、さらに田んぼだから足場も悪く移動しにくいと言う、まさに狙撃してくださいと言わんばかりの場所。


そこに生徒が配置されていたらラッキー。1発当ててポイントゲットだぜ、と言うわけだ。


こんな時、僕は何もしない。ここに配置されたら十中八九やられるのだ。抵抗するだけ無駄だと言うこと。


「如月さん、ここに配置されたらまず勝てません。おとなしく負けて・・・」


「いやだ、絶対に嫌だ!優一くんのその諦めグセ、大っ嫌い!」


突然の口調の変化に、たじろぐ鈴支那。如月は腰に差した二本の実体剣を取り出す。青白い光が、白い刀剣に浮かび上がる。


「私が優一くんを市街地まで送る。絶対に、当てさせない」


豹変した如月。その瞳は決意と、揺るぎない何かに満ちている。自信ではない、と鈴支那は思った。これは気合いだ。全力で成し遂げるという圧倒的な気合い。


「私の後についてきて。絶対に離れないで」


そういった後、彼女は市街地に向かって全力で走り出す。俺は一瞬、ぽかんとしてその後ろ姿を見ていたが、彼女のすぐ近くを青い光線がかすめたのを見て、走り出した。


「如月さん!そんな一直線に向かったら・・・」


格好の的だ。そう叫ぶ前に、彼女の頭に向かって光線が放たれる。

模擬戦で使われる光線は通常よりも大幅に威力を落としており、たとえ皮膚に当たろうと、火傷程度で済む。しかしそれでも火傷はするのだ。


俺は彼女をかばおうと、手を伸ばす。しかし、あと数センチ、足りない・・・


すると如月は、短剣を顔の高さまで持ち上げ、光線が当たる直前で振り下げた。


青い光線が曲がり、地面に当たる。水田の水がジュ、という音を立てる。


「・・・な」


まさか、光線を弾いたっていうのか?


その現実を鈴支那が理解する前に、続く2発の光線を彼女は続けざまに弾き飛ばした。


信じられない反射神経と運動能力だった。狙撃銃の光線は慣れればある程度認識できる速度ではある。しかし、そこに剣を合わせてタイミングよく弾き飛ばすなど、ほぼ不可能に近い。


だが、現実はその事実を突きつけてくる。


「さぁ、行こう優一くん」


ゾッとした。こちらをくるりと振り返り、手を振ったのだ。狙われ続けているというのに、何をしてるんだ?

だが心配をよそに彼女はひらりと体を反転させると、向かってきた青い光を弾き飛ばした。





背後から彼女の姿を見つめるのは、心臓に悪すぎた。


いつ当たるかわからない攻撃。ギリギリの防御をする如月。それに鈴支那に当たる分の攻撃まで防いでいるのだ。


・・・あれだけの技術があれば、わざわざ僕を連れて行かなくても・・・


鈴支那の中に、劣等感が生まれ始める。あんな芸当ができるのだから、鈴支那を連れている理由がない。


狙撃者とも渡り合える能力があるのなら、僕を連れずとも、素早く市街地に行き、スナイパーを倒せばいいのだ。彼女に近づかれれば、何をしても勝てっこない。


「優一くん」


如月は前を走りながら目配せする。武器を持った手で、指を二本たて、目元に持っていく。


どこの少女ヒーローだ?と呆れたが、俺の手は勝手にスコープに伸びていた。そしてスコープを覗いて、前方を見た。


そこまでしてやっと自分が何をしたのか理解する。


僕は・・・スコープを覗くなんてこと考えていなかったはずだ。なのに、なんで・・・


一瞬彼女が超能力か何かを使ったのかと考えた。だが、それを塾考する前にスコープから得られた情報が頭を支配する。


スナイパーが出てきている?


スナイパーは通常、高い建物などに身を潜め、標的を不意打ちする役割だ。敵に発見されると、射線上から逃げられるだけで攻撃できず、逆に逃げ道がなくなり、剣型のやつの、格好の攻撃対象となる

だからスナイパーはできるだけ身を潜め、攻撃の瞬間だけ出てくる。そして狙撃後は速やかに移動、もしくは隠れるということを授業でも習っている。

なのに今撃ってきているやつは、身を乗り出して、なんとか如月に攻撃を当てようと必死になっている。


僕のことなどまるでいるものと思っていない・・・


すぐに鈴支那は行動に移した。背中に背負った大きなスナイパーライフル。R.I.RデバイスゾーンL30と名付けられたこの銃は、R.I.Rデバイスのスナイパーラフルの中で、最も高い精密さを持つ。


しゃがみこみ、狙いを定める。スコープから覗く相手の顔。かなりはっきり見える。そうか・・・もうここまで接近しているのか・・・


いつの間にか市街地まで200mもない。スナイパーからの距離もおそらく同じくらい。やはり俺のことは見えていないらしい。


俺は迷わず、トリガーを引いた。反動はほとんどない。通常の銃弾と違い放物線を描くこともない。スコープの奥でスナイパーが額を押さえているのが見えた。威力を押さえているとはいえ、火傷程度はするだろう。そして、頭や腹部など、致命傷となる部位に打たれた場合、撃墜となる。


「お〜さっすが〜。相変わらずの命中力」


如月が笑顔を浮かべながら、鈴支那の方に近づいてくる。


「役に立ってないなんて、そんなこと思わないでいいの。優一くんはこうやってやり遂げられるんだから」


彼女の言葉は、まるですべてを見透かしているよう。彼のことを何もかも理解しているようだった。


如月は両手に持った実体剣をみせる。刃がボロボロで、今にも砕け散ってしまいそう。


「多分あそこで狙撃してくれなきゃ、私一人じゃあ辿り着けなかった。だから優一くんは強いし頑張ってるの」


彼女の言葉は意味不明だった。彼は別に弱音は一言も発していないはずだ。なのに、心を読んだかのように・・・いや、心の中で意識して思ってもいない。いつも思い続けているせいで、感じ取ることもできなくなったような感情だ。


「・・・ありがとうございます」


この意味不明な会話。彼も理解できていない。だが自然と口からこぼれてきた。すると彼女はまた笑って、


「じゃあ今度は市街地戦ね。お互い、頑張りましょ」





市街地。住宅街、ビル街に分かれており、中心のビル街の周りを円を描くように住宅街が並んでいる。また、住宅街にもポツンポツンと高い建物がある。


今回のフィールドの中で最も隠れ場所が多く、高低差が大きいステージだ。当然、多くの生徒がここに集まる。


鈴支那は中心のビル街の一つに隠れていた。屋上から周囲を警戒しつつ、地上での戦いを見守る。このフィールドではスナイパーは高い建物から狙撃。アタッカーは地上での白兵戦という風になる。


スコープから覗く景色。地上では乱戦が繰り広げられていた。


六人。如月が相対している人数だ。バトルロワイヤルなので正確には六人同時というわけではない。しかしどうにも、彼女を先に倒そうと結託している動きをしていた。無論そんな示し合わせはしていないのだろうが。


あれだと、目立つに決まっているか・・・


彼女の身の丈を超える巨大な大剣。青い光が剣を纏い、雄々しく輝いている。


そしてそれを支える如月は、とてもそれを持っていられるとは思えない細い腕だった。もしかしたら押しつぶされてしまうのではないかと思ってしまう。


彼はスコープから目を離した。それでも彼女の戦いは目立っていた。あの大剣が目立ちすぎるのだ。


彼女の戦いは、鬼のようだった。いや、悪魔といった方が正しいのか、それぐらいおぞましい。


戦っている相手はどれも、短剣やマグナムを持った軽装備型。素早い動きで格闘戦に持ち込むタイプだ。


なのにどうして、それよりはるかに大きな得物を持った彼女の方が早く動けるのか。


複数から波状攻撃に会う彼女。普通一つの方向を防いだら、反対側には対処が間に合わないはずなのだ。だが彼女はいとも簡単に攻撃を防いでいる。


短剣を二本持った二刀流。一つの攻撃を防いでもまた次の攻撃がすぐさまやってくる。彼女はそれを、次の攻撃が来る前に大剣の重量を用いて突き飛ばし、次の攻撃をさせない。そしてすきあらば、追撃を加える。


マグナムを持った中距離戦闘タイプに対してはシンプルに立ち回っている。大剣を盾にして銃弾をしのいだり、持ち前の身体能力でいとも簡単に避ける。そして剣型にしては長いリーチで、次々となぎ倒していく。


彼が再びスコープを覗いた時には、新たな敵と戦っていた。というか、一人で無双していないか?三国志の英雄も真っ青だぞあれ。


それでも、戦っている相手だってバカじゃない。何度も動きを見ていれば、だんだんと慣れて来る。彼らだって、今までモブとして倒されるために練習を積み重ねていたわけではない。


大ぶりな攻撃は当然、隙も大きい。如月だってそれがわかっているからそれを補う動きをしている。


だからといって弱点が完全に埋まるわけではない。さらに、大きな得物だからこそ、動きのレパートリーが少ない。短剣やマグナムは、体の動きや手の位置、切り上げる方向や撃つ方向など自由自在に動くことができる。一方で大剣は切り上げることはほとんど不可能に近いし、振り回すか叩き潰すかぐらいしかない。もちろん細かい動きはできるのだが・・・



だんだんと動きがわかってきた。如月の動きだ。まるで彼女の考えがわかるように。


鈴支那は次の彼女の動きから攻撃を受けやすいポイントを推量し狙撃。如月の動きに気を取られていたので、こちらには気づかれていない。突然狙撃されてさぞ驚いているだろう。



そうこうしていくうちに時間がきた。甲高い終了の合図とともに、皆武器をしまう。


鈴支那もスナイパーのセーフティーを入れ、背中にしまい直す。ビルから降りて彼女の元へと行こうと思っていたが、やめた。


彼女の周りにたくさんの人が集まっているからだ。あれだけの戦いっぷりをしたのだから、それも当然だろう。なぜ今まであんな子がクラスにいるということに気づかなかったのか不思議だ。


彼女は笑顔で対応している。質問責めに対しても嫌な顔一つしていない。


すると一瞬だけ僕と目があった。かなり遠くだから、顔がこっちを向いたとしか認識できていないけど。


それでも彼女は笑っていた。手を振って、笑顔を向けている。僕はなんとなく懐かしい気持ちに囚われた。こんなことが前にもあったような気がした。だが、僕はなんとなくその気持ちが不必要なものに感じた。なんだろうか、開けてはいけないような記憶というか・・・よくわからない。


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