精霊の竜
痛みは無い……どうなった?そう思い顔を上げると、ステラ姉の目が微かに蒼く元に戻り、腕を震わせながら力を込め、耐えていた。
「アデラ、逃げろ……」
掠れた声でそう言う。
「置いて逃げるなんてできない。」
「ちっ、まだ意識が残ってる。」
ルーシーが杖を掲げると、そこから翠色の結晶が出てきて、それを追い討ちをかけるかのごとくステラ姉に撃ち込んだ。
「さっさと殺せ!」
そう命令されてもステラ姉は堪えていたが、また目が緑色になってしまった。
アデラ!逃げるよ!
グランツがうちを無理くり背中に乗せ、飛び立った。と同時に、紅い光線が飛んできた。グレイヴの魔法ブレスだ。でも、色が緑がかっている。
「ダメよ!ステラ姉が!それにお兄ちゃんも!」
今は自分の命が大事だよ!グレイヴもおかしくなってる!
「そうだけど、おねが…」
アデラ!うわっ!
突然強い衝撃が背中に走った。いつの間にかステラ姉がエルテノ・レガーレで空を飛び、うちの首を絞めて壁に打ちつけていた。グランツの方を見ると、グレイヴに追い詰められていた。
「ステラ……姉。」
ステラ姉が武器を構えた。
アデラ!
突然、桃色の炎が飛んできた。見ると、グランツが炎を吐き出していた。でも、ステラ姉は炎に打たれても無反応だった。恐ろしい目つきだった。
「ステラ姉……おね、がい!」
ステラ姉の口から血が吹き出た。もう体力は限界なはずなのに、無理やり動かされていた。
「何してんの?さっさと殺しなさい!」
ルーシーの声に応じて、ステラ姉がもう一度武器を構えた途端、グランツが突進してきた。
「グランツ!」
グランツがステラ姉を突き飛ばし、うちの服を噛んで背中に乗せた。どうする?どうすればステラ姉は元に戻る?ステラ姉はグレイヴに乗って追いかけてきた。邪龍も次々と襲いかかってきた。
ね、ねぇ逃げようよ!
ダメ!絶対にステラ姉も、お兄ちゃんも助ける!ここで逃げたら、ステラ姉もお兄ちゃんもきっと殺されちゃう!
でも、どうするの?
今から考える!
えぇ!?
「あ〜最高!ウザったい善人ぶったライダーどもが仲間割れしちゃってる〜。」
あぁくそっ!いちいち癪に障ることを言いやがって!グランツ、回避はお願い!なにか考えるから!
わかった!
後方や、前方からはステラ姉とグレイヴが、あちこちからは多くの邪龍が追いかけたり攻撃してきたりしていた。目を細めると、あの奴隷にされた人たちを守るシールドが今度ははっきりと見えた。そして、その人たちの体から、緑色のモヤが出ているのも見えた。ステラ姉の方を見ると、ステラ姉とグレイヴからにも、緑色のモヤが倍以上出ていた。すると、ステラ姉たちの姿が消えた。これはグレイヴの魔法能力!いや、でも緑色のモヤは筒抜けだ。
グランツ、合図するから、尻尾でうちを殴ってまっすぐに飛ばして。
うん。わかった。
そして邪龍の猛攻を避け、ステラ姉たちの緑色のモヤが目の前に来た。
「今よ!」
グランツはうちを一瞬だけ浮かせて尻尾で殴り飛ばした。その勢いのまま、ステラ姉にタックルし、空中へ投げ出すと、更に蹴って距離を取り、弓矢を構えた。しかし、そんな甘くは無かった。ステラ姉が武器をこちらに向けると、刀身がさらに紅く光り、グレイヴの魔法ブレスが発射した。咄嗟に水魔法を出したが、強力なレガーレの前ではなんの意味もなく、それがもろに当たった。全身にビリビリと切り裂かられ、突き刺すような痛みが走った。グランツがうちを抱え、ステラ姉とグレイヴ、邪龍の猛攻を避けながら、来た通路に向かって必死に翼を羽ばたかせた。
「ダメ……まだ待って!」
もう限界だよ!
「お願い!うちにチャンスをちょうだい!」
……アデラが言うなら。でも1回だけだよ。
「ありがとう。」
グランツが大きく旋回し、ステラ姉たちの方へ向かっていく。ステラ姉たちもまっすぐうちらの方へ飛んできた。
グランツ、ギリギリまで近づいて。飛び移るから。
えぇ!?……わかった。
そして、衝突スレスレまで来たところで、うちはグレイヴに飛び乗った。その瞬間、グレイヴが翼を閉じて猛烈に回転を始めた。何とかグレイヴの棘にしがみついた。
回転が収まると、ステラ姉が武器を構えてこっちに向かってきた。うちもよろめきながら体勢を立て直し、ステラ姉からもらったナイフを構える。
「ステラ姉!目を覚まして!」
声をかけてもステラ姉は容赦なく武器を振るった。ナイフで防御しても、力の差は明確だった。足場も悪く、グレイヴの上に乗っているからというのもあるが、ステラ姉の武器も重く強いせいでふらつく。それでも防げるというのは、ステラ姉にまだ意識が残っているからだろうか。と、背後から気配がし、振り向くよりも先に体が反応して避けた。うちの横を突っ切ったのはグレイヴの鋭利な尻尾先だった。咄嗟に避けた影響で、大きくふらついた。その隙をステラ姉は逃さなかった。サッと軽く屈んで武器を振るった。
やばい、足なんて斬られたら終わる!避けろ避けろ!動け体!
そう言い聞かせ、ふらつく足場で無理やり足に力を込めて飛んだ。その瞬間、一気に後ろに下がり、グレイヴの尻尾にしがみついた。その拍子にナイフが落下した。
アデラ!飛び降りて!キャッチするから!うわぁ!
邪龍がグランツに集中攻撃を始めた。今飛び降りたらダメ。邪龍に食われるかそのまま落下死する。前方から紅い光が視界端から見えた。前を見ると、ステラ姉が武器をうちに向けて、レガーレでグレイヴの魔法ブレスを放とうとしていた。
「ステラ姉お願い!」
聞こえてない。うちは片手で弓に手をやり、持つと口で噛んだ。次は矢筒に手を伸ばす。その時、桃色の炎が飛んできた。グランツの炎だ。炎はステラ姉に直撃したが、軽くふらつくだけで効いていなかった。そしてまた、お構い無しにうちに魔法ブレスを放とうとした。時間稼ぎにはなった。矢を1本取り出し、弦につがえた。弓も手で支えながら口を離し、今度は矢羽と弦を噛んで引っ張った。そして、離した。と同時にステラ姉のレガーレも放たれた。
あ、終わった。
うちはぎゅっと目を閉じた……痛みが無い。恐る恐る目を開けた。
「……え?」
ステラ姉のレガーレからあのヴィーヴルが守ってくれていた。ハッとすると、左耳…いや、イヤリングの石が光り輝いていた。もしかしたら、ヴィーヴルが助けてくれるかも。
「お願い。ステラ姉を元に戻して!」
ヴィーヴルは一瞬だけこちらを向くと、声が届いたのか、まっすぐステラ姉の方へ向かっていった。ライダーの魂と魔法の塊だからなのか、ステラ姉のレガーレをものともしていなかった。
ヴィーヴルがステラ姉にぶつかると、辺りが光り輝き、ステラ姉の顔半分を既に覆い尽くしていた黒い模様が一気に消えていった。残ったのは、乗っ取られる前からあった筋だけだった。
「ステラ姉?」
「あ……あぁ?」
目の色も元に戻り、グレイヴも急に減速してその場でホバリングした。
「ステラ姉!……良かった。」
ルーシーが何か騒いでいたが、あまりよく聞こえなかった。
「手伸ばせ!」
「えぇ!」
うちは弓を背中にかけ、ステラ姉の手を握って、引っ張っぱってもらった。いつの間にかヴィーヴルはもうどこにもいなかった。
「うっ……くそ。脱出するぞ。アデラのお兄さんは?」
ここだよ。
「グランツ!あんた最高ね!」
グランツが両手でお兄ちゃんを抱えていた。うちはグランツに飛び乗ると、来た道に向かった。すると突然、真下から邪龍が飛び出し、うちらは大きくよろめき、ステラ姉たちと分断されてしまった。後ろからも邪龍が猛スピードで追いかけてくる。絶対絶命だ。
グランツ!一旦離れて!
「アデラ!」
「ステラ姉は先に行ってて!」
うちは手話で集合場所を示した。ステラ姉は頷くと、通路に入っていった。
どうしよう。天井に風穴を空けて逃げる?いや、そんなことをしたら奴隷にされている人たちが瓦礫で潰されてしまう。
通路は完全に邪龍によって塞がれてしまっていた。
「もう逃げられないわよ?」
ルーシーが邪龍に乗っていた。フロルとガーパスも。
グランツ、お兄ちゃんをこっちに。
う、うん。
うちはお兄ちゃんを掴むと、グランツの背中に引っ張り上げた。
ねぇ、どうする?
一か八かだけど、通路に突っ込んで。
た、食べられちゃうよ!
ぶつかる瞬間に、尻尾を光らせるの!もし動かなかったら、通り抜ける時に息を止めて。
きみがそういうなら、わかった。
グランツが方向転換をし、邪龍に向かっていく。邪龍は大きく口を開けていた。
「今よ!」
うちはグランツの閃光で目がやられないようぎゅっと目を閉じた。一瞬、甲高い悲鳴が聞こえた気がするが、何がどうなっているのか分からない。酷い揺れで必死に鞍を掴む。お兄ちゃんも落ちないようしっかりと支えた。恐る恐る目を開けた。




