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人ならざる者

少し歩くと、ティルキスの青い鱗が見えてきた。グレイヴはまだ眠っていた。

「ティルキス!」

うん?あぁ、えーっと。

「アデラよ。」

アデラ、どうしたの?

「頼みがあるんだけど、いいかな。」

いいけど、何かあったの?

「その、友達を助けたくて。ケイリーが、ケイリーの故郷に行けば助けてもらえるって聞いたの。だから、あなたの背中に乗せて欲しい。」

うーん。構わないけど、この黒いドラゴンを見ていなくて大丈夫なの?それに、誰が村を守るの?

「そ、そうよね……。」

ここから歩きでどれくらいかかる?近くに故郷があって、愛馬のマンデルに乗っていったとして、最低でも3日か4日はかかるわ。

ねぇ、どのくらいで戻ってこれる?

「すぐ戻ってくるわ。頼むだけだから。」

あたし用の鞍、ないけど平気?

「すぐだし、多分平気。」

分かった。乗って。

そうして空に飛び立ってしばらくした後、あんなことを言ったのを後悔していた。まぁ、体が大きいから鞍の無い状態で乗るグランツよりかはマシ。

ティルキスは、迷いの森と呼ばれる深い霧に覆われた森に急降下した。地上に降り立ち、辺りを見回す。

ここに来るのは2回目ね。

うちはティルキスから降りると深呼吸をし、メモを読み上げた。

「トゥーラクラファ。」

変わった言葉。ちょっと読みにくい。お願い、助けて。

数分待つと、何人か人影が見えてきた。3、4人いる。あれは本当に人?なんだか不気味。

人らしき影は腕を4本持ち、手首からヴェールのようなヒレが生え、奇妙な枝のような角、鳥の足を持っていた。顔は装飾品であまり見えなかった。槍を手に持ち、うちに向けながらお互いと話をしていた。何を言っているのか分からないけど。会話が終わり、うちの方を向く。

「ねぇお願い!助けて欲しいの!」

うちの声を聞くと、再び会話を始めた。なにか相談してる?彼らから警戒と心配、不安を感じる。すると、1人が霧の中へと消えて行く。

少し待つと、その1人が戻ってきた。別の人を連れてきたようだ。その人が姿を現す。若そうな男性だった。槍を持った他の人と比べ、背は小さく装飾が派手で、角も芸術作品のように複雑にねじ曲がっていた。うちは思わず1歩後ずさった。美しすぎるのか、どこか不気味で恐ろしい。

「あなたは?」

青年の声は女性的でもあり、男性的でもあった。なんだか不思議。

「アデラ。助けて欲しいの。」

彼から疑いの感情を向けられた。

「友達……同じライダーが今にも死にそうで、うちのお兄ちゃんもおかしくなっちゃって。」

「あなた自身が治せばいいのでは?」

「どういうこと?」

「そのままの意味です。あなたならできるはずでしょう?まさかここに入ってこれるとは思ってませんでしたけどね。」

なんだ?妙に話が噛み合わない。うち、何かした?

「そんなの知らないわ!できるなら、とっくにしてる!」

彼はうちを無視してティルキスをじっと見つめた。ティルキスも彼を見ていた。

「……どうやら本当に知らず、助けて欲しいみたいですね。」

「当たり前でしょ。そのために来たんだから。」

「分かりました。直ぐに向かいます。先に戻っていてください。」

「え、ちょっと!」

彼らはあっという間に消えてしまった。

「ティルキス、何かしたの?」

アデラのことを話したの。

「なによ、ドラゴンの言うことは聞くってこと?」

違うみたいだよ。もっと複雑みたい。

「ふーん。まぁいいわ。戻りましょ。」

うちらは村に戻ってくると、驚くべきことに、ちょうどその人が着いていた。

「え?嘘どうやって!?」

「ワープ魔法ですが、かなりリスクが高いんですよね。素人が使うと最悪体がバラバラになります。」

と、苦笑いしながら言った。霧の中で見た雰囲気とは全然違った。丁寧だけど、気さくで陽気な感じがする。だが、やはりうちに対して疑念を抱いている。

「えっと、他の人は?あなたの他にもたくさんいたけど。」

「さっきも言いましたが、バラバラになる可能性があります。安定してできるのはわたくしと長だけ。なのでそのまま持ち場に戻るよう指示しました。それよりも早く参りましょう。」

彼が歩き出すと、病院からケイリーが出てきた。

「ちっ、今回は例外だよ。このゴミクズめ。」

「おや、まだ生きていたんですか。リフェル。」

「生きてちゃ悪いのか?」

「ちょっとちょっと!仲悪いの!?」

リフェル?ケイリーじゃないの?そう質問したかったが、今の2人はお互いに対してかなり苛立っていたから、火に油を注ぎそうだったので、やめておいた。

「こいつがアタシを追放したのさ。確かに小さい頃のアタシはよくヤンチャして怒られてたさ、でも力を使えないってだけでアタシを追い出した!」

「仲間を守れない者を切り捨てるのは至極当然のことでは?追放だけで済んでいることに感謝して欲しいものです。」

彼らの良い面をケイリーしか見てないけど、なんだかすごく闇が深い面を見てしまったような気がする。

「早く案内をしなさい。」

ケイリーは深くため息をすると、部屋に入っていった。うちも後を追った。彼を追い越してケイリーのすぐ隣に来た。

「ねぇ、彼は何なの?」

「長の右腕。馬鹿げてる掟に忠実なやな奴だよ。」

「長の右腕?うちと同じくらいに見えるけど。」

「あぁ見えて万年は超えてるよ。それにあいつは1番の戦士だ。だから逆らえない。」

いくつか部屋があり、どの部屋にも患者さんが数人いた。症状の種類分けがされているのだろう。ある部屋に入ると、いくつかカーテンが見え、その裏にはステラ姉が、反対側のカーテンの裏にはお兄ちゃんがいた。他にも何人かいた。どの人も黒い刺青のような黒い筋が走っているので、きっと黒魔術に侵された人たちなのだろう。お兄ちゃんは目を開けたまま虚ろだった。ステラ姉は包帯が巻かれているものの、槍の持ち手と刃先が体から突き出て、そこから血が滲んでいた。

「なるほど。」

彼はステラ姉に近づくと、槍を持った。すると、彼の手が光り、その光が波紋のように槍に広がっていった。槍が徐々に小さくなっていく。

「すごい……。」

太めの針金くらいのサイズになると、すんなりと抜けた。そして小さなカバンから見たことの無い液体が入った小瓶を取り出し、傷口と口の中に流し込んだ。

「これで終わりです。これはこちらで処分しておきます。」

「ねぇ、なんで、どうやって?お兄ちゃんも、元に戻せない?」

「我々ができるのは弱らせることだけ。時間が経ってしまうと元に戻ってしまいます。完全に取り除くには、同じ黒魔術を扱えるものだけです。はぁ、あなたが力を使えれば、もっと早く治療できたのに。」

彼はケイリーを睨みながら言った。

「生まれつきなんだ、仕方ないだろう?」

ケイリーが苛立ちながら言った。

「まぁ、わたくしを呼んでいただいたおかげで生き残りのライダーに出会えたということは評価します。」

ケイリーは鼻を鳴らし、彼の顔なんか見たくないと言わんばかりにスタスタと部屋を出ていった。

「ところで、なぜあなた方はライダーに?」

「え?さぁ?グランツとグレイヴに聞いて。」

「グレイヴ?グレイヴがいるのですか!?」

不思議な青年は初めて感情を出した。

「え、えぇ。どうかしたの?」

「かつての……英雄のドラゴン……もしかしたら、勝てるかもしれない。」

「え、何?説明してよ。」

「……ここではお答えできません。あなた方が完治したら、もう一度あの森にいらしてください。」

「は、はぁ?」

「それと、その耳飾りの石、一体どこで手に入れたんです?」

「えっと……いや、あんたまともに説明してくれないからうちも教えてあげない。」

「はぁ。分かりました。では後ほどお聞きしましょう。」

そう言うと彼は出口の方へ向かった。

うちはステラ姉の方を見た。心なしか穏やかな表情になった気がする。ひとまず安心……だけどお兄ちゃんは……本当に元に戻らないの?もう元の暮らしに、戻れないの?

「お茶でも飲むかい?気分が良くなるよ。」

いつの間にかケイリーが部屋に戻ってきていた。

「ありがとう。でも要らない。少し1人になりたい。」

「そうかい。」

ケイリーは部屋を出ていった。うちはすぐそばの椅子に腰掛けて、ただなにもせずにぼーっとしていた。そして気づけば、眠りについていた。

何時間経ったか分からないけれど、体中にビリビリとした痛みが走り、思わず目を覚ました。

「いたたた……うーん。」

「大丈夫か?」

「え、あれ!?ステラ姉!?」

ステラ姉は目を覚まし、うちの顔を覗き込んでいた。

「良かった……本当に。」

「ここは?」

「ハイリル村って言ってたわ。」

「ここに村なんかあったのか。」

「知らなかったの?」

「あぁ。ところで、アデラは平気なのか?」

「うち?平気だけど。」

すると、体にビリビリと痛みが走った。疲労が溜まってたのかな。

「平気じゃなさそうだな。よく私の攻撃を生き延びたな。」

「覚えてたの?」

「薄らとな。視界はある程度見えていたんだが、頭が理解できていなかった。アデラの姿が、モヤがかかっているような感じがして……体が勝手に動いてしまっていた。目を覚ましたら、ほとんど記憶が無くなっていた。」

「そうなの……ステラ姉。本当に無事でよかった。それと、ありがとう。何度も何度も、助けられて。うち、何もできなかった。」

「おいおい、私に何度言わせるつもりだ?」

「え?」

「私は騎士団だ。民を守り、救うのが勤め。それと……お前は子供だ。大人を頼れ。無理して力になろうとしなくていい。できるようになったらでいい。借りはいつでも返せる。それに、私も助けられた。色々とな。」

「ステラ姉。ありがとう。ねぇ、ステラ姉が完治したら、お別れ?」

「なにが?」

「ほら、お兄ちゃんも助けたし。ステラ姉はもう……その。」

「あれで助けた?馬鹿たれ。今度は黒魔術を取り除く方法を探すだろ。」

「協力、してくれるの?」

「当たり前だろ。で、次はどうするんだ?」

「ステラ姉を助けてくれた人が、迷いの森に来いって。もしかしたらその人が何か知ってるかもしれない。」

「なるほど。怪しい……と言いたいところだが、行くあても無いし仕方ないか。グランツの容態は?」

「まだ。それにステラ姉だってまだ万全じゃないわ。しばらくここで過ごしましょ。」

「そうだな。」

「少し探索してくる。」

「あぁ。」


一旦外に出た。じっくりと村を見ていなかったが、まじまじと見ると、本当に幻想的な村だった。村全体にはホタルが飛び回って星のようだった。ケイリーの病院と一体化した巨木の周りには、半円を描くようにして家が均一に並んでいる。そして、石が集まってできた道の両サイドに、木の実の形をした小さな灯篭が並んで、暖かなオレンジ色の光で足元を照らしていた。その灯篭は巨木にもまるで実っているかのように吊るされている。村の中には小さな川もあり、よく見ると村を一周していて、小さな橋や畑があった。

病院の裏はどうなっているのかと、ぐるりと回って確認した。そこには、たくさんのお墓があった。ちょうどケイリーが1番手前にある1つのお墓に花を添えていた。

「ん?あぁ、アデラだっけ?」

ケイリーが立ち上がって、傍に来た。

「あれ?自己紹介したっけ。」

「アンタのドラゴンがそう呟いてたよ。」

「グランツの声が聞こえるの!?」

「アタシみたいな一族はドラゴンの声が聞こえるのさ。」

だからさっきの青年も、ティルキスと意思疎通ができたのか。

「ここ、墓地よね。助からなかった人たち?」

「正しくは、黒魔術によって亡くなった人たちさ。色んな病や怪我を治してきて、唯一治せなかったのが、黒魔術さ……着いといで。」

そう言うとケイリーがさっき花を添えた小さなお墓の前に立った。お墓には、『サラ』と名前が刻まれていた。

「最初に、ここで黒魔術によって亡くなった女の子さ。500年か、600年くらい前か……小さな兄妹がここにやってきたのさ。その妹さんが、このサラって子だよ。」

ケイリーがお墓の前で屈むと、まるでそのお墓を子供の頭を撫でるかのように、優しく撫でた。

「……もしかしたら会ってるかもしれない。」

そう呟くと立ち上がり、うちを見た。

「どうしたの?」

「もう1人のライダーは、大丈夫かい?」

「ステラ姉なら、もう目を覚ましたわ。」

「そりゃ良かった。少し話しを聞きたいのさ。」

ケイリーは巨木に手を当てると、手が少し光った。すると、その巨木がうねるように動いて、扉が現れた。

「わぁ。」

「ただの裏口さ。」

そう言うと病院に入った。うちも後を着いて行った。

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