救出作戦
「さてと、おそらくこれが教会だな。」
七色に輝くステンドグラス。きっとそうだ。薄暗い、不気味な雰囲気が漂い、固唾を飲み込んだ。
「いよいよね。お兄ちゃん、絶対に助けるから。」
そして、元の平和な暮らしに戻る。
そしてうちらは教会の中へと入っていった。教会は他と比べて崩壊が少なかった。
「このステンドグラス……。」
「どうしたの?」
ステラ姉は真正面最奥にある他と一段と大きなステンドグラスを見ていた。大きな蒼い星を抱えるドラゴンのステンドグラスだった。ドラゴンの周りには、翠色の炎の模様が散りばめられていた。
「翠色の炎は無かったが、これは、ダヴィンレイズ王国の玉座の間にもある。それに、騎士団の団旗だ。」
「え、嘘。どっちが先なの?それか、元々1つだったのか。」
「分からない。ひとまず、入口を探そう。あいつが正しければ、ここにあるはずだ。」
にしても、奴らの仲間の気配が1つも感じない。もしかして、テルスしか知らないのかも。
しばらく教会中を漁った。
「はぁ。見つからないわね。グランツ、何か見つけた?」
うぅん。何も無いよ。
「ステラ姉は?」
「何も。あぁ、アデラに渡しておきたいものがある。」
「なに?」
ステラ姉がうちに近づくと、鞄から金属の塊を取り出した。
「これは?」
「ナイフだ。」
そう言い、鞘からナイフを抜く。
「え、ステラ姉のは?」
「私のは元からある。新しく作ったんだ。弓矢だけだと、近づかれた時、心もとないだろ。」
「いつの間に……いいの?」
「あぁ。」
うちはナイフを受け取り、まじまじと見つめた。鞘にはドラゴンの意匠が彫られていた。
「ありがとう。大事にする。って、金属の加工なんてできたのね。」
「少しだけだがな。」
突然、ガコンと大きな音が鳴り響く。すると、中心にある台座が動き出した。
「えちょ、なに?」
台座の下は地下が続いていた。
ご、ごめん、暗くてよく見えないから、グレイヴにこの変なものに火をつけてもらったら、なんか動いたんだ。
見ると、台座の前にある大きな燭台に火が灯っていた。
「なるほどね。燭台がスイッチになってたわけね。」
「グランツがやったのか?」
グランツが言ったことをそのまま伝えた。
「火を使わなくともお前は尻尾を光らせられるんじゃなかったか?まぁ、おかげで見つけられたが。」
「ここまで来たのに、敵が来ないなんて……気配も感じないわ。」
「警戒は怠るなよ。」
「もちろん。」
うちらは慎重に地下へ進んだ。地下は何も整備されておらず、凍った暗い洞窟が先へと続いていた。
「グレイヴ……通れないか?」
グレイヴが首を横に振った。
「仕方ない……グレイヴ、脱出した時のことを覚えているか?10年くらい前に。覚えていたら、ウィケルに行って城の真上に行け。一か八かだが、私が空に向かってレガーレを使う。それを合図に来てくれ。」
グレイヴがこくりと頷き、教会の外へ向かった。
「空間が歪んでいても、正確な位置が合えばたどり着けるはずだ。」
ステラ姉は少し黙った。
「どうしたの?」
「アデラ、言いたいことがある。」
「なに?」
「ありがとう。」
「えっ……と?」
突然のことで空いた口が塞がらなかった。
「命懸けではあったが、あんたとの旅は、なんだかんだ楽しかったんだ。もしあの時アデラに会っていなかったら……きっとそのまま、何もしない、無力な私のままだった。」
「そ、そんなこと……。」
「いいか。私にとってあんたは、私の全てだ。絶対に生きてお兄さんと共に帰るんだ。そしてピク村を護る龍騎士になれ。」
「ステラ姉……それは、お互い様。うちもよ。皆が、ほかのライダーがいないからって、自ら死にに行くような、無茶な真似はしないで。」
「……あぁ。さぁ、行こう。」
「うん。」
地下は洞窟のように岩石と氷で覆われ、一本道だった。通路は敵の気配どころか黒魔術の痕跡1つも見当たらなかった。
「プランはこうだ。まず私とお前たちで二手に別れる。」
「えぇ!?」
「私はグレイヴと合流する。その間お前たちはお兄さんを探す。そしてそのまま私もお兄さんを探す。どちらかが見つけたらグランツとグレイヴで意思疎通をして合流する。」
「分かったわ。」
「絶対に見つかるなよ?」
ステラ姉が強い口調で言う。
「も、もちろんよ。」
しばらくお互い無言で歩き続けた。
「そうだ、侵入の前に幹部について話しておこうと思う。」
と、突然ステラ姉が切り出す。
「お、気になってた。」
「幹部は全部で4人。強さ順で話すとまず、テルスだな。あいつは幹部のリーダーだ。知能の高さ、戦闘能力諸々他の幹部よりも優れているが、ほとんどの時間ダレスの右腕として常に行動を共にしているから、遭遇の心配はないだろう。仮に遭遇したら、逃げた方がいい。」
「え?どうして?仲間っぽいけど。」
「それは他の仲間がいない時だけだ。ここなら、おそらく本気でかかってくるだろう。」
「でも、うちは戦ったことあるよ?2度も。」
「さっきも言っただろ。ここなら裏切ることもできないし、手を抜くこともできない。」
たしかに……コンヘラ地域の時とか、明らかに手を抜いてた。
「分かった、ちゃんと逃げる。」
「よし。次にルーシー。女幹部だ。基本的に遠距離戦が得意で、魔法の力を打ち消してくる。ずる賢いから注意しておけ。あと、言動がキモイ。」
わぉ、ストレート悪口。
「対峙した時、何か注意点はある?」
「お前の能力的に、奴にも会ったら逃げた方が吉だ。遠距離のやつは大抵近づければ完封は容易だ。だが、お前自体弓使いで、奴は瞬発力が凄まじいから近づいても油断ならん。」
「わ、分かった。」
「次はフロル。テルスには劣るが攻撃スピードがかなり早く、持久戦が得意だ。頭が弱いから、基本一直線の行動をとるが、邪龍と組み合わさるとかなり厄介だ。あと、鼻がいい。こいつに関しては姿を消していても匂いで特定される。」
「見つかったらどうしたらいい?」
「奴に関しては逃げても無駄だ。いかんせん素早いからグランツが走っても追いつかれる。戦闘は免れない。まぁ、動きが単純だから、素早さに慣れてしまえば一番楽だな。」
「ふーん。」
「最後にガーパス。戦闘能力はあまりない1番背の低い幹部だが、1番技術がある。城内の仕組みを全部作ったのはあいつだ。あいつは戦闘能力よりも技術で完封する。見つかったら1番厄介なのがガーパスだ。」
「どんなことをしてくるの?」
「何もしてこない。」
「え?なんて?」
「だから、何もしてこない。」
「じゃあそんなに心配しなくてもい…」
「だが、戦わずして完封してくる。言っただろ、見つかったら一番厄介だと。最悪の場合何も出来ず捕えられる。」
「な、何をしてくるの?」
「奴にとって自分以外は全員研究対象。自分の主であるダレスに対してもな。だから、何もせずにじっくりと相手を観察し研究する。何一つ弱点を見せていないのに、なぜか奴はそれを理解する。そして何も出来ないようにする。」
「じゃあ、観察中に逃げればいいんじゃない?」
「奴は自由自在に城内を操れる。城が奴自身と言っても過言じゃない。だから、見つかったら逃げられない。おまけに他の幹部と比べて明らかに邪龍を呼び出す量が桁違いに多い。そのせいで戦闘はグダって体力を消耗するだけ。」
「う、うわ〜……絶対会いたくない。」
「ルーシーとガーパスにだけは会うなよ。見つかれば私も見つかる。」
「え、なんで?」
「広範囲に魔法を打ち消す黒魔術の波紋を使うからだ。そうなると、姿が消せなくなる。」
「分かった。気をつける。」
そうして計画を何度も確認したり、グランツとうちで魔法の練習をしながら歩き続けた。道中下り坂があった。多分山を降りたのだろう。気づけば氷は無くなり、凍えるような寒さも消えていた。
休憩を挟みながらさらに進んでいると、ステラ姉の呼吸が荒くなっていた。
「ねぇ、大丈夫?」
「すまない、少し落ち着きたい。」
「分かった。」
ステラ姉から計り知れないほどの恐怖心とトラウマを感じた。うちも、たまらなく怖い。殺されるかもしれない。それに、もしかしたら黒魔術の影響が出ているのかもしれない。うちは、何も感じないけれど。
少し休憩を挟み、さらに歩き続けると、行き止まりに着いた。1つの岩の周りから、光が差し込んでいた。きっとそれが入り口だ。ステラ姉が深呼吸をし、口に人差し指を当てて、静かにするよう指示した。そして壁をじっと見ると、目がオレンジ色にうっすらと光った。体温を見通す魔法、タンニズアイだ。うちも同じようにした……2人いる。壁から少し声が聞こえてきた。
『なぁ、幹部の中で誰が1番マシ?』
『っぱテルス様だろ。お前テルス様の部下だろ?羨ましいよ。』
『テルス様、かなり厳しいぜ?』
『厳しいだけならまだいいさ。俺のところはフロル様なんだが、この前ヘマした仲間を転身術で生きたまま貪り食われたぞ。』
転身術?一体なんだろう。
『マジかよ。じゃあルーシー様とガーパス様は?』
『ルーシー様だな。あの体、最高すぎる。』
『気持ちは分かるが、ルーシー様は気に入られても嫌われても地獄だぞ。他の幹部なら気に入られさえすれば命の保証や最低限の暮らしの保証はしてくれる。だがルーシー様は……なぁ?最悪コレクションされる。』
『いいじゃねぇか。あの魅惑なボディにペットみたいに扱われるって最高だと思わないか?』
『お前頭ん中花畑だな。俺は元ルーシー様の部下だったが、気に入られたやつができたとき、突然仲間に顔を合わせなくなった。そのまま行方不明だよ。』
『ふーん。じゃあガーパス様は?』
『もっと無理だね。1番力が弱いお方だが、2番目に功績を残しているお方だ。まだ入りたての時はガーパス様の部下だった。でも、家族が研究対象にされてさ……。』
『あー、なんか、ご愁傷さまだな。なんで俺たち、黒魔術を扱えるんだろうな。』
『さぁな。』
『あーぁ、この際死んじまった方が楽だよなぁ……。』
彼らは、生まれが違ったら、黒魔術を扱えても良い人になれたのかな……ステラ姉の初恋の人みたいに。その人も、黒魔術を扱えたみたいだから。
『おい、お前たち、ここで何をしている。』
もう一人がやってきた。
『あ、休憩時間なので。』
『休憩時間は終わりだ。来い!』
『『ぎょ、御意。』』
なんだか、可哀想。
「チャンスだ。行くぞ。」
ステラ姉はレガーレで姿を消した。うちらも貰った石で姿を消す。そして、光が差し込んでいる岩を退けると、慎重に突入する。誰もいないようだ。城内は岩造りで薄暗く不気味だった。念の為、隠し通路はもう一度隠しておいた。
「また後で。幸運を祈ろう。」
「えぇ。そっちもね。」
うちはグランツに乗って慎重に進んだ。




