秘密の里
ステラ姉の元に来ると、何か絵を描いていた。
「なに描いてるの?」
「ん?あぁ、まだ崩壊していないダヴィンレイズ王国だ。徐々にあの時の景色を忘れていくのが嫌で、絵は得意じゃないが、残しておこうと思ってな。それで?その人が私を治してくれた人か?」
「ケイリーだ。アタシは薬をやっただけで、治しちゃいないよ。治したのは、知り合いさ。気分はどうだい?」
「痛みはまだあるが、嘘みたいに体が軽い。」
「だろうね、手術も必要ないくらいには強力な薬さ。逆に強力すぎて、人や小さな動物に使えばおじゃんだ。で、聞きたいことがあるんだ。」
「私にか?なにを?」
「レイサー。」
ステラ姉がその言葉を聞いた途端、目の色が変わった。
「知ってるだろ?アタシの弟子で、ティルキスのライダー。」
「通りで、どこか聞いたことのある口調だと思った。あぁ。もちろん知ってる。」
「よかった。彼について色々と聞きたいのさ。」
「ねぇ、レイサーって?」
「ドラゴン騎士団の医者だ。彼は青龍部隊ではあったが、部隊の仕事はせず、医療に勤しんでいたんだ。そして、彼のドラゴンは誰も見たことがなかった。不思議な奴だった。私は嫌いだったがな。変態だったし。」
ステラ姉が説明をした。
「……アイツがそんなことするかね?数百年でそんな変わっちまったのかい?」
「いや……ただ、好奇心だ。私の友達に、黒魔術を扱えるライダーがいた。レイサーは彼に対しても、私と同じ感情を向けていた。むしろ、私以上だった。」
「それはアンタが初めての女ライダーだったからだろうね。そして黒魔術を扱えるライダーには、黒魔術を消し去るヒントが得られると思ったからだろう。」
「なぜそんなことをする必要が?ライダーは黒魔術に侵されても、完全に消すことはできないが、生活に支障がなくなるくらいには浄化されていく。」
「レイサーが治したいのはライダーじゃない。人間や他の生き物さ。アイツは黒魔術に侵された妹のサラを治したがっていた。結局、助けられないと判断して、これ以上苦しんで欲しくないからと、自らの手で殺めてしまったけどね。」
「それがお墓?」
「そうさ。そしてアタシに弟子入りして、大人になって、ティルキスに選ばれたってわけ。」
「なんで、教えてくれなかったんだ……。」
「アイツは同情されるのを嫌うからね。」
ケイリーが苦笑いをしながら、でも懐かしむように言った。
「レイサーはティルキスを通して交流していなかったのか?」
「最初はしてたが、100年くらい忙しい時期があったみたいでね、ずっと交流してなかったらか、ティルキスが話しかけても伝わらないってさ。おそらく、レイサーはティルキスの声が聞こえなくなってしまったんじゃないかと思ったのさ。」
「ティルキス……ドラゴンの声が?私も、今グレイヴの声が聞こえないんだ!何か知っているか!?」
「聞こえなくなるって言うのは初めて聞いたが、ずっと心を通わせてなかったら、そうなるんじゃないのかね。」
「どうしたら、グレイヴと喋れるようになるだろうか。」
「さぁね、ドラゴンとライダーについて、結構詳しいんだけどね〜さすがにそれは聞いた事無さすぎて、悪いね。」
「いやいいんだ。なぁ、そんなに詳しいなら、なんで私はドラゴンに選ばれたのか、分かるか?」
「あ、それうちも知りたい!」
なんか、置いてけぼりだったの寂しかったし。
「あぁ、それね。もちろん知ってる……が、残念ながら里長からそういうことは外で話すなって言われててね〜。話しちゃってもいいけど、多分消される。悪いけど、里長本人から聞きな。」
「その里が、迷いの森に?」
「そうさ。絶対に見つけることができないようになってる。見つけるには、向こうが、こちらを見つけてくれるのを待つだけ。だから、我らの言葉で共通の合図を送り合う。発音は間違えたらダメだよ。」
「よしアデラ、今すぐ行くぞ!」
「え、今!?」
「当たり前だ。答えが知りたい。」
そう言うとステラ姉はベッドから降りようと動いた途端、咳き込んで苦しそうに胸を抑えた。
「くっそ。」
「別に完治してるわけじゃないよ。しばらくは休みな。」
「うちもなんだかすごく疲れた。」
「お前は休めよ。ここに来た時休んだのか?」
「いや……。」
「私は慣れてるからいいが、お前は短期間で頑張りすぎだ。」
「わ、分かったわ。」
「隣のベッド使っていいよ。アンタも一応、患者だからね。」
「ありがとう。」
ベッドに寝転がると、無意識のうちに眠ってしまった。
酷い悪夢を見たような気がする。どんな夢だったかは覚えてないけれど、なんだか……存在を否定されたような、そんな感じがする。苦しい……体が鉛のように重たい。
「う、うーん?」
もう朝……か。
「あぁ!!よかった起きた!」
「な、何?ケイリー、なんでそんな慌ててるの?」
「あんた死にかけたんだよ!突然呼吸も心臓も止まっちまったんだ!」
「え?嘘。」
「ステラがすぐに気づいたから何とかなったけど、あのまま気づかなかったら死んでたよ。」
そんなに限界を迎えていたの?自分のことなのになんで、気づかなかったの?
「ステラ姉は?」
「外にいると思うよ。アンタのこと、めちゃくちゃ心配してた。」
なんだか嬉しかった。初めて会った時は、うちを遠ざけて…それが遠い昔のように感じる。
「グランツは大丈夫?」
「もう既に完治して、アンタが眠っている間ずっとソワソワしてたよ。」
「お兄ちゃんは……。」
「残念だけど、変わらずさ。」
「そう……。」
「ステラとグランツに会いに行ったらどうだい?まだ心配してるはずだよ。グランツは気づいてるかもしれないけどね。」
そう言いながら出口の方向を親指で指した。
「うん。ありがとう。」
外に出てみると、明るかった。ステラ姉は小さな川のそばに座り込んでいた。隣には、グレイヴもいた。よかった、元気になったみたい。
ステラ姉はうちに気づいたのか、後ろを向いた。
「あ、アデラ!?目を覚ましたのか!」
「何が何だか分からないけどね。」
「ったく、心配かけやがって。無事でよかった。」
「あはは……うち、どのくらい寝てた?」
「数えてないからあまり分からんが、だいたい1ヶ月くらいか?」
「そ、そんなに……。」
アデラーー!
ドタドタと走ってくる音が聞こえてくる。見ると、グランツが猛スピードで走ってきていた。
「グラン……ぐぇ!」
グランツがうちを押し倒すと、犬みたいにベロベロと舐めてきた。
「わ、わかったわかった!わかったから!」
うちは起き上がると、グランツの鼻先に自分の額を着けた。
「グランツ、あなたも無事でよかった。」
君の心がだんだん弱くなっていくのを感じてからずっと心配で心配でたまらなかったんだ。
心配かけてごめんね。翼は大丈夫なの?
うん!バッチリ飛べるよ!さっきもずっとでっかい木の周りを飛び回って、アデラに叫んでたんだ!
そ、そうなの……それは、あ、ありがとう。
ったく、うるさくてたまらん。もう少し黙らせられないのか。
と、グレイヴがうちに文句を言う。
夜中ずっと叫んでてあたしも眠れなかった。
今度はティルキスが降り立った。
ご、ごめんね2人とも。
視線にハッとして、見ると、ステラ姉がうちらを見ていた。悲しげな感情が流れてくる。
「楽しそうだな。」
「あ、ごめんステラ姉。」
「いや、いいなって思っただけだ。さてと、アデラ、調子はどうだ?」
「もうめっちゃ元気よ!ねぇ例の里に行きましょ!」
「まだ準備をだな……」
「先にケイリーに話してくるーー!!」
そう走りながら叫んだ。
そうして荷物をしっかりと準備して、ケイリーに挨拶した。
「世話になった。」
「ありがとう。お兄ちゃんをよろしくね。」
「お安い御用さ。いいかい、我らの一族は、一般人なら大丈夫なんだが、里長やその右腕といった何か役職を持ったリーダーには気をつけなさい。良い奴らだが……あまり信じない方がいい。」
「わ、分かったわ。」
「それとステラ、もしレイサーに会えたら、よろしく言っといてくれ。」
「どうかな。あいつがどこにいるのか知らんし。」
ステラ姉が苦笑いしながら言った。
ティルキスは一緒に行かないの?
あたしはいい。
どうして?レイサーに会えるかもしれないのに。会いたくないの?
確かに会いたいよ。でも、あたしたちにはお互いやることがあるから。
そう。分かった。じゃあまたいつか。
うん。いつかね。
うちらはドラゴンに乗り、空へと飛び立った。村の人たちが見送りに来てくれていた。いい人たちだったな。
「ステラ姉、顔色悪いけど大丈夫?」
「上昇した時の圧でちょっとな。」
「え、大丈夫なの?」
「あぁ、薬を何本かくれたんだ、アデラもいるか?」
「うちはいいよ。ピンピンしてるからね!」
「……そうか。」
そして再び霧の深い迷いの森へと降り立つと、うちがまた合図を喋った。あの時と同じように、警備員らしき人が現れ、ステラ姉を治療してくれた青年が現れた。そしてまた、うちを疑っていた。
「随分とかかりましたね。あの薬は1ヶ月もかからないはずですが……。」
「ちょっと色々あったのよ。」
「お前たちについて色々と聞きたいことがある。それと、ドラゴンとライダーについても。」
「それは里でお話しましょう。着いてきてください。」
気づくと彼らに囲まれていた。ステラ姉はため息を着くと、グレイヴから降り立った。うちも降りる。
不思議なことに、彼らが進むと霧がまるで道を開けるように晴れていった。今まで見てきたここは、木の影が僅かにしか見えなかったが、地面や木の幹に花が青く光る植物が生えていた。気づけば、空から見えていた、飛び進んでも決してたどり着けなかった巨大な木がもう目と鼻の先だった。進行方向には洞窟があった。
「こちらが入口です。」
洞窟の中の壁にはキラキラと青く光る石がたくさんあった。まるで星のようで、松明が無いのに明るかった。そうしてしばらく歩くと、植物でできたカーテンが着いた出口が見えてきた。使いの人達が両側から開けた。外の光に慣れるために何回か瞬きをする。
「ようこそ!我らの里、トゥラファへ!」
圧巻だった。今まで見てきたどの景色よりも美しい。本当に神話の世界みたいだった。ハイリル村のケイリーの家みたいに、木の下に家があったり、木や丘の中がそのまま家になっているものもあった。そしてとにかく広い。里を囲う全ての木には果物が実り、里の真ん中には大きな川が流れ、木製の橋がいくつもあり、橋を渡った先にも家がたくさんあった。それにあの巨木に入口があった。そして何より1番驚いたのは……
「え、は?……み、みんな?」
ガクッとステラ姉が膝を着いた。
『おい!あれ司令官じゃ?』
『ほんとだ!生きてた!おい皆!司令官だ!精鋭部隊の!』
『なんだなんだ!?』
『誰か陛下呼べ!』
四方八方から声が聞こえてくる。ステラ姉は片手で目を抑えながら涙を流した。たくさんのドラゴン、その数だけいるライダーたち。
「ステラ姉……良かったね。みんな生きてたよ。」
そしてあっという間に囲まれた。
「では長に話をして参りますので、ごゆっくりと。」
突然大きな影ができた。見上げると、グレイヴよりも大きな赤いドラゴンが降り立った。角が頭から横下に曲がり、ねじれながら口先まで突き出ていた。
「本当に……お前、なのか?」
ステラ姉がその声に反応してサッと顔を上げた。
「グランク……おじさん?グランクおじさん!」
ステラ姉がグランクという名の外見は中年くらいの人に抱きついた。
「あぁ良かった……本当に、無事でよかった。」
その人も涙ぐんでいた。
「わぁぁぁぁ!!司令官ステラ!よくご無事で!」
突然の声がする方に顔を向けると、小柄で、望遠鏡が組み合わさったゴーグルを頭に着けた青年がいた。
「サンドラ!」
「あ、ちょ、ちょっと待っててください!」
そういいながら彼がぴょんぴょんと跳ねながら後ずさると、茶色く、前足が短く歪んだドラゴンに飛び乗り、巨木の中に消えて行った。そしてしばらく待つと、とても美しい、蝶の翼を持った紫色のドラゴンを連れて戻ってきた。紫色のドラゴンから降り立った青年は、他のライダーと比べてやせ細り、目の下にクマができ、虚ろになって髪もボサボサだった。彼がきっと、ステラ姉の初恋の人で、黒魔術を扱えるライダーなのだと悟った。
「ほら早く早く!」
「サンドラ、僕は今外に出る気分じゃ……ない。」
「フリッグ!!」
「え……え?夢じゃ……無いよね?」
フリッグという名の青年はサンドラを見、サンドラはフリッグを軽く小突いた。
「その眼はどうしたのさ?」
「あなたこそ片腕どうしたの?」
「今までどうやって?一体どこに…」
「それはこっちのセリフ!なんでここに…」
お互い早口で言葉が重なり合って言い合った。そして息を切らすと、一息ついてもう離さないと言わんばかりに思いっきりハグをし、大泣きした。
「死んだかと思った!」
「僕もだよ!ずっとずっと、君を思わなかった日なんて1度もなかった!」
「100年ぶり……ただいま、フリッグ!」
「おかえり、ステラ!」
四方八方から喜びや希望を感じた。これからきっと、いい方向に向かってくれる……そう思えた。
『ドラゴン騎士団第2章 黄金の翼』完結です!ここまでお読みいただきありがとうございます!
第3章を現在執筆中です!
普段はドラゴンのイラストを描いています
→X(旧Twitter) カビ@KaVouivre




