第十五話 襲撃と戦車
通話ボタンを押すと、すぐさま佐藤が話してきた。
『もしもし優一!お前無・・・』
『聞こえる優一くん!?怪我してない?!』
佐藤の声を遮る女性の声。それを聞いて、安堵のため息をつく。よかった・・・生きてた・・・
「こっちは・・・多分大丈夫。ルシアニウムも倒したし怪我も・・・」
そう思って、自分の状態を確認・・・・・・
ケータイを取り落としそうになる。確か背骨が壊されて、動けないはず。なのにどうして動ける?どうしてきちんと立っていられる?
『優一くん?どうしたの』
「いや、大丈夫。そっちは?」
『佐藤くんたちが助けてくれたの。クラスのみんなも一緒。みんなで一斉に攻撃して、この辺りのルシアニウムは全部倒しちゃった!』
それをきいて、ホッと一息をつく。
『おい聞け優一。とりあえず俺たちと合流だ。お前がいるっていうビルから3ブロック東へ行った場所。そこにバリケードを築いてる。今軍と合同でこの周囲をぐるっと囲もうとしてるから、お前も早く来い!』
「・・・わかった」
『それとケータイはつないでおけ。こっちまでナビする』
「りょーかい。・・・柏木さん」
彼女も連れて行かないと。一体何があってどうなっているのかもわからないが、彼女も攻撃を受ける対象であるはずなのだから。
しかしそこに彼女の姿はなかった。
『優一?』
「いや、さっき柏木さんがいて・・・」
『柏木・・・そ、そんなわけねぇだろ!あいつがいるわけがない!』
その声は幾分と信用できないくらいどもった声だった。しかしそれを考えている余裕がないのも事実。
考えることが多すぎる。とにかく今は生き残ることを最優先に考えないといけない。柏木さんは・・・もし幻影だったらそれでいいし、それに、多分彼女は僕より強い。それなら探す必要もないのではないか。
カラン、と右腕に突き刺さった破片を落とす。痛みはない。もしかしたらあの注射はモルヒネか何かだったのだろうか。
階段を駆け下りる。頭が冴えている。すっきりしている。覚せい剤か何かなのかもしれない。だとすれば依存性がかなり怖いが・・・
いや考えない。やめよう。これ以上考え事を増やしたくはない。
『ビルを出たら向かいの建物を迂回して東へ』
「それだと遠回りじゃないか?」
『いいから聞けって。奴らが一番少ない場所を言ってんだから』
佐藤の言葉を信じることにした。建物はあの芋虫が落ちて着たときに破壊されたのか、看板がボロボロで、何かのテナントだったということだけがわかる。しかしそれ以上のことはわからない。
『建物を超えたブロックの先は既に俺たちが除去した。多分大丈夫だろうと思うが用心しろよ』
佐藤のいうとおり、その先には大量の死臭が漂っていた。どれもこれもルシアニウムの遺体。よく短時間でこれだけの数を殲滅できたと思う。クラスの力をあわせるとこんなに強かったのか。
『これで終わってるとか思うなよ。俺たちはこっちの一番ルシアニウムの数が少ない東ブロックをおさえるので精一杯だったんだ。他の方角の状況はわからない』
佐藤の言葉を聞きながら道路を進む。やはりルシアニウムは一体もいない。佐藤が選んだルートは完璧だった、と思うと楽なのだけれど。
考えたくないと思っているのに、人は考えてしまうものなのかもしれない。疑り深く鳴っているのかもしれない。どうしてここまでルシアニウムがいない?
たとえ佐藤たちが殲滅できていたとしても、ルシアニウムたちが人間を目指して移動しているのなら、佐藤たちを攻撃して言ってもいいはずだ。なのに、こっちにいる区画だけ、敵が全くいない。おかしい。何かに誘導されている気しかしない。
そしてこの予感は、僕の予感は悪い方向にだけ当たってしまった。
ジャリ、とガラスの破片が足の裏で砕ける。
立ち止まった先にいるのは、忘れもしない。あの河川敷で、如月さんを助けながらなんとか逃げ果せた相手。
チーターと如月さんが命名した。その意味はチーターみたいに素早いこと。そして、チートを使ってるみたいに桁違いの強さだということ。
チーターが笑った。それに既視感を覚えたのは、多分以前の戦いで見たからだろう。
両手で銃を構え、トリガーを引く。まっすぐに伸びる弾丸は、チーターを捉えていたが、すり抜けた。
チーターの姿が消える。普通、人の死角としてもっとも単純な答えは、背後だ。だから不意打ちを与える機会があるのなら、背後からの奇襲に限る。それを理解しているから、
僕は振り返りもせず、手だけ捻って背後に銃を撃つ。感触はない。でも何かが現れ、それが再び消えた気配がある。
僕は走り出した。西に向かう。仲間の元へこんなやばいやつを連れて行くわけには行かない。ひょっとしたらクラス全員の力を合わせれば、こいつを倒すことができるかもしれない。でもひょっとしたら、クラス全員がこいつにやられる可能性だって浮上するわけだ。そんなことをさせるわけには行かない。
いつどこから襲ってくるかもわからない。そんな恐怖は、ただ執拗に、音がした方向を攻撃するしかなかった。少しのガラスの音。少しの鳥の声。少しのネズミの足音。そんな一つ一つの音を、それがなんの音か考える前に、音と認識した瞬間に攻撃を加えている。
チーターを攻撃しているかも確認できない。しかし撃ち続けるしかない。少しでも手を抜けば、途端に首をとられるかもしれないからだ。
そして如月さんが言っていた、あの空間移動には、移動場所になんらかの制限がある可能性があると。それが確かなら、できるだけ移動して行くしかない。そうすればきっと能力射程範囲外に入ることができるかもしれない。
『おいどうした優一!返事しろ!』
ケータイが激しく振動する。息ができない。空気を肺から吐き出した瞬間、首をかかれそうな気がしてしょうがない。
「ち、」
少なくとも今の状況だけ伝えようとしたとき、目の前にチーターが現れる。深紅の甲殻が変形した、鋭い刃が迫る。
首元を強引に引いて、斬撃を躱す。冷たい感触が頬をわずかに撫でる。
チーターのもう一つの刃が迫る。さっきまで僕は走っていた。その勢いが吸い込まれるように僕の体を冷たい斬撃に誘う。
これは、避けきれない・・・!
腹部に深紅が突き刺さる。その赤よりももっと赤い液体が漏れ出た。だが、まだ痛みはない。その痛みが来る前に、拳銃をチーターの眉間に合わせ、撃ち抜いた。
だが、チーターの姿は揺らめき、消失する。代わりに、真っ赤な鮮血が地面に飛び散った。
『おい優一!』
「ちょっと黙ってくれ・・・今チーターと・・・」
また背後に気配を感じ、だが痛みで体がろくに動かないから、重力に任せて前に倒れ込んだ。体をひねって背後に銃撃をする。痛みが激しくなり、傷口がさらに開いた気がした。
チーターの姿はない。舌打ちする余裕もなく、立ち上がり、走り出す。
うまく言えないが、痛みはあるけど、それが他人の痛みのように感じた。鮮明に周囲の状況が理解できるのに、痛覚だけが鈍っているみたい。
また、近くに気配を感じた。ケータイをその方向に投げ捨て、もう一つの拳銃を抜く。ケータイの言葉を聞いている余裕なんかない。今はとにかく距離を取るしかない。
連続で銃撃を放ち、その隙に路地裏に逃げ込む。さらにそこから、壁が破壊されたビルの中に駆け込んだ。明かりが消えた建物の中は、昼だというのに薄暗く、人がいたであろう感触が見て取れた。
ピチャリと、液体を踏む。オフィスに備え付けられたコーヒーメーカが壊れ、茶色い液体が散らばっていた。
オフィスを出て、廊下を突き進む。チーターが追って来る様子はない。どこかの部屋に逃げ込んで、立ち止まった。
ふらふらと、体から力が抜ける。あの時の薬の影響なのか、目だけはいやに冴えている。
会議室、のようだ。パイプ椅子が並び、中央に四角形に机が並んでいる。倒れこむように、パイプ椅子に座り込む。
そういえば、こんな閉鎖空間での戦闘方法を習ってはいなかった。いや、習っていたかもしれないが、実戦でそれを活用したことなどない。僕たちが担当するのは基本的にルシアニウムの殲滅戦だからだ。
腹部の強烈な痛みに、お腹を抑える。我慢できないわけではない。だが、血が流れ出ているのがわかる。急いで治療しないと、失血死なんて可能性も十分ある。
くそっ、こんなところで・・・
上着を脱いで、見よう見まねで、腹に巻きつける。こんなことで押さえつけられるとは思えないが、ないよりは幾分かはマシだろう。
もう少し休んで行きたいな、と思っていたのだが・・・その時、廊下の奥で足音が聞こえた。
味方の可能性はない・・・か。いよいよ腹をくくるしかない、な。
銃を構える。腹の痛みで、腕がうまく上がらない。チーターに一撃を加える。そんなことが可能なのか?さっきもほとんど刺し違えたような攻撃をしかけたけど、結局当てることはできなかった。やはり僕は接近戦は苦手すぎる。かと言って、狙撃であいつを倒せるのかどうかとなると疑問があるが。
足音が近づいてきた。その時、多少の違和感が頭の中をよぎる。
何か違う。あの音はちがう。
歩き方というか、足音の感覚というか、色々と違う。
チーターはもっと素早い動きをするはずだ。だから足音も軽くて、スタスタとくる。
けどこの音は違う。もっと重くて、ゆっくりで、大きな、人間の大きさじゃない何かが・・・
足音が止まった。扉が開くかと思った。
扉は開かなかった。その代わりに、轟音とおともに吹っ飛んだ。
とんでもない風圧が体を嬲り、椅子ごと吹き飛ばされる。中をまい、そのまま壁に叩きつけられる。
粉塵が舞う。狭い空間の中で、それはなかなかはれてくれなかった。だが、その霞む視界の中で、視界の中に破壊を行使した姿が映し出される。
最初に思ったこと、それは、デカイ、ということだ。多分四メートル近くはあるんじゃないだろうか。縦にも出かければ横にもでかい。筋骨隆々の、パンパンの肌。ピンク色どころかどす黒い。顔には鎧のようなものをつけていて、表情を見ることは叶わない。そして右腕からは、多分扉を破壊した武器。巨大な斧のようなものがあった。
その怪物は首を振って、何かを探しているようだ。もしかして僕の姿が見えていないのかも知れない。視力が良くないのか・・・?
体は、なんとか動く。隙をついて逃げ切れないか?奴が開けた大きな穴は、隠れながら通るのにも十分に思える。行くなら今しかない。粉塵が舞っている間になんとか。
そっと体を起こし、足音を極力立てないようにして、四つん這いで動き始める。ゆっくり、ゆっくり。かなり近づいてきた。こいつの大きさに圧倒されそうになる。こんなのまともにやって敵う相手ではない。
それこそ重戦車ばりの兵器を投入しなければ倒すことはできないだろう。
そのそばを通る時、本当にちびりそうになっていた。気づかれた瞬間、あの斧で蟻を潰すより簡単に僕を叩き潰するだろう。
叩き壊された壁。確かにあの巨体では扉を入ることなどできはしなかっただろう。だから破壊した。
そろり、そろり、と廊下に出て、奴から距離を取る。足は、動く。傷口が開いて血が落ちた。
その瞬間、怪物がこっちを向いた。ギョロリとした大きな目が僕を射抜く。
その瞬間、全速力で走り出していた。傷口が痛むとか、血が流れすぎて貧血でフラフラするとか、そんなことは御構い無しに。あの時柏木から打たれた注射のせいか、それとも単にアドレナリンが大量に出ているせいか。それはわからないがとにかく走り続けることはできた。
怪物はあの巨体だ。素早く動くことなどできそうにないし、第一できたとしても、狭い廊下を走ろうと思ったら、壁に引っかかりながら移動するしかない。なら僕に追いつくことなどできるはずがないのに、
背後から猛スピードで迫ってくる足音。振り返れば、なんとあの怪物が、四足歩行で迫ってきていた。
嘘だろ!?
声に出ない叫び声は喉元で掠れた。明らかに僕の足よりも早い。追いつかれる。無我夢中で、銃撃を頭に打ち込む。結果は火を見るより明らか。というか狙撃銃でさえ、外殻を傷つけられるかわからない。
追いつかれる・・・。今日2度目の死を覚悟した時だった。壁が勢いよく壊された。目の前の怪物ではない。僕の背後から、とてつもなくでかい鉄の塊が降ってきたのだ。
それは怪物に向かって体当たりし、キャタピラを、轟音を立てて逆回転させながら、僕の方に近づいてきた。バコン!という音を立てて、その巨大な戦車の上部が開く。
「優一くん!こっち!」
彼女を見て、これほど嬉しいと思った瞬間はなかった。
ガラガラ、と音を立てて、怪物が立ち上がろうとしている。
如月さんは差し出した手を取り、車体を登り戦車の中へと乗り込む。バコン!という音が再びして、蓋が閉じられた。
「大丈夫だった優一くん!?怪我はない?頭は正常?私が誰かわかる?」
肩を揺さぶられる。頭がグラングラント揺れるが、なんとか声を上げる。
「大丈夫・・・じゃないかもしれませんけど・・・とりあえず今は・・・」
腹部の治療を、という前に、何かが放られた。
「とりあえずそれ飲んどけ。怪我の部分を止血する最新の薬だ」
この戦車の操縦席。いたるところにテレビ画面があり、四方の情報が見て取れる場所に、佐藤が座っていた。眼鏡をかけている。
「サンキュー。・・・こんな薬きいたことないんだけど・・・」
何かやばいやつかもしれない。そうは思ったが、佐藤が言っているんだから信用するしかない。錠剤タイプのそれを飲み込む。
「とりあえず飛ばすぞ!舌噛むなよ!」
佐藤が思いっきりレバーを引いた。けたたましい音を立てて揺れ動く。
「・・・何があったの?」
如月さんが尋ねてくる。その瞳は涙の跡が消え切れていなかった。
「ケータイから急に声が聞こえなくなって、めちゃくちゃ心配したんだから。いくら呼びかけたって返事しないし、なんの情報もわからなくて・・・」
「如月さん、優一に話させてやれよ」
モニターを見ながら口を挟む佐藤。
「・・・ごめん」
申し訳なさそうに返事をする如月さん。彼女の態度も、佐藤の態度も、少しよそよそしいというか、変な距離があるように感じた。
如月さんが黙って僕の方を見てきたので、僕は少し緊張しながら答えた。
「チーターが現れたんです。戦える状況じゃなくて、必死に逃げたんですが・・・」
チーター、とその名を聞いて、如月さんは震え上がった。一方佐藤は、あ、何言ってんだ?と尋ねてくる。
「細かい話は置いといて、今はめっちゃ強いルシアニウムだと思ってくれたらいい」
如月さんは動揺しながらも答えてくれた。
「だがあそこにいたあいつは・・・あれがチーター?」
「いいえ。チーターはあんなデカブツとはワケが違う。チーターはもっと小さくて、速くて、やばいやつ」
「じゃああれは一体・・・」
「・・・ま、大方プラスミドが宿主に取り付いて、異常改変しちゃったんでしょうね。大丈夫よ、あんなのでかいだけだし」
彼女の表情は、チーターを語るときはワケが違うくらい、余裕そうだった。自分たちの勝利を確信しているかのよう。
「・・・でかいだけって認識はよしたほうがいいと思うぜ」
佐藤が呟いた。冷や汗をかきながら、テレビ画面を見る。そこには、四つん這いで追いすがってくるあの怪物の姿があった。
「おいおい、この戦車50kmは出てんだが・・・」
テレビ画面からの情報によれば、現在道路をひたすら突き進んでいるらしい。どこに向かっているのか知らないが、あまり遠くへはいけないはず。人がまだ避難していない場所に行くわけにもいかない。
「何ってんのよ。日本軍なら兵器の一つや二つ持ってるでしょう?避難は済んでるはずだろうし、この辺り一体吹き飛ばしちゃえばいいのよ」
事も無げに言い切る。確かにそれは一番有効な攻撃方法なのかもしれない。もちろん日本軍にはそれだけの兵器が存在する。古来から存在する最強兵器の一つ、核兵器だってあるし、R.I.Rデバイスの原型、すなわち軽量化する以前の超重量固定兵器だってある。
「そんな簡単にいかないんですよ・・・」
ルシアニウムを殲滅するために今までもそのような兵器は使われてきた。しかしそれは、例えば海上であったり、極端に人口の少ない旧福島県以北などだ。今回のような、人が住んでいて、権力や財産といったものが絡む時、使用判断は極端に遅れる。
使用許可が遅れる前に、多分この戦車の燃料は尽きてしまい、あれに追いつかれるだろう。
「確かにそれはそうかもしれないが・・・くそっ、追いつかれる。通常兵器じゃどうしようもないし・・・優一、迎撃できるか?」
「・・・やってみる」
できないとは言えない。あんなやつが現れたことなどないのだ。攻撃がどこまで通用するか試しておく必要がある。
「優一くん・・・」
心配げな如月さんの声が聞こえてくる。
何か反応したいと思ったけど何も言葉が出てこなかった。
上の扉を開く。風圧の音が耳をなぶる。
侵攻方向と逆、背中に風を受ける形で、僕は敵を見る。やはり大きい。というか、さっき見た時よりも大きくなっているような気がする。もちろんそんなことはないはずなんだけど。
狙撃銃を構える。巨大なゴリラが四足歩行で迫ってきているようだ。巨体が地面を叩くたびに、地鳴りが響き渡る。
甲殻はとてつもなく硬そうだった。多分狙撃銃でも傷つけられない。そう判断し、顔にある、目のような部分を撃った。そ子だけピンク色が濃くなっており、目のような場所だと判断したからだ。
だが、青い光線は水鉄砲のように弾かれた。どんな硬い生物でも目だけは弱点、っていうのは間違いのようだった。
あと狙える場所といえば関節・・・だけどこの位置からじゃ狙うことができない。
「くそっ!ダメみたいだ」
車内に戻って伝える。佐藤は舌打ちして、ハンドルを切った。
「このままじゃ隔離地域の外に出ちまう・・・ジリ貧かよくそっ」
こちらの攻撃は効かない。そして通用するかもしれない攻撃は、しようができない。
「でもそれでも・・・このまま逃げ続けて部隊の配置が整えば、一斉射撃で倒せるかもしれない。いくら硬いからといっても、数百発の集団狙撃なら」
「いや、燃料が足りない」
佐藤はメーターを指した。Eの文字まで半分を切っている。
「このデカブツを最大速力で連続運転なんてしてしまったらそりゃ燃料だって尽きるって話だ」
佐藤はやれやれと息を吐いた。如月さんも、つられて。
だが二人とも戦いに絶望したわけではなさそうだった。むしろまだ余裕を感じているような気さえした。それがなんだか頼りないようでいて、少し安心できた。
尋ねれば、佐藤も如月さんも少し考えてから、
「経験上、本当にやばいやつってのはちっちゃいやつだから」
「それなんだよな。ちっこいやつってのはなぜかとんでもない時がある。それに比べてあれはどうだ?的はでかい。早いといっても戦車レベル。パワーも図体相応のものでしかない。問題ないさ。対応策がないだけでな」
それは結構な問題ではないのか、と疑問に思ったが、口を挟まないでおいた。
「それならこれからどうするんだよ。対応策がないなら、燃料切れで追いつかれて、僕たち死ぬぞ」
「そんな顔するなって。俺だって色々考えてるんだよ。例えば、こいつらルシアニウムはある程度まとまった人間を襲う性質がある。巨大になればなるほどな。なら、人が多い場所におびき寄せて一網打尽して・・・」
「「それはだめ」」
僕と如月さんが同時に答えていた。
「そんなことしたら、私佐藤くんのこと軽蔑するから」
大嫌いとか、そういう言葉じゃなくて。もっと強い言葉。正直、真正面から言われるとかなりきつい。美少女ならなおさら、そして好きな人から言われれば効果抜群。
「・・・じょ、冗談だよ。冗談。冗談に決まってるじゃねぇか」
佐藤は慌てて否定する。多分僕も、佐藤が冗談で言っているのだとしたら軽蔑していたかもしれない。
そんなことをすれば、小鳥の家に被害が行くかもしれない。そんなことはさせるわけにはいかない。
「大丈夫だ。俺だって何もせずに逃げ回ってるわけじゃない。なぁ、矢部」
そう言って、佐藤は無線に向かって話しかけた。
そうだ、確かクラスの人がやってきているはずだ。彼らは確かバリケードを作っているはず。
『こっちは配備完了。そっちの動きも補足。いつでもいいわ』
キビキビした女性の声が無線から聞こえてきた。彼女はクラスのナンバー2のような存在。女子の中でリーダーのようなものだ
「さぁて、いっちょおっぱじめますか」




