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青色はぐれ星  作者: Full moon
第1章
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第十二話 ケータイと恐怖




かつて並木道であった場所を歩く。整備する者が消えたため、荒れ放題となった街路樹。枝葉好き勝手伸び、根っこはコンクリートを突き破って外に現れている。前方を歩く二人と、一歩引いて歩く僕。二人はもう手は繋いでいない。でも、佐藤が必死で話題を振り、それに如月さんは笑顔で答えている。僕では、あんな風に喋ることはできない。話を展開するのも下手くそだし、そうしようとも思わない。

コミュ障が少し背伸びをしたところでたかがしれている。現実なんてそんなものだ。モテない、彼女が欲しい、とだけ呟く男は、たいてい努力なんてしていない。彼らはただ単に、彼女がいるっていうステータスが欲しいだけだ。あればいいな、と思える装飾品。そんな感じに思っている人に、それは多分僕も含めて、一生一人の人を幸せにする資格なんてないのかもしれない。


バザーは思ったよりも人で賑わっていた。広いグランドに、たくさんのブルーシートと商品が並ぶ。


他国との連携が破壊されてから、経済が崩れるのは、そう時間がかかることではなかった。特に重要なのは食料品。のちの食の革命と呼ばれる技術革新により、食料品についてだけはなんとか持ちこたえたが、それ以外のものは、軒並み値が高騰していった。そして、今や物は新しく買う者ではなく、使い回すものとなっている。


たくさんの中古品。それはある意味、江戸時代のように、非常に省エネで、ゴミを出さず、リユースとリサイクルが最も行われていた時代に逆行したように思える。


「そういえば、バザーに何を買いにこようとしていたの?」

如月さんが問うて来る。目的がなければ来る必要はない。もちろん目的があったのだが。

再び顔を紅葉のようにする佐藤。

頼まれていた内容はこうだ。もうすぐ如月さんのた

「如月さんの誕生日のために、プレゼントを・・・」

佐藤は言い切った。さすがにこれは如月さんも不意打ちだったのか、ふぇ?と間の抜けた声が出る。

「・・・ああ、そうか、誕生日。そういえばそんなの設定したな・・・」

つぶやいた声は佐藤には聞こえていなかったようだ。ちなみに佐藤がどうやって誕生日を調べたかと言うと、職員室に忍び込んで、だ。褒められた方法ではないし、ていうかそうまでして一人の女性の誕生日を調べようとするとか狂気の沙汰である。起訴されても、多分勝てないと思う。しかし如月さんはそんなことを気にしているようではなかった。と言うかそっちに考えが至らなかったようだ。それくらい、彼女にとって誕生日とは重要ではないと言うことか。

「気持ちは嬉しいんだけど・・・でも、なんか悪い気がするし・・・」

「いや、俺が勝手にしてるだけのことだから!だから如月さんは気にせず受け取ってくれれば良い!」

佐藤があたふたと言葉を紡ぐ。ここで如月さんにいらない、と言われてしまえば、ここに来た理由もなくなる。それはまずい。

それでも微妙そうな顔をしている如月さんと佐藤の間にちょっとした沈黙が生まれる。完全に部外者になった僕は何か口を挟むべきなのだろうか、と考える。

結論、口を挟んだとしても、多分僕が何か言ったところで、二人の間が埋まるわけではない。なら喋らない方が良いだろう、と。


目線をそらした時、悲鳴が上がった。


「さっさと金を出せ!早くしろ!!」

バザーの一角。拳銃を取り出した男二人が、バザーの店員に向かって銃を突きつけている。手には大きなバッグ。これに詰めろ!とバッグを放る。

残念ながら、残念かどうかは置いといて、こんな光景は珍しいことではなかった。警察の形骸化により、いくら自治組織と軍隊が治安維持に力を注いでも、カバーできるのに限界がある。確かに警備が厳重な店を狙うよりも、こう言ったところから金を盗むほうが、圧倒的に安全ではある。


あまり関わりたくない。と言うのが正直な感想だった。よく、果穂などから困っている人を放って置けない性格とか言われることがあるけどそれは違う。小鳥の家の住人を助けるのはそれが家族だからだ。友達を助けるのはそれが友達だから。迷子の子供を助けるのは、それが子供だからだ。だけど今目の前にあるのは、知らない強盗が、知らない誰かを困らせている、くらいにしか映らない。強盗はともかく、店員の方もそれなりに覚悟をして店を出しているのだ。それに僕が何かを干渉する意味はあまりない気がする。日和見な態度かもしれない。


「早くしろ!」

強盗の脅しに、金をバッグに入れようとする店員。その時、一発の発砲音。飛び上がった強盗がそっちを見るが、逃げようとする野次馬がいるだけ。いや、聞き間違いなどではない、どこかにいるはずだ、一体どこに・・・と目を凝らして探す強盗。


それは間違いである。人は一つのことに集中している時は、なかなか洞察力が働くものだが、複数のことに対してはとても弱い。だから目をこらす、という行為は、全体を見ているようであって、実はほんの一部分しか見ていない。しかも緊張と焦りで、その視野はかなり狭くなる。

すなわち、過度に接近されても気づかない場合が多い、ということである。


「ごがっ!」

男が真上に吹っ飛ぶ。築き上げられた拳が、強盗の顎を突き上げた。

もう一人の強盗はとっさに銃を向ける。しかし、そこには地面に落下する仲間の姿しかない。

人が四足歩行から二足歩行に変わった時、人は一つの大きな弱点を背負うことになった。それは足である。

四足歩行の時、手足は目線のすぐ近くにあった。だから足への攻撃は対応しやすかった。頭との距離も離れていなかったので、思考と行動の乖離も少なかった。

しかし二足歩行になったことで、足は弱点となった。足を攻撃され負傷すれば、当然動けない。もはやこれだけで、戦いでは負けたも同然だ。しかも人の目線が前を向いた時、どうしても足は死角になる。


強盗に対し足払いをかける。体制を崩した強盗の、銃を持つ左手を極め、銃を離させる。強盗は痛みに顔を歪めながらも、自由な右腕で、ナイフを抜いた。それを佐藤の腕につき耐えようとしたところで、

ボキリ、という音がひびいた。

男は悲鳴をあげた。ナイフを手放す。


だが、それをしたのは佐藤ではなかった。佐藤は極めいていた左腕を離して、右腕のナイフに対応しようとしたのだ。だが、そこに介入した人間がいる。


「佐藤!」

僕と如月さんは佐藤の元へと駆け寄る。一人の男は顎に衝撃をくらい、地面に大の字になって伸びている。一人は片腕を奇妙な方向に曲げ、顔から出血しながら、倒れている。


僕と如月さんは遠くからその光景を見ていた。途中から応援に入ろうともしていたが、その必要性さえなかった。

佐藤は強かった。クラスの中でトップクラスという話は今までたくさん聞いてきていた。しかし、佐藤は実技の方は早々とノルマクリアをしていしまい、その場から離脱してしまう。だから佐藤の戦い方をきちんと見るのはこれが初めてのことだった。

素早く、洗練された動き。多分僕では一生かかっても追いつけない。如月さんの速さに、さらにパワーが重なったような感じだった。


「怪我はない?!」

如月さんが駆け寄る。しかし佐藤は如月さんの方には目もくれず、ある一点を集中して見ていた。


「・・・なんでここにいる」


絞り出したような声が佐藤から出された。その目線の先には、一人の背の低い女の子の姿。茶色い髪のツインテール。低い背丈。ブカブカの上着。小さなスカート。半分閉じかけた眠そうな瞼と、その奥から物怖じしてしまうかのような鋭い眼光が出ている。


その子は佐藤の方を向き、小首を傾げ、キョロキョロと辺りを見回してから、ようやく口をひらいた。

「久しぶり」

袖が長すぎて、ほとんど手が見えていない腕で手を振る。パタパタと、袖が小さな音を立てる。

「そっちの人たちは初めまして?」

佐藤から目線を外し、僕と如月さんを順に見る。不思議な声だと思った。小さな声ではないのに、どこかすぐに壊れてしまいそうな力のない声だった。

反応しようと口を開きかけた時、佐藤が声を発した。

「柏木、俺の質問に答えろって。なんでここにいるんだ?」

佐藤は、柏木と呼ばれたその女の子の肩を掴んで、自分の方に向かせる。いつも女性に対して真摯な佐藤からはあまり考えられない、乱暴な仕草だった。

柏木さんは掴まれた肩を見て、そして佐藤を見て、そして僕たちを見る。

「パパについてきた」

佐藤の様子を見てて、何か深刻な話でもあるのじゃないかと考えていた。しかし返答はとても幼い子供のようで、がっくりきた。

そういえば、見た目からもかなり幼い印象を覚える。僕らよりも下、なのは間違いないと思う。

だが、佐藤は安心した様子をすることもなく、むしろ一層深刻そうな表情になる。口を開き、何かを話そうとした、そしてやめた。

こっちを見た。未だ柏木さんと佐藤の関係性がわからないまま。


サイレンの音が響いた。いくら警察が形骸化したとはいえ、形の上では活動している。役にはあまり立たないと思いながらも、誰かが通報したのだろう。

それはあまり僕たちにとっては良い音ではなかった。そもそも僕たちは軍組織である。それが民間に介入したとなれば、それなりの理由がいる。まぁ、さっきまでの状況は、十分それなりの理由にはいるはずなのだが。

「・・・とにかくずらかるか」

佐藤がめんどくさそうに呟いた。警察に捕まれば、手続きなんかが非常に手間がかかる。その上、腐りきって半ばヤクザ組織になってしまった警察は、ある意味犯罪を誘発する組織に成り果てている。そんなところの厄介になって良いことがあるはずがない。


「如月さんと優一とは別になって行動しようか。俺はこの柏木にちょっと用があるから」

柏木さんの肩をかなり強く握っている。それを痛がる様子もなく、彼女はキョトンとした表情を佐藤に向けている。

「じゃあな、警察に捕まるなんてドジな真似、すんじゃねぇぞ」

佐藤は柏木さんの手を引いて、走り出した。かなり急いでいるようにも感じて、柏木さんはついていけているのか心配になったのだが、そんなことはなかった。


「如月さん、僕たちも・・・・・・如月さん?」

反応が返ってこない。もう一度呼びかけると、僕の存在に初めて気づいたかのように、こっちを向く。

「だ、大丈夫ですか!?顔色が・・・」

顔面蒼白だった。普段は血色のいい肌が、死にかけの病人のように真っ白になっている。

「あ、うん・・・大丈夫・・・平気」

脂汗が滲んだ額を、服の袖で拭う。まるで夏にスポーツをした後のように、地面に水滴が落ちた。

平気なんかじゃない。でも、今は警察もやってきてるし、どこかに逃げないと。

「乗ってください」

かがんで、背中を向ける。

「いや、でも、走れるから・・・」

「早く!」

ちょっと大きな声を出せば、彼女は遠慮がちに背中に体重を預けてきた。人を背中に乗せるはなれている。小鳥の家で、怪我をしたやつとかをよく運んでいた。

この前運んだ、果穂よりもだいぶ重い。・・・いや、多分果穂が軽すぎるだけな気がする。これくらい重い方が、安心できる。


立ち上がり、ちかくの住宅街の通路に入る。狭い道で入り組んでいて、隠れるのにはちょうどいい。奥へと入っていくと、やはり異臭が漂ってくる。あまり衛生上いい場所ではない。


結構奥へ進み、警察のサイレンもあまりしなくなってきた辺りで、立ち止まる。

「もう、大丈夫かな」

半ば独り言のように呟いた。

「うん・・・大丈夫だから、もう下ろして」

すると耳元から返事が来た。多分彼女は、もう下ろしても大丈夫かな、と聞かれたように思ったのかもしれない。

「本当に、大丈夫ですか?」

もう一度尋ねる。

「うん・・・大丈夫。それより・・・恥ずかしいから・・・早く」

彼女のこんな声を聞いたことなかった。なんだか僕の方も恥ずかしくなって来て、そっと背中から降ろす。


「・・・・・・ありがと」

「・・・・・・いえ」

気まずい沈黙が流れた。如月さんって、こんな女の子らしい女の子だったっけ?と記憶を探る。いや、そんなことはない。多分、あれだ。今大量が悪そうだから、それでちょっと心も弱っているとかそんな感じだと思う。


「・・・あの子」

如月さんが呟いた。両手で自分を抱きしめ、視線を下に向けている。

「あの柏木って女の子・・・あの子・・・かなりやばいやつ」

「やばいって・・・」

「殺気、というか、敵意とか悪意とかとも違う。純粋な興味と、私たちをおもちゃを見るみたいな目で見てた・・・」

彼女の言葉の中で一番理解ができなかった。あんな小さな女の子が、そんな目をするだろうか。というか、それに対してどうしてこれほど怖がらなくちゃいけないのか。

「あの子、あの強盗の腕を片手でへし折ってた。優一くん、見えなかった?」

へし折った?どうやって、あの子が?

「その時の意識を私たちにも向けていた。まるで、その首と胴体を切り離したら、どんな声で鳴くのかな、ってむじゃきに考えているみたいで」

彼女の声が徐々に小さくなって消えていった。そんな恐怖、僕は一切感じなかった。でも如月さんは僕なんかよりもずっと強い。つまり、如月さんがそういうってことは、多分そっちの方が正解なんだと思う。そういえば、佐藤もかなり深刻そうな表情をしていた。それはそういうことなのか?あの女の子はそれほど脅威だったのか?あの場で状況を理解していなかったのは僕だけだったのか・・・

自分に少し自信を無くしかけた時、如月さんがこっちを見た。


「ところでさ、優一くん」

その顔はいつもの肌色を取り戻しかけていた。そしていつもみたいに笑う。

「私をおんぶしている時、どうだった?」

「どうって・・・」

瞳がいたずらっぽく光る。

「この際、体重は聞かないんだけど。でもさ・・・その・・・胸とか、足とか、匂いとか、いろいろあるじゃん」

一瞬何を言ってるのかわからなかった。そして何を言っているのか理解した瞬間、顔が一気に赤熱した。

「顔赤いってことは、やっぱ意識してた?どうだった?・・・優一くん的には、私の体の評価は?」

顔を近づけ、小悪魔っぽい表情で上目遣いを仕掛けてくる。笑顔が怖い。

「あはっ、可愛いなぁ。そういう反応はやっぱり男の子みんなするのかな?それとも優一くんだから?」

「わ、わかりません、そんなこと。それより、顔近い・・・」

「ああっと、失礼」

そう言って、一歩下がる如月さん。

「まぁ、あれだ。はっきり言ってくれた方が私はいいかな?あんまり心のうちでしまっていられると、ちょっと辛いかも」

その顔は、本当にいつもの彼女だ。胸をなでおろす。


「でも、この辺りあんな治安悪かったのね。ちょっとびっくりしちゃった」

あれで、ちょっとなのか。と言いたくなったが、堪える。この街で生まれた身だけど、ああいうのは、実を言うと結構あった。現場に遭遇したのも、数回ある。

この辺り、治安はよくも悪くもない場所になっている。学校が近くにあるので、軍の管轄地付近だからかもしれない。それでもああいう手合いのは少なくない。


「・・・佐藤、すごかったですね。あんな強いやつだとは思ってなかった」

「ほんとそれ!多分単純な体術だけなら私なんかよりずっと強いかも。流石に学年2位、実技だけならダントツ1位は伊達じゃないなぁ」

そんな順位だったのか、今まで知らなかった。佐藤にいろいろと頼りにされていた部分もあったのに、僕は彼のことを全然知らない。

「ま、人それぞれ得手不得手があるよ、優一くんだって、狙撃だけだったら右に出るやつなんかいないんじゃない?」

如月さんがフォローしてくれているのがわかる。いろいろと否定の言葉が思い浮かぶけど、そうやって気持ちを推し量ってくれるのは、ちょっと、かなり嬉しかった。

素直にありがとう、と言おうとした時だった。

けたたましい音が鳴り響く。しかもかなり近くでなったものだから、如月さんはかなりびっくりしていた。


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